【FA時評⑤】グローバル規格の功罪

気候変動問題の解決に向けてカーボンニュートラルへの取り組みが国際的に進められている。その一環として、自動車エンジンの電動化や原子力発電の活用が挙げられる。この取り組みは先進国を中心に持続可能な社会の実現を目指すものとして推進されているが、後進国では依然、森林の伐採や焼き畑農業など、こうした取り組みに逆行する動きも聞かれる。何十年も先のことを考えるより、今日生きることが優先するからで、これを先進国の論理で一概に悪いと責められない。ましてこうした取り組みは規格や条約で決められたわけではなく、努力目標であるからだ。

1980年頃から日本でもISO(国際標準化機構)の品質管理システムの国際規格「ISO9000シリーズ」の取得が各企業で取り組まれ始めた。70年頃から英など欧州を中心にすでに品質保証システムの運用と評価の指針として活用が始まっていたが、日本では各企業が独自の品質管理システムを確立していることもあり、こうした動きへの反応は鈍いところが多かった。

ところがその後、輸出立国の日本にISO9000が大きな壁として立ち塞がる。欧州を中心にISO9000の認証を取得した企業を、取引するための条件とするところが続出したからだ。日本企業の製品品質の良否ではなく、ISO9001を取得しているか否かが取引開始の条件となりはじめた。ISO9000はマニュアルの有無が大きく求められると言われ、同じ品質や作業工程でも、その根拠がマニュアルで示されないと認証されない。申し送りや慣例などで行われてきた日本の取り組みでは不完全ということになる。これにより輸出企業を中心にISO9000の取得への取り組みが一挙に進み、製造業だけでなく非製造業でも取得企業が続出した。輸出していない企業でも、ISO9000の取得が企業として一定レベルの品質に達して活動している証としてカタログや名刺などにも明記し、新規の取引開始の条件として求められることも多くなっていた。これに伴い、ISO9000の取得を審査する第三者の認証機関が業種や業界ごとに国内外で数多く出現し、取得審査や更新審査の費用も巨額に達している。

その後、環境規格のISO14000シリーズも運用が始まったが、ISO9000で国際的に出遅れた日本はいち早く認証取得に動き、製造業からサービス業、第1次産業にまで取得が広がった。

しかし現在、ISO9000の更新審査を中止し、認証を返上する企業が増えている。ISO9000を取得したことでマニュアルなどが社内に整備され、レベルが確認できたことや、国内外の取引でISO9000の取得が条件として重視されなくなってきたこと、さらには、更新維持費用の負担も重くなってきたことなどがあげられる。

こうした動きの後の93年からCEマーキング制度がスタートしている。EU(欧州)が定めた安全性能基準で、EUへの製品輸出にはあたっては、この基準に適合することが求められるようになった。機械指令、EMC指令、低電圧指令など、製品ごとに定められているが、最近は環境性能基準への適合を求める指令が増えている。その代表としてRoHS指令がある。EUでの化学物質管理などに関する規制で、2006年から施行されている。鉛など環境有害物質の使用を制限するために、製品に有害な物質が含まれていないことを証明することを求めている。製品の完成は1社で完結することはほとんどないことから、証明するためには取引先すべてが対象になる可能性があり、メーカーにとっては大きな負担となっている。

さらに、CEマーキングの陰の部分も気になる。その一つがCEマーキングへの対応は第三者による認証のほか、自社で対応していることを公表する「自己宣言」も認められているからだ。欧州企業に聞くと、自己宣言しているというところが非常に多い。従って認証の証明書も有していないことになる。認証取得のために膨大な費用と時間をかけて取り組んでいる日本企業に比べ、その認識のギャップには驚く。

ISO9000の取得でマニュアルを作ることの重要性に気付いた日本企業であるが、CEマーキングの動向を見ているとその果たす役割はどこにあるのか疑問に思えてくる。うがった見方をすれば、貿易障壁を設け、自エリアの優位性を確保しようという姿勢にも感じる。

気候変動問題同様、環境問題は国際的な課題だけには避けては通れないものの、できるだけフェアなルールで取り組んでいく必要がある。

(ものづくり・Jp株式会社 オートメーション新聞 会長 藤井裕雄)

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