【製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (75)】知ったかぶりをする一方で的が外れる若手技術者

「 知ったかぶりをする一方で的が外れる若手技術者 」は皆さまの周りにいないでしょうか。発言も比較的多く、難しそうなことを言っているようだが、まとまりが無く、何故その発言が出たのかわからない、というような印象を与える技術者です。
これは典型的な技術者のパターンの一つといえます。この技術者のとらわれているのは、「専門性至上主義」です。これは「知っていることこそ正義」という思い込みによって思考が凝り固まる、一種の「癖」です。
技術者の多くが、テストの点数や成績で評価されてきたことに染まっているため、「周りと協調しながら新しい価値や答えを見出す」という、企業従業員の一員としての当たり前の自覚をもって業務に取り組むよりも、「色々なことを知っているという専門家として認めてもらいたい」という考えが優先しているとも言えます。
専門性至上主義にとらわれると、協業というよりも、「自分は他の技術者より知っている」というところに関心ごとが偏ってしまうのです。この心理の背景にあるのは、「技術者としての経験や知見が不足している」という自尊心の低さからきているのも見逃してはいけません。
では、具体的にどのような状況が起こるのか、という所から見ていきましょう。

専門用語の乱発や検証が背景に無い結論ありきの発言

技術的な評価方法を決める技術者間の打ち合わせを想定してください。そこで、以下のような発言があったとします。
「私は○○だと思います。」「これについては、XXを取り組むべきです。」「△△というのは、YYのことです。」これらの発言の特徴は、・主観的である・断定的である・「専門用語」が多く含まれるという3点があります。
このうち一番の問題は、「発言が独りよがり(主観的)で断定的である」ということです。独りよがりで断定的である場合、「自分はわかっている、理解している、何より知っている」ということをアピールしたいという潜在意識がほぼ例外なく存在します。
そしてこれにより、「この手の発言は議論の軸から外れており、打ち合わせ時間を長引かせるだけで、結論への到達が遅れる」という「悪影響が生じる」という事実が問題なのです。何故ならばわかっている、理解している、何より知っているということをアピールするのに注力すると、「今、打ち合わせの主な目的が何であり、その目的達成のためにどのような議論が必要なのか」ということを見失うからです。これがいわゆる、「的のはずれた発言」が生まれる根幹とも言えます。

発言すること自体は悪いことではない

上記の例として挙げたものは、発言の内容の質の低さはあるとしても、その発言をした技術者に対しては、発言するという積極性を示したことについて、ある程度評価していいでしょう。否定したくなる気持ちもわかりますが、マネジメントもあまり神経質に指摘する必要は無いでしょう。
特に1年目や2年目の新人もしくは新人に近い技術者であれば、むしろ発言させ、それについて間違っていることについては丁寧に訂正してあげることで、発言のブレ幅を少なくするということについて取り組むことが、技術者育成という観点でも大変有意義なものとなります。
しかし、3年目以降の技術者に対し、いつまでも丁寧な訂正をするというフォローをやり続けると、それに甘えてしまい、専門性至上主義が固着し、結果として柔軟性が無くなってしまいます。この辺りのキャリアを有しているのであれば、業務の最低限のことを理解し、的を外れているということを自ら認識し始めなくてはいけないからです。
いずれにしても、年齢的に30歳前までには専門性至上主義を捨てられないと、スキルアップにおいて大きな障害となります。では、具体的に3年目以降の技術者が「独りよがりで断定的である発言」をした場合、どうすればいいのでしょうか。

的が外れた発言が出た場合、その発言の意図は何かを確認する

結論から先に言うと、「その発言の意図は何か?」ということを投げかけるのが答えになります。恐らく上記のような投げかけをされると、・ダラダラと右往左往しながら自分の発言の妥当性を述べようとする・言葉に詰まる(ただし、技術者が自らの発言の意図をうまく表現できないだけのせいもあるため、耳を傾けるのは必要です)のどちらかでしょう。
逆にいうと、きちんと納得する内容で意図が述べられるのであれば、それが打ち合わせの目的に合致しているという前提で、重要な発言として取り上げるべきです。オンラインにしても、昨今は難しい対面での打ち合わせにしても、打ち合わせの時間というのは大変貴重です。
もちろん、あまり発言を制約するのは良くありませんが、かといって不必要な発言に振り回されることで打ち合わせ時間が長引くことは、業務効率を上げるという観点で避けなくてはいけません。
そういう意味でも打ち合わせをリードするマネジメントや議長の技術者は、発言の意図を確認するということを適宜行うことで、議論の発散を最小化するということに取り組み、できるだけ早く技術者が専門性至上主義から脱することをサポートしてください。

【著者】

吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
 FRP Consultant 株式会社
 代表取締役社長
 福井大学非常勤講師

FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
https://engineer-development.jp/

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