【新年特別寄稿】中小製造業の再起動【チャンスを活かす2023年】『天気晴朗なれども波高し』【高木俊郎】

【序文・・日露戦争の教訓】

ロシアのウクライナ侵攻が世間を騒がせている。実態は、アメリカ・ロシアとの代理戦争との声も多いが、約120年前にも似たようなことが起きている。日本が当事者となった「日露戦争」である。日本はロシアとの死闘を演じたが、裏に控えていたのは米英である。時代は明治の後半。対馬沖の日本海で、日本とロシアの海戦「日本海海戦」が勃発し、日本連合艦隊が勝利した。歴史を紐解くと、当時のロシア・バロチック艦隊は、戦艦11隻と巡洋艦など計38隻の巨大艦隊で ある。向かう日本連合艦隊はたったの戦艦4隻。日本の勝利を予想する国はどこにもなかったが、 結果はバロチック艦隊は全滅。半面、日本連合艦隊はほぼ無傷、という驚愕の結果が世界の歴史に刻まれた。この戦争結果は偶然ではなく、緻密に練られた日本連合艦隊の戦術的成果である。その詳細は割愛するが、その要因は『個々の力ではなく総合力』の勝利であり『最新電子技術の活用』の力である事が、歴史上の史実として解説されている。日本連合艦隊の勝利には、中小製造業のこれからの経営に通じる貴重な教訓が潜んでいる。

今回は、2023年の新年特別号としてこの教訓をベースに中小製造業の勝ち残りの『戦略・戦術』を論じていきたい。 大型戦艦は大企業に例える事ができる。戦艦の周りを囲む巡洋艦などの小型艦が中小企業である。巨大な大企業と言うべき大型戦艦は、すごい攻撃力と防衛力を有する半面で動きが鈍く、大砲を一発打つにも時間がかかる。ところが、小型艦は動きが早い。戦艦で劣る日本連合艦隊は、巡洋艦の早期建造に着手した。防衛力は弱いが建造までの時間を優先し、日本郵便の船を改造し、数を揃えることを優先した。その結果、高速巡洋艦などを加えた小型艦の数が揃い、素早い動きができる日本連合艦隊が形成された。 日本連合艦隊は、大企業を頂点とするピラミッド構造「系列」によく似ている。日本連合艦隊はなぜ強かったのか?この理由に、中小製造業の経営に必須となる教訓がある。

【明治時代のDX】

その答えは、『日本連合艦隊は、最新技術を駆使した唯一の艦隊であった』という事実である。現代用語で言えば『DX艦隊』である。日本連合艦隊は無線通信技術によるDX化の実現で、艦隊としての『つながる』の実現し、無駄のない攻撃を繰り返す『総合力』によって勝利した。日本艦隊は世界で最初の『DX艦隊』である。当時、どの海軍でも無線通信装置を積んではいなかったが、日本連合艦隊は、駆逐艦以上の全艦船に国産の「三六式(さんろくしき)無線通信機」を搭載し、連携を取りながら戦いを遂行した。 無線通信技術は、当時の最先端技術である。マルコーニが大西洋横断無線通信に成功したのは、この海戦の4年前。たった4年間の間に、国産の「三六式無線通信機」の開発・量産に成功し、日本海海戦時にはすでに各艦船に装備し運用されていた。世界的に驚愕する事実である。 現在の中小製造業も、DXなくして勝てるはずがない。

【天気晴朗なれども波高し】

『天気晴朗なれども波高し』は、日本海海戦前夜の気象予測である。この予想をもとに、高い波を活かした小型艦活用戦術を練って海戦にのぞんだ。明治時代の中央気象台のレベルの高さにも驚くが、気象という外部環境を的確に予測し、小型艦の優位性を最大限に発揮する『丁字(ていじ)戦法』を決断し実行した、日本海軍の実行力には脱帽である。 波が高いと、動きの鈍い巨大戦艦より、動きが早い小型艦が有利。巨大戦艦は、巨大砲を打って修正するのに時間がかかり、高い波では威力が発揮しづらい。半面、日本連合艦隊は小型艦での高速連続掃射の戦術で勝利を得ている。 外部環境を予測し対応することの重要性を改めて認識させられる歴史的事実である。激動する23年において、中小製造業の経営判断にも、外部環境を的確に捉える目が必要である。ここからは、外部環境を俯瞰的に捉え、中小製造業の23年トレンドを予測する。

【2023 トレンド予測①『天気晴朗』※再起動の絶好のチャンス到来】

23年の日本の製造業を取り巻く環境は、明らかに『天気晴朗なれども波高し』である。中小製造業には再起動のチャンス到来である。40年近くの月日を経て、日本には超円高不安が一掃された。コストプッシュによるインフレ加速など、庶民生活を直撃する悪弊はあるものの、輸出構造をもつ完成品メーカーは、円安差益による恩恵で好決算が続いている。

23年は、米中の景気悪化で国際経済にはブレーキがかかるものの、日本国内ではさらに需要が増大するだろう。円安によりプラザ合意以降40年近く続いた「製 造の海外移転」の巻き戻しが始まっている。リショアリング(製造業の国内回帰)の本格化である。また完成品メーカーは、半導体などの調達問題で、製造できず多くの受注残を抱えている。23年は、国内製造の需要が増大し、高水準の受注環境が続く年となる。『天気晴朗』に疑いの余地はない。

【2023トレンド予測②『波高し』※変化の津波・パラダイムシフト】

「天気晴朗」を手放しで喜ぶのは早計であり、「波高し」の危機がある。昭和の高度成長時代は、「天気晴朗・波低し」であった。受注量が増え『最新マシンを買えば儲かった』時代であるが、 そんな時代はとっくに消滅している。『仕事が増えたら機械を買えば良い。それで儲かる』という『かつての常識』は、今は通用しない。 変化の津波をパラダイムシフトと表現しても良いが、その最大の要因は「人手不足」である。熟練工人口は急速に減ってくる。熟練工に依存した「ものづくり」は終焉する。昭和は『機械が希少価値』、そして今は『人が希少価値』である。

【2023 トレンド予測③『外国人労働者の危機』※大量退職に悩む社長様】

深刻な人手不足は、外国人労働者では解決しない。人手不足の現象は、今日(こんにち)も起きているが23年からはさらに深刻な課題となる。米国の製造業にはフォアマン(foreman)と呼ぶ専門職が必ずいる。企業によっては、スーパーバイザー(superviser)と呼ぶ場合があるが、日本では作業現場の管理を行う班長さんと同じポジションであるが、職務分掌が全く違う。米国のフォアマンは、(素人の)作業者が仕事のできる環境を作る役割であり、移民労働者などを2シフト、3シフトで働かせる環境を作り出すのが仕事である。作業段取りを工夫し、実際に段取り作業を行う。加工の実作業をするのは、あくまで作業者であり、フォアマンは「段取り」だけ行う。ところが日本では、班長さん・ベテラン社員から新入社員、そしてアルバイト・外国人労働者まで皆が実作業に従 事する。社長や工場長が現場の実作業を行う企業も不思議ではない。この仕組みでは、これから人手不足がますます深刻化する。日本は、単純労働者(素人)を使って製造現場を運営する環境がない。長年続いた日本の中小製造業の労働形態はすでに崩壊している。これを解決しない限り、ある時に「大量退職」、そして新規採用も絶望。23年にはこれに悩む社長様が増殖する。

【2023トレンド予測 ④『機械イノベーションの終焉』※最新機械を買っても儲からない】

機械の進化トレンドに触れてみたい。精密板金業界では1970年初頭にアマダでNCターレットパンチプレス(通称タレパン)が開発され、70年代・80年代に爆発的に売れ、タレパンが市場に定着した。この機械の生産性向上は驚異的で、従来比の10倍以上を誇っていた。当然導入した企業の生産性は急上昇し、儲かる機械として市場に大いに貢献した。以降90年代に入って、レーザ加工機の イノベーションが本格化し、現在に至っている。ところが近年、マシンのイノベーションが足踏み状態である。旧型機の入れ替え需要は活発であるが、古くなってメンテナンスができないので入れ替えるといった非積極的な理由が多く、機械を入れ替えても大きな生産性向上に貢献しなくなった。機械のイノベーションが足踏み状態なので、機械の入れ替え・増設では企業発展は望めない。

【2023 トレンド予測⑤『量産・大型化の潮流』※多品種少量・短納期だけでは通用せず』

今日まで、日本の中小製造業は「多品種少量生産・短納期」を旗印に、徹底したQCDを実施してきた。『Just in time』は日本のお家芸として、自他ともに誇りを持って発展したのも事実であるが、その後遺症として「量産」に対応できない中小製造業が多く存在する。23年は、リショアリングを背景に、海外で生産していた「量産」まで日本に戻ってくると思われる。 QCDの、Q(品質)とD(納期)に心血を注いできた日本のものづくり遺伝子は、今後の差別化の要因 ではあるが、C(コスト)を意識した「量産」の仕事が増大するトレンドがある。また、半導体製造装置を代表に、製品の大型化が進んでおり、中小製造業に委託される仕事も大型化のトレンドが起きている。

【2023 トレンド予測⑥『見積パニック』※転注の横行】

大手完成品メーカーは、大なり小なり海外依存度があるので、22年の円安差益の影響を受けて、史上空前の好決算に湧いている。ところが、新製品や新規市場の開拓など企業努力で掴んだ好決算ではないので、企業体質は変わっていない。にもかかわらず、新規の見積が増大している。その背景は、鋼材や原材料の高騰で、下請け各社から値上げ要求を受けている完成品メーカーでは、値上げに応じる半面で、新規の外注探しに躍起となっている企業が多く存在する。転注(てんちゅう)とは、『注文を競合会社に転じること』のビジネス用語であるが、23年は転 注の横行トレンドがある。中小製造業には膨大な見積依頼が蔓延しており、見積パニックは23 年の重要なトレンドである。

【2023 トレンド予測⑦『中小製造業の淘汰』※廃業、その半面で急成長企業が続出】

10年後に半数の中小製造業が消滅する。倒産ではなく消滅である。倒産とは、借りたお金を返せないとか、買った品物の代金を払えない、税金や給与が払えない、となり、経済活動を続けることのできない (資金ショート)となる「経営破綻」を指す。昔は、多くの倒産があったが、これからは廃業・M/Aなどで消滅していく企業が激増する。その理由は人手不足や後継者不足が原因である。一方で、積極的な企業展開を行い、どんどん発展させる企業が台頭する。2極化という言葉がかねてより使われてきたが、存続のできない企業と急成長する企業に分かれる2極化は、淘汰の始まりを意味する。23年は淘汰元年である。

【2023 トレンド予測⑧『デジタル5Sの普及』※DXの一丁目一番地】

23年は真のDX実施年である。その背景には、人類の英知を絞った最新技術を中小製造業が活用する環境が整った事実を認識しなければならない。その技術とは、①インターネット②クラウド③RPA④AIである。DXを解説する専門家は、デジタルツインとかVR( バーチャルリアリティ)など、様々な最新技術を紹介しているが、23年の中小製造業には不要である。前述の4つの技術の活用は、中小製造業に即利益につながる特効薬である。

【まとめ】

山に降った雨が、太平洋に流れるのか、日本海に流れるのかの分岐点を『分水嶺』と呼ぶ。中小製造業の経営においても『分水嶺』が存在する。未来の方向を大きく変える節目である。23年は『分水嶺』の年である。再起動による成長軌道に乗るか、衰退軌道に乗るか、重要な分水嶺である。その決めては『DX』。DXしないと消滅軌道。DXの実現こそ23年の最優先経営課題である 

高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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