日本の製造業再起動(91)【提言】劣化列島日本/希望と勇気⑨「臆病劣化の現実」と自動化・DX化への挑戦

2022年は、年初よりコロナ禍や鋼材価格の高騰に見舞われた年であるが、年初には予期しないウクライナ危機や急速な円安進行など、想像を超えた波瀾万丈の年である。コロナ禍に振り回された自粛期間に中小製造業を取り巻く外部環境は激変した。『劣化列島日本』をテーマとした『今年度シリーズ第9回目』は、日本の精密板金業界の今日を、歴史的観点も踏まえ考察し、業界の抱える課題を浮き彫りにしていきたい。

筆者は、精密板金業界で40年間に渡る人生を送ってきた。販売畑一筋に、国内外のお客様を渡り歩くことが常であったが、コロナ禍により3年間近く海外出張を自粛した。コロナの緩和を背景に、数カ月前より海外出張を積極的に再開したが、久しぶりの海外で鳥肌が立つような衝撃に難遇した。アジアでの出来事である。コロナ期間中、日本企業は自粛、海外企業(特にアジアのパワー企業)は攻撃の違いから、アジアのパワー企業の急発展と変化を目の当たりにして、驚愕と不安を隠しきれない。この驚愕と不安とは日本の製造業の将来への危惧である。日本では依然としてマスク着用を義務化し、多くの会合の自粛も続いている。コロナ対策に関わらず、経営戦略やその戦術に至るまで、「臆病劣化」の病に侵されている企業が多く存在する。劣化をもたらす最大要因は、『守りに徹する』日本全体の雰囲気である。コロナ禍により『強き者が更に強くなり、弱きものが更に弱くなった』。守ったら負け! 攻めたら勝ち!の結果である。アジアの強者はコロナ禍に、『攻めて攻めて』の結果、大蛇に変身した企業が続出しているが、日本はどうであろうか? 筆者のホームグラウンドである「精密板金市場」を俯瞰的に眺めてみたい。

まず指摘すべきは、『日本特有の閉塞感が精密板金市場にも充満している』という現実である。日本の精密板金業界は生産高トータルが年間4兆円の巨大産業であり、米国に匹敵する世界最大規模を誇っているが、業界内でその認識は薄く、誇りにも乏しい。日本の精密板金業界は『成長性のある有望業種』である。しかし、国内には2万社を超える精密板金製造企業が存在し、強者・弱者の2極化が極端に進行している。弱者企業では受注減少など経営課題が山積みで、弱者の存続は容易ではない。 日本の精密板金の歴史を紐解くと、50年前のNC機誕生から業界が大発展した。1970年代からバブル崩壊の90年代までは、「マシン時代」とも呼ばれ、『最新機械の導入で儲かった』時代の繁栄物語である。70年代に市場に台頭したNCターレットパンチプレス(愛称=タレパン)は、生産性10倍を誇るイノベーションを実現し、精密板金市場の発展に大きく寄与した。 

そして、90年以降に本格台頭するレーザマシンにより、精密板金の加工範囲が大幅に拡大。レーザマシンを導入する企業は、新規の発注元開拓にも成功し、発展を遂げている。ところが、近年になってマシンのイノベーションに限界が見えてきた。『最新機械の導入で儲かった』は神話となり「マシン時代」は過去のものとなった。もちろん、 老朽マシンの入れ替えや設備増設は必須であり、助成金などを活用したマシンへの投資は、有効な経営戦略ではあるが、精密板金企業にとって老朽マシンの入れ替えや増設で未来創造できるのか?の問に、残念ながらその答えはNO!である。その理由は少子高齢化による労働人口の減少。すなわち、人手不足が中小製造業の経営課題に重くのしかかっており、『自動化』が必須である。『自動化なくして未来なし』 と言っても過言ではない。

精密板金業界2万社の勝ち残りのカギは『自動化』である。自動化実現には、DX(Digital Transformation)の実現が必須である。世間ではDXが大流行であるが、板金DXの目的は『自動化による企業改革』と断言できる。アジアの強者企業は、コロナ禍に徹底的な自動化・DX化に投資している。

自動化とは、人手に代わってロボット化することである。タイ・バンコクの精密板金企業であるジンパオ社は、従業員数1000人を誇るアジア最大の精密板金企業であるが、コロナ禍の間に数十億円の投資を行い、新工場建設と製造現場の自動化を推進した。

新工場はすでに生産を開始しており、200台を超えるロボットが稼働している。この自動化・DX工場を武器に、米国巨大企業からサーバーラックや搬送機器などを大量受注し、 売り上げは増加の一途をたどっている。 ジンパオの自動化は製造現場のロボットだけではない。事務所の受注処理やエンジニア リングなど人手に関わる作業をRPAと称するソフトロボットにより多くの自動化を実現している。実践的DXの成功企業である。日本の精密板金業界でも、自動化・DX化を強力に推進する経営者が増えている。この「自動化・DX化への挑戦」が強者に躍り出る最大の武器であり、「臆病劣化」とは無縁の将来戦略の要である。

◆高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。

電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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