【寄稿】 NTTドコモ、5G×ものづくり 新世代通信技術の活用と注意点

製造業でも無線通信の利用が広がっています。スマートファクトリーを実現するための技術として5Gが期待されています。NTTドコモは移動通信キャリアとして、自動車電話の第一世代(1G)から、今日の第五世代(5G)とサービスを提供してきた当事者です。

2022年を迎えてドコモの5Gサービスとしては3年目になりまして、800万人を超えるお客様にご契約をいただいています。5Gを始めとした無線通信がものづくりの現場にどういった役に立つのか?5Gと既存のLTEやWIFI等の無線技術との違い、活用の注意点やポイントを分かりやすく紹介します。(著:株式会社 NTTドコモ 5G・IoTビジネス部 スマートファクトリー担当 清水 宣暁)

NTTドコモ5G専用サイト 5Gスクラム

ものづくりのノウハウの形式知化に5G

AIによって我々の仕事がなくなるといわれ、RPAが世の中で一般的になりましたが、どの業界も相変わらず人手不足は続いているようです。ものづくりの世界でもベテランの後継者がいない、と聞いて“きさげ”のような手先の感覚で覚える職人技の伝承を私もイメージしていました。私もこの仕事をし始めて知ったのは、そういったものだけではなく、各工程での差立の組み方だったり、機械を動かすラダーの作りだったりと、ものづくりのための“データ”が特定の人の頭の中にしかなくて、たくさんの企業が困っているということです。

日本のものづくりが推進したいノウハウ属人化の解消や自働化・自律化の推進による品質と生産の安定に役立つのは、5Gというよりももう少し広く無線化ということのように思います。

センサーやIoT対応機器でのデータ取得や、人手作業を紙ではなくデジタルツールを使って実施していくことで、ノウハウを形式知化しようと多くの企業が取り組まれています。一方、データは取り始めてみたものの、取ったデータをそこから活用できていないという話もよく伺います。事前にデータをとる目的を決めてから!という話ももっともなのですが、実際にはデータを取ってみないとわからないケースもありますから仕方ないケースも多いでしょう。

無線活用でやり直しの利くデジタル化を

弊社もサービスとしている無線技術ですが、これのいいところは、まずはデジタル化を始めてみて、あまり活用できなかった場合にやり直しが利くところです。他の装置への付け替えが容易にできますし、サブスクリプション型のサービスであれば、解約してしまってもいいでしょう。こういった試行錯誤が許されるといったメリットのほかにも、1.繋ぐ対象を後から増やすのが簡単にできる。2.配線工事がいらないので、導入時の現場への影響が少ない。3.動くものも通信させられる。といったものがあります。

有線の場合、スイッチを使って配線を分岐するため、後からデータを取りたい機器を追加した場合、スイッチを追加したり、よりポート数の多いものに交換したりといった作業が必要になります。5Gの場合、1つの基地局で1万の端末が繋がりますので、後から繋ぐ機器を増やすのは簡単です。2020年度版のものづくり白書によると既に無線を導入している工場は27.7%だそうです。実際に導入している企業も指定した先進工場の一部というところも多いでしょうから、まだ現場単位での普及率でいうと数%といったところでしょう。今後の変化に耐えうる工場作りのためには、繋ぐ機器の増設を見込む必要があります。

一方、個人向けではかなり無線が浸透しました。スマートフォンを始めとした情報通信端末の普及率は96.1%(令和2年度情報通信白書)で、自宅Wi-Fiの普及率も90.1%(2020年5月モバイル社会研究所調べ)になりました。スマートフォンでGmailや写真の保存サービスで利用している方も多いと思いますが、モバイル通信とクラウドの相性は非常に良く、我々の生活を大きく変えています。筆者もスマートフォンや一眼レフで撮影した写真をクラウドに保存して家族で共有していますが、クラウドを使う前は共有という作業が面倒でした。今は私が写真を撮れば、家族のアルバムになり、妻がコンビニでコーヒーを買えば、家計簿アプリでは今月の食費が更新して計算されます。

工場以外で工場の情報を活用する

製造の現場でも特定の人が管理しているPLCや紙のファイルに眠っている情報も多いと聞きます。クラウドは製造業でもかなりここ数年で浸透してきて7割近くの企業が何らかの形で利用しています。現場の方がいつも通り仕事をすれば、仕事の結果や生産設備のデータがクラウドに蓄積され、そのデータが工場の中だけでなく、本社にいる調達部門や他国にある設計部門といった他のプロセスでも、それぞれの部門が必要な形で見られる。そんな仕組みができれば、サプライチェーン全体として、リードタイムの短縮や在庫・仕掛品の圧縮に繋がります。もちろん、現場の方の日報作成のような付帯する仕事に割く時間も減ります。

障害物には弱い5G

いろいろとメリットのある無線活用ですが、現在は様々な方式があって、どれを何に使ったらよいか悩む方は多いかと思います。5G、Wi-Fi、Bluetooth、920MHz(Subギガとも、UWA・Wi-SUNなど)のような、様々な方式が選択肢として提供されています。ものづくりの現場でも大きく期待されている5Gと他の方式の違いを説明する前に、そもそも無線とは?ということを説明したいと思います。

無線は「電波」を送信機から受信機に送ることで実現しています。電波といってもイメージがつかみにくいかもしれませんが、中学物理で習った「音」や「光」と似たようなものだと思ってください。波長(単位:メートル)が長くなると、振動数(単位:ヘルツ)は短くなります。以降は振動数のことを周波数と呼びますが、電波は「可視光」よりも周波数が低く、「音」よりも周波数が高い波なので、可視光と音の間のような性質を持っています。

例えば、工場の中は通常のオフィスと比べて大型の機械や配管のような遮蔽物が多いので、電波が飛ぶ環境としてはあまり良くはありません。更に5Gの電波は4G(LTE)と比べると障害物や壁を越えにくいのですが、これは周波数が高いので、音より光の性質に近いということです。壁の向こうの音は多少聞こえても、壁の向こうの光は見えないですよね。たまに話題になるプラチナバンド(700~900MHz)や920MHz(Subギガ)は無線方式の中では比較的周波数が低いので、より「音」の性質に近く、電波が障害物を越えて回り込みやすい分類になります。

映像伝送には大容量通信の5GかWi-Fi

読者の皆様は「電波」を使っているものをどれだけご存じでしょうか?弊社が事業としている移動通信以外にも、テレビ・ラジオのような放送やGPS、消防や救急なども同じ電波を使っています。これらの用途で電波が混信しないように、周波数毎に用途が決まっています。この用途の割り当てが変更されるケースもあり、2011年7月24日にはそれまで地上アナログ放送で使っていた700Mhz帯がドコモ、KDDI、イーモバイル(現:ソフトバンクモバイル)に割り当てられたのは、読者の皆様の記憶に新しいところではないでしょうか。

ちなみに高い周波数も悪いことだけではなく、周波数が高くなると、その分波長は短くなるので、アンテナのサイズを小さくできます。基地局のアンテナの大きさとしても小型になるので、設置しやすくなりますし、装置側で使うアンテナも搭載しやすくなります。さらに後述する周波数の「帯域」を広く取りやすいため、大容量通信に向いています。

最近はセンサーではなくカメラデータから生産現場の状況取得を行うシステムも出てきています。映像データのような大容量のデータを送るためには、電波の「帯域」の広さが必要になります。Wi-Fiは2.4GHzと5GHzの2種類の電波を使っていますが、2.4GHzというのは2.400GHzという意味ではなく、2.401Ghz~2.495GHzと幅のことを指しており、これを「帯域」といいます。この帯域の広さが、大容量通信を実現するには非常に重要になります。Wi-Fi6では、2.4GHzと5GHz 組み合わせて通信できますので、合計して474MHzのと広い帯域が使えます。5Gも国内ではドコモとKDDIが最大の600MHzが割り当てられています。ローカル5Gも今は100MHzのみですが、今後更に数百MHzが使えるように制度化が検討されています。

制御通信には低遅延・高信頼通信な5G

PLCやインバータでの制御通信や遠隔操作で必要となる低遅延と高信頼性は、5Gが優れています。まず低遅延について、5Gになっても電波が空気中を進む速度は変わりません。光もLTEも5Gも速さは毎秒30万キロメートル(地球7周半)です。では、どうやって5Gで低遅延を実現しているかというと、電波で送るデータを細切れにし、データを送るための時間間隔を短くすることによって、高信頼は、複数のアンテナから同じデータを送ったり、同じデータを複数回送ったりして実現します。いわば、一個流しで、検査工程をたくさん挟むようなものでしょうか。

このようにデータを細切れにしたり、同じデータを何度も送ったりするのは、データを送る効率としては下がるので、大容量通信とは相反する仕組みになりますが、このように5Gは用途に合わせて、設定を変えた使い方が出来るというところが特徴でもあります。

電池で駆動する920MHzやBluetooth

920MHzやBluetoothが優れているのは、低消費電力です。センサーや工具などからのデータ取得に向きます。これは使う帯域を小さくしたり、信号の送信間隔を長くしたりして実現しているため、大容量通信や低遅延通信との両立は出来ません。

Wi-Fiは高性能で消費電力も高い方式ですので、5Gと比べられやすい方式ですが、違いの観点は免許制の電波帯か免許不要かの電波帯かです。免許が必要なものは、基地局の設置場所・装置構成・使用する電波の帯域などの情報を総務省の総合通信局に事前に申請する必要があります。このため免許取得者が電波を占有して安定的な通信環境を作ることができます。Wi-Fiに限らず、免許不要で使えるものは許可された装置の出力が抑えられています。一般的なLTEの基地局の出力は19,000mWや32,000mWに対して、Wi-Fiルータは10mWですから、1,000倍以上の差があります。

使い分けが必要なのは加工機も無線通信も同じ

こういったお話をして複雑だなという感想を持たれた読者の方もいるかと思いますが、金属加工にも旋盤とフライス盤で用途が異なるように、無線方式にもそれぞれ一長一短があり、工場の環境や通信させたい機器によって適切に使い分けていくことが効率的です。

ドコモでは2021年6月28日に5G基地局数累計1万局を突破し、2022年3月末までに2万局、人口カバー率55%の達成に向けて、引き続き5Gエリアの整備に努めています。約9か月で基地局数としては倍増となりますので、5Gをお使いいただいているユーザの皆様にもエリアの広がりを実感いただけるかと思います。

2022年もこれらの通信技術が日本のものづくりを担う皆様のお役に立てるように励んで参ります。

著者

株式会社 NTTドコモ 5G・IoTビジネス部 スマートファクトリー担当 清水 宣暁氏

1983年6月愛媛県生まれ。2008年千葉大学大学院自然科学研究科修了後、株式会社NTTドコモに入社。スマートフォンや監視カメラ等の法人向けのシステム構築を担当。2011年~2016年は地下や屋内向けのLTEエリア整備を担当した。2018年からは工場向けの5G実証実験やIoTシステム導入などを進めている。所属団体は、インダストリーバリューチェーンイニシアティブ、フレキシブルファクトリープロジェクト、ORiN協議会など。

https://www.nttdocomo.co.jp/

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