【新年特別寄稿】中小製造業の試練『EV化による破壊と創造』

『あけましておめでとうございます』とは言うものの、残念ながら昨年に続き2回目の「コロナ禍お正月」となってしまった。 メディアでの主要な報道は「変異株オミクロン」に終始している。人々の関心も強く、コロナ対策が最優先となり、日本人にとって格別の日である「ハレの日」とはどこか違うお正月となった。 伝統的な年末行事の忘年会のバカ騒ぎも、年明けの心引き締まった賀詞交歓会もすべてコロナ禍に奪われ、自粛ムードのなかでオンライン全盛である。オンラインも新しい時代の象徴ではあるが、歴史が育んだ日本人の団結力が失われていく危惧を感じるのは、私だけではないはずである。忘年会といえば、コロナ以前は終電ギリギリまで宴会が続き、連日の飲み疲れでお正月を待ちわびるのが師走であったが、こんな企業戦士の風習も時代に合わなくなった。 オンラインで『本年もお世話になりました』と言う、こんなことが普通になる時代が突然やってきたことは(コロナ禍がもたらした)幸いか? 災難か?

私の親友でもある大手製造業の販売担当役員は、テレワークを武器に、『自宅にいながらにして年末年始のご挨拶を済ますことに慣れてしまい、面倒な忘年会や賀詞交歓会はもうやりたくない』と本音を明かしている。考えたくないが、大企業神話の崩壊が起きることを危惧してしまう。【「劣化した業界」と「劣化した経営陣」】、2020年~21年のコロナ禍の2年間で劣化した業界がある。飲食店や観光業界、ホテル業界などコロナに直撃された業界は数多いが、これらの業界は必ずや再興を果たすだろうが、再び戻ることのない劣化が始まった業界がある。 激しいユーザー離れが現実化している劣化業界とは? 「テレビ業界」と「新聞業界」である。そして、「ガソリンエンジン車の製造業界」も、風雲急を告げる厳しい状況に置かれていると言わざるを得ない。

数年前ドイツ発のインダストリー4.0が猛威を奮った頃、「デジタル変革は“破壊と創造”をもたらす」と言われ、「破壊的イノベーション」と解説されていた。破壊的イノベーションは、従来からの産業に破壊的な犠牲を払う半面、新規事業が台頭する大変革である。かつて、冷蔵庫の普及で氷売りが消滅した例は有名であるが、『Netfrixによってテレビ局が消滅する』、『YouTubeによって新聞各紙が消滅する』、『EV化によって車エンジンが消滅する』といった単純な論理ではない。事実、デジタル化やEV化の新技術がこれらの業界を直撃しているのも事実であるが、この難曲を乗り越えるためには、経営陣の強力な陣頭指揮により、「変化の風」を巻き起こすことが必須である。

経営陣の劣化とは、一般的に「変化を好まない事の常態化」を言う。「劣化した業界」と「劣化した経営陣」が重なれば、大惨事を招くことは歴史が証明している。

踏み絵となったコロナの自粛 

本稿は、22年新春特別号であるので、明るい話題に終始したいのは山々であるが、劣化の浮き彫りなくして未来の創造はないので、しばしご容赦をいただきたい。 コロナ禍の2年間は、自粛要請の連続であったことは言うまでもない。 多くの経営者が、この自粛要請により様々な反応を示した。この2年間を振り返ると、象徴的な経営者の決断が浮き彫りになってくる。その決断は「自粛期間に次世代への対応を決めた経営者」と「自粛と称し、巣ごもりに徹した経営者」に大きく大別される。前者の意欲的経営者を持つ企業を『A企業群』、巣ごもり経営者を持つ企業を『B企業群』として分けてみると、A企業群はコロナ禍をきっかけに激しい変化に挑戦しており、対面活動にも積極的である。一方、B企業群においては、テレワークを推奨し、オンライン一辺倒に依存して、従来事業を継続することにとどまっている。 コロナ禍が、経営者に「A群かB群か」を決めさせる踏み絵を強要したといっても過言ではない。A群経営者は攻めを選択し、B群経営者は守りを選択した。不思議なことに、A郡は中小製造業の経営者に多く、B郡は大手製造業経営者に多かった。大手製造業では、テレワークを指示された従業員も多く、牙が抜かれた企業戦士が大量発生したことは残念な事実である。 巣ごもり族を選択した大手製造業が、希望と勇気をもって次世代の市場創造に立ち向かうことを期待するのは無理筋かもしれない。

ガソリンエンジン車を失う日本製造業は地獄図なのか?

22年が分水嶺となって、ガソリンエンジン車の産業が、終焉に突き進むのは必至である。日本のエンジン技術が世界の頂点に君臨していることは自他共に認める事実であるが、残念ながらエンジン依存で未来の車産業を創造することは不可能である。 昨年後半に、自動車大手各社は、世界のEV化潮流に合わせ、揃ってEV化の方針を発表した。残念ながら、世界的に遅れた決断である。この決断発表を受けて各メディアは、車関連の下請け製造業界の衰退を危惧し、大々的な報道を繰り広げている。しかし、EV化は国際社会の流れであり、どんな理屈をつけてもこれを変えることはできない。 中小製造業にとって、ピラミッドの頂点に立つ大手製造業に頼っても答えがない事は皆が分かっている。EV化の流れはピラミッド構造の崩壊であり、中小製造業の生き残りは、ピラミッドからの脱出以外方策はない。脱出してどう生きるか?を戦略的に決めて実行に移すのが今年である。時間も巣ごもりの余裕もない。

変化できない企業が淘汰される

テレビの衰退、新聞の衰退、ガソリンエンジン車の衰退は、誰もが分かる未来である。特に新聞と車のエンジンがなくなる時代がやってくる。『新聞紙というものがあったらしい』、『昔は、ガソリンエンジンで車が動いていた』と言われる時代はあっという間にやってくる。 新聞紙やガソリンエンジン車に依存している中小企業は、変化しなければ淘汰され消滅するのは必然である。 変化の必要性は、劣化ピラミッドからの脱皮だけではない。日本の中小製造業に襲いかかる人手不足は深刻な課題である。幸いにして成長産業の仕事を受注できても、人手不足により供給できない危惧がある。また中小製造業は、現場ノウハウを武器に存続してきた経緯があるが、ベテラン技能者の高齢化により、技術伝承の深刻な課題がある。社長が高齢化している企業も多く、事業承継問題も深刻であるが、幸いにして事業承継に成功しても、デジタル変革(DX)に変化しない限り企業の存続は難しい。 22年は、変化をする年である。守りは淘汰につながる。攻めによる変化こそ企業の存続を 担保する必要条件である。

当社(アルファTKG)が得意とする精密板金業界のお客様では、21年のコロナの落ち込みをカバーし、創業以来の売り上げを計上する企業が続出している。その原因の一因に自動車業界からの需要増が関連している。 精密板金業界は、多品種少量生産型の製造業なので、元来自動車産業とは関係が薄いが、自動車業界の旺盛な半導体需要を受けて、半導体製造装置向けの受注が極めて順調である。 EV化によりますます半導体需要が強まり、精密板金業界の未来も明るいものとなっている。 また、EV化により充電スタンドの需要増大により精密板金業界の一部に特需が起きている。 今後EV化には充電スタンドの拡充が必須であるが、精密板金業界にとっては吉報である。 ガソリンエンジンからEVへの変革を「車のものづくり観点」から議論されているが、EV化は充電スタンドを含む「エネルギー供給に向けた新しい市場創造」の始まりでもある。ガソリンエンジン車に依存する製造業が破壊される半面、EVによる新しい市場が創造されるのは間違いない。

EV充電インフラ・Eガラパゴスの日本。テスラ社に学ぶ新しい市場創造

EV化に伴い、充電インフラへの投資急拡大が予想される。日本の充電インフラは(充電スタンドの数は多いものの)世界的には非常に遅れた「充電ガラパゴス国家」であることをご存知の方は少ない。筆者は、2年前にテスラ車を購入し、5万キロ以上走行した。テスラはご周知の通り、米国のベンチャー企業が製造販売する完全EV車であり、「破壊的イノベーション」の代表として、全世界のEV市場を牽引している。筆者は、三菱のPHEV車も所有しているが、両者を比較すると「エネルギーマネージメント」に関する顕著な違いが浮き彫りとなってくる。 テスラ社は、独自でスーパーチャージャーと称する高性能な充電スタンドを世界中に急速普及させており、日本国内も毎年増え続けている。一方で、日本製EVはCHAdeMO(チャデモ)という充電スタンドが高速道路のサービスエリアなどに設置されているが、残念ながらテスラのスーパーチャージャーと比較すると、CHAdeMOは貧弱の一言に尽きる。本稿ではその詳細比較を割愛するが、テスラ車でも(変換アダプターと会員カードを用意すれば)チャデモを使えるが、 筆者はこれを使う気も起きない。日本は「充電ガラパゴス国家」の汚名を返上し、高性能な充電インフラの投資が始まる事を大いに期待したい。

また、基礎充電インフラと呼ばれる自宅充電やマンション充電を始めとした、壮大な充電インフラの市場創造も始まるだろう。これらの市場は爆発的に成長する可能性を秘めている。精密板金市場を含め、充電スタンドに関わる業種は、極めて明るい未来が開けている。

DXの本格的な幕開け

企業経営における22年の重点施策は、『“攻め”による“変化の実践”』に尽きるが、攻めの変革にDX(デジタルトランスフォーメーション)は避けて通れない。 そのキーワードは『2025年の崖』である。 『2025年の崖』とは、経済産業省が発信した 『2018年のDXレポート』である。 経済産業省のレポートによると、『今日のデジタルシステムを使い続ける企業は、25年に崖に落ちる』と衝撃的な警鐘を鳴らしている。中小製造業にも、数十年前よりIT化の波が押し寄せ、 生産管理システムやCAD/CAMネットワークシステムなと、多義に渡るIT化(デジタルシステム)が導入されているが、これらのIT化(デジタルシステム)によって崖に落ちることを警鐘している。 崖に落ちないためには、「 現行システムの保守・改善を中止し、DX化に移行しなければならない」と論じている。この方針を間違えると、競争力を失い将来的には企業の存続ができない、との強烈な警鐘が『2025年の崖』である。 経済産業省は、従来からのIT化とDX化は別物であり、DXなくして未来がないことを熱心に説いている。2年間のコロナ禍によって、我々は大きな教訓を得たと同時に、世界中がデジタル時代に突入した。この先も時代が急速に変化することは必至である。『2025年の崖』は、守りに徹した「巣ごもり経営」は敗北を招くとの警鐘でもある。

第4次産業革命は想像以上のスピードで進んでいる。 今年は、AI・RPA・IoT・クラウドなど最新技術を導入し、デジタル化によってビジネスモデルを変革することに本格的着手する時がやってきた。まさに『DXの本格的な幕開け』である。

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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