「強い生産現場」のための顧客情報の活用第3回:本当の「顧客情報管理」のツボを理解する

連載の第2回「生産現場から顧客を見るとはどういうことなのか」では、生産現場から顧客情報を見るということがどのようなことなのかを説明し、CRMを紹介しました。それは生産現場の多くで見られる、生産計画に直結するフォーキャストや注文予定、それらの変更情報がタイムリーに入手できないという課題に対するソリューションです。今回は、CRMの本質である「顧客情報管理」の意味とその価値を解説していきます。

簡単にCRMの定義をおさらいすると、一般的にCRMは「顧客情報を起点にした、顧客に関するあらゆる情報が集約されるプラットフォーム」で、これによって最終的に企業は利益の最大化を目指します。よく似たシステムとしてSFAがありますが、SFAは営業活動の効率化と管理を目指しているのに対し、CRMは顧客情報全般を管理することで企業活動すべての基盤になるという点が異なります。

では、そのCRMの価値を具体的に考えてゆきましょう。

CRMの本質は「顧客」にフォーカスすること

突然ですが、みなさんのビジネスの起点は何でしょうか?

様々な観点があると思いますが、主要な考え方の一つは「製品」です。そしてもう一つは「顧客」です。

高度経済成長期の製造業においては、「プロダクトアウト」すなわち良い製品を生産すれば市場に受け入れられ、売れるという考え方が根強くありました。しかし、バブル崩壊によく市場環境の変化や、ITの発達による需要の多様化など、さまざまな要因のもと、その逆の発想である「マーケットイン」、すなわち顧客のニーズや市場を起点に、顧客が求めているものを作るという発想が必要だと説かれました。

それから数十年が経過し、どれだけの企業が真の「マーケットイン」を実現できているでしょうか。そしていま、マーケットではなく「カスタマー」にフォーカスし、変革を求めるカスタマー同志の結びつきで構成されるビジネスネットワークの構築までもが求められています。

顧客の情報はどこにあるか

では、実際にビジネスの起点となるべき「顧客」の情報はどこにあるのでしょうか。

実際には「顧客」といった場合、2種類あり、一つは「既存顧客」、もうひとつが「潜在顧客(新規顧客)」です。厳密には既存顧客の先の顧客(最終的にはエンドユーザー)がありますが、ここでは割愛します。

既存顧客に関する情報はイメージしやすく、現在の契約だけでなく、過去の履歴、頻度など、売上を起点にした情報などは少なくとも営業部門にはあるはずです。さらに、その契約の結果として、製造現場にも直接的または間接的に共有されています。

では潜在顧客のデータはどうでしょうか。まだ契約が成立していないため、その商談情報は営業部門以外に公式に共有されることは少なめです。もちろん見積もりや納期回答のために問い合わせがあるかもしれませんが、その段階で共有されている顧客情報は、必要最低限であることが多いのです。さらに、特定の部門内の手元情報に留まっていることもあります。

ここまでは顧客情報を、自社の営業担当を接点として、契約や商談という観点で考えましたが、もうひとつ顧客との接点があります。それは「製品」です。過去の製造業ではプロダクトアウトの考え方が強かったと述べましたが、それはビジネスの起点にするべきではないということであり、顧客との最大の接点は「製品」なのです。

ここにひとつのポイントがあります。それは、顧客情報には製品情報がセットでないといけないということです。当たり前だと思われる方も多いでしょうが、営業が商談を管理する上で使っている製品情報というのは常に性格とは限らないのです。

例えば、製品の型番や単価は最新でしょうか。また商談金額の辻褄を合わせるために、仮の製品を入れたりしてはいないでしょうか。営業管理の観点だけであればそれでもよいかもしれません。しかし、企業の基盤として顧客情報を活用するとなると、そのズレが不具合を生じさせます。

製品情報も含めてはじめて顧客情報が成立するという認識を持つことが重要になるのです。なぜなら、製品を起点としたアフターサービスのプロセスで顧客との接点が生じ、ビジネスのサイクルが継続するから。製品を販売するまでと、製品を販売してからの業務プロセスは多くの場合、IT(システム)の都合で分断され、ひいてはビジネスの循環を妨げる一因となっているのです。

Excelでは顧客情報を正確に管理し切れない

顧客情報の重要性と、そこには製品情報も含まれていないといけないというところまでご理解いただいたと思います。では実際に、どのような仕組みでそれを管理すればよいのでしょうか。

多くの企業では「Excel」が最強のツールになっているということは前回も触れました。商談管理をするにも、顧客、製品、金額、スケジュールなどを入力にはぴったりです。さらに、Excel達人が関数やマクロを駆使して入力の自動化やチェック機能を追加してくれれば最強のツールです。

しかし、次のような点に注意が必要です。一つは、Excelシートが複雑で高機能になるほど、メンテナンスが難しくなるということです。Excel達人がいなくなった途端、だれもそれを触れなくなるというのはよくあることです。

また、ファイルで管理されるため、多くの派生バージョンが個人のPCの中で生まれ、どれが正しいのか判断できなくなります。良くも悪くもファイル内でデータが完結しているため、ほかのデータを参照しにくいということです。先の例で言えば、商談管理のExcelシートに常に最新の製品情報を取り込むのが難しいということになります。その結果、情報共有がうまくいかなくなってしまい、情報共有だけを目的とした会議が必要となるというケースも珍しくありません。

フォーキャストや将来需要を予測できるのがCRMの本来価値

当たり前のように使われているExcelによる情報管理のリスクと、顧客情報には製品情報も含まれないといけないという要件を考えあわせたときに、やっとCRMというプラットフォームが持つ価値が明確になったのではないでしょうか。

しかしながら、BtoBの業態においてCRMはいまひとつ浸透しておらず、その一つの理由が、このCRMの用途が知られていないことが一因にあります。CRMは、それを利用することで、多くの製造現場で求めているフォーキャストや将来の需要を生産現場で活用することができます。

昨今のCRMはSaaS型のクラウドサービスとして提供されているものが多く、どこからでも、デバイスを問わずにアクセスすることが可能です。また、メニュー構成やデータの設計も、多くの企業における実績をもとにしたベストプラクティスとも呼べるプロセスと情報が最初から実装されているため、導入した直後からそのメリットを享受することができます。これにより、営業部門や生産現場など、これまで異なる情報をもとにコミュニケーションを行い、お互いにある種のストレスを感じることが多かった関係者にとって、CRM上の顧客情報という共通のコミュニケーション基盤となるのです。

CRMによる副次的効果 正しいデータの管理

これまで顧客情報というデータの価値を中心に説明してきましたが、CRMにはもう一つの側面があります。それは組織をまたぐプロセスです。

正しく整合性の取れたデータを残してゆくには、そのデータを処理する手順もまた重要になります。例えば、企業データや製品情報などのマスタデータが整っていなければ、正しい商談情報は入力できません。商談情報が更新されていなければ、正しい予測値を出すことはできません。つまり、データの「つながり」を、その業務プロセスを守ることによって保つことができるのです。

Excelでも厳密なルールのもとに運用すれば可能かもしれません。しかし、だれか一人がそれを守らないとき、その情報の信頼性は大きく揺らいでしまうのです。こうした決めごとを無理なく組織をまたいで活用できるのも、このようなプラットフォームの大きなメリットです。

そして、その結果として「組織間の相互協力」という意識と文化が意味を持つようになります。なぜなら、これまでのExcelシートを営業部門、生産現場それぞれで管理していた時には気づかなかった不整合に簡単に気づくことになるからです。

一例として、製品単価が不正確な商談や、商談の途中経過がない売上など、不自然なものはすぐに分かってしまいます。営業担当者はそれを嫌がるかもしれません。途中まで順調に見えた引合が失注してしまった場合、当然上司から責められるのではないかと思うからです。しかし、その失注理由が共有されることで、次に同様の商談があったときに、事前にその対策を全社的に行うことができるかもしれません。このような一見「不都合な」情報は、実は考え方次第で「好都合な」情報なのです。「不都合な」情報も蓄積することで5年後、10年後も活かすことができるのです。

このように意識と文化を醸成することができれば、CRMの本当の価値を得ることができるでしょう。

課題解決には社外の知見をうまく「使う」

とは言え、普段異なる意識で関わることが多い営業部門と製造現場で、いきなりこのような話ができるでしょうか?現実には難しいことも多いでしょう。なぜなら、それぞれの立場で正義があり、それを変えることには少なからず抵抗を感じるからです。

CRMは先に説明した通り、SaaS型のクラウドサービスであり、契約すれば最低限は使えるでしょう。しかし、そのプラットフォームに「命を吹き込む」ことをしなければ、結局それぞれが正しいと思う情報を都合よく入力して終わりになってしまいます。実際、すでに多くの企業で導入されているCRMも、営業部門用のシステムとなっていて、本来の目的を達することができていないケースがよく見られます。

そこで効果的なのが、課題解決の知見を持つ社外の仲介役の存在です。ここは、社外の知見を「使って」お互いの言い分をぶつけ合い、そこでこれまでの知見を活かしながら両者の観点を取り込んでゆくことも一つの選択肢です。

このような時、社外の知見を提供できるのがITベンダーです。ITベンダーはそのために板挟みとなることもありますが、第三者であるため、お互い遠慮なく、また後に引きずることもなくその役割を担うことができるのです。

成功のイメージを正しく持つ

以上のように、CRMの持つ本当の価値について説明してきました。おそらく、程度の差はあっても、多くの方に思い当たるところがあったのではないかと思います。それをどのように改善してゆき、最終的に企業の力としてゆくのか、より具体的なイメージをもつことが重要です。

次回は実際の例を挙げながら、製造業における課題とCRMの活用例をお伝えしたいと思います。

<NTTデータ グローバルソリューションズについて>

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