令和の販売員心得 黒川想介 (44)

グローバル時代に突入する以前の国内需要は旺盛であった。当時の製造現場では生産効率よりも生産力をどのようにして挙げていくかという課題に取り組んでいた。そんな活気のある現倍に出入りしていた機器部品販売店の売り上げは堅調だった。好調不調の波を繰り返しながらも売り上げのトレンドはどの販売店も右肩上がりであった。現在から見れば羨ましいほど売り上げの心配はなかったが、資金繰りと在庫にはどの販売店頭を悩ませた。

納期は長く、金融市場も潤沢ではなかったからだ。だから景気の動向には非常に敏感であった。当時は機器に組み込まれる電子機器部品の受注が増え始めると、数カ月後は設備用の機器や部品が一斉に立ち上がった。電子機器部品の動きが止まれば設備用の機器部品も遅れて一服した。従って、販売店の会合などで仲間同士がする会話からお互いの荷動きを察知して、在庫の増減を計り資金手当てに動いた。販売店同士の会話は重要な情報扱いであったのだ。

 平成に入り急激な円高になったことによって、製造業の海外移転が始まった。海外は生産力強化大型投資であったが、国内は生産効率投資が主となり、国内需要は以前のようなダイナミックさは無くなった。従って、販売店の状況は一挙に好調・不調にはならずに、

取引先によってまだら模様となった。総じて言えば売り上げのトレンドは右肩上がりではなく、平らな波型であった。販売店の会合も少なくなり、仲間同士で会う機会も減少した。それでも合えば互いの景気の話になるが、役に立てる情報扱いでなく、自社の位置を確認するものになった。

 令和に入って3年目になる今は、もう既に同業他社を比較の対象にして進む時ではない。持続的に売り上げを伸ばすには、マーケットを独自の視点で見なければならない。これまで、売り上げが不振な時には大方の販売店は、2つの方法を取ってきた。1つは新規開拓、もう1つは新しい商材探しである。しかし、国内の設備需要がかつてのようなダイナミックさに欠けていたこともあり、大方の販売店はそれほど成功していない。持続的に売り上げを伸ばすには前述の方法は有効であるのになぜ成功率が低いのか。その理由は設備需要が旺盛な時の感覚のままでやろうとするからだ。

 1つ目の客先開拓は販売員育成の仕方と関係する。販売店の扱う商材はかなりの点数である。電気の素養の必要な商材は多い。故に販売員育成は商材に明るくなることをもって営業力ありとしている。結果的に客先開拓成功率が低いということは、このような営業力だけではダメだということが証明されているのだ。販売員育成の視点を変えなければならない。

 2つ目の商材探しはかなりの決断と関係がある。何かいい商材がみつかればいいという甘い気持ちではダメなのだ。1964年の東京オリンピックが終わって間もない頃の話である。ある地方の通信工事店が、県の農協の有線ラジオの工事を主たる仕事にしていた。県内のすべての農協で施設数の残りが少なくなった。この仕事に大多数の社員を雇っていたからこの先をどうするか悩んだ。そして、ある大手繊維メーカーの電検1種を持っていた製造現場の課長に相談した。まだ多くの製造現場では自動制御という言葉があやふやな時代にその課長は、将来自動制御は大きな市場になると言って、あるメーカーを推奨した。未知の世界だったが、工事店の社長は決心して上京し、メーカーの東京支店の受け付けへ飛び込んだ。工事店はその後販売店として成功した。

平成期は高い伸びこそなかったが、安定した売り上げで過ごした販売店各位には、そのようなリスクをある決断は難しい。しかし、新しい商材探しは情報と決断は必要であることは今も昔も同じである。

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