【提言】コロナ終息後の希望と脅威 『中小製造業を取り巻く環境激変』〜日本の製造業再起動に向けて(71)

2021年2月19日

 コロナ禍で中小製造業の経営環境が激変している。昨年度より急激に減少した受注環境を背景に、中小製造業の受注が更に減少するのではないか?といった危惧が報道されているが、実のところ2021年に入り、中小製造業の受注環境は改善傾向にある。

 筆者の経営するアルファTKGの主要顧客である『精密板金業界』の最新動向を精査すると、まだ一部の顧客にコロナ影響による受注減少も散見されるが、受注環境は大きく改善されており、先行き見込みは良好である。

 その背景には、コロナショックの自然反動も大きいが、中国市場の旺盛なロボット需要や半導体関連など新しい時代の需要が牽引している。特に半導体市場は、精密板金市場に長期的な成長需要をもたらすと予想される。

 『風が吹けば桶屋が儲かる』という諺があるが、『自動車の風が吹けば精密板金屋が儲かる』という構図が生まれつつある。従来では精密板金業界とは縁の薄い自動車産業であったが、自動車産業はRV化と自動運転実現のために、車は精密なメカ構造から壮大な電子機器に変化し、半導体の大口ユーザーに変貌している。

 日本の半導体産業は、数十年で国際競争力が大幅低下し、耐え難き状況であるが、半導体を製造する『半導体製造装置』の日本シェアは40%を超えており、国内に温存された重要な産業となっている。

 半導体製造装置は、高度なQCDが要求され精密板金の構成要素が大きく、海外シフトが難しい。このため、日本の精密板金を支える重要業種となっている。自動車のEV化・自動運転化で半導体需要がさらに活発化し、半導体製造装置が伸びて、精密板金屋が儲かる構図である。

 半導体製造装置産業は、デジタル社会に呼応する成長産業であり、次世代を牽引する主要産業となるのは明白である。その産業規模も2兆円規模と言われており、工作機械や食品機械の産業を大きく超えている巨大産業である。

 半導体製造装置の未来予測を一例に、多品種少量生産の代名詞とも言える精密板金業界は、高度なQCDを背景に、次世代を支える重要業種であり、需要環境は(中長期的に)極めて明るいと断言できる。

 大手メディアによる連日のコロナ過剰報道は、日本人のポジティブな意識構造を破壊している。コロナへの異常警戒で、気持ちが落ち込み、未来への希望と勇気を失う人々が急増しているが、日本のものづくり再起動の大きなチャンスが訪れており、明るい未来を確信することが必要である。

 前述のように、大きなチャンス(機会)を取り込み、企業発展の可能性が大きい反面で、経営を圧迫する強い脅威も存在し、この脅威を正しく認識し、対応策を講じる必要がある。

 コロナ禍によって中小製造業を直撃する脅威は、①鋼材の不足 ②人材の不足の2点である。

 2021年は、年初より鋼材価格が急騰し、品薄に陥っている。直近2ヶ月で、スクラップ価格は20%以上高騰しており、この影響を受け、鉄鋼メーカー各社が一斉に反応し、大幅な値上げを断行している。この最大の原因は、中国を始めとする海外の鉄鋼需要が急速増加している事である。コロナ以前と比較しても(大手メデイアで報道される製造業不況とは裏腹で)拡大基調にあり、その先行き予測も力強い。

 国内では、自動車の急回復で、鉄鋼需要も急回復し『鉄は自動車工場へ』となり、その他の工場では、鉄の奪い合いによる品薄が深刻化している。現在は、ステンレスなど非鉄金属の供給は比較的安定しているようであるが、3月以降は鉄・非鉄とも品薄が激しくなるだろう。

 工作機械業界などでは、コロナ禍で急速に落ち込んだ受注が回復し、在庫も解消し、いよいよ製造再復活と勢いのついた時に、品薄に襲われ、部品等も調達できず『売れても作れない』状況が発生している。

 精密板金業界は、多品種少量生産を得意とするため、鋼材の品薄は真の脅威である。価格的にも、コロナ以前は1Kgあたり90円−95円で推移した鋼板価格は、最近では110円を突破し、少量購買では130円に迫る価格まで高騰している。鋼材の品薄・高騰は始まったばかりであり、今後の重要な脅威となるだろう。
 2番目の脅威は、人材不足である。昨年度、コロナショックで受注が落ち込み、工場操業度が大幅下落した時には、一時帰休などを実施しており、人手不足など全く問題ではなかったが、コロナ禍の終息とともに、『人手不足』が深刻な脅威として台頭する。

 すべての社員が正規雇用で地元定着型の雇用形態を持つ企業は、この脅威は比較的少ないと思われるが、外国人労働者に依存してきた企業にとっては、半端ではない脅威となり、企業経営のアキレス腱となりかねない。本格的な受注回復・成長軌道に向かう今後、あらためて外国人労働者に依存することは難しい。

 筆者と親しい中小製造業の多くが、コロナ以前に外国人労働者に多く依存していた。ところが、歴史的な海外の事例を見ても、外国人労働者に依存した製造業が衰退してきたことは、明白であり、コロナ禍によって日本が欧米のような外国人労働者依存製造の道を歩まなかったことは幸いである。

 ①鋼材の不足 ②人材の不足 の2大脅威に対応する中小製造業の経営指針は、現在の従業員を大切にし、AI(人工知能)とロボットを従業員の支援として協働作業をおこなう『日本式IoT・DX』を強力推進する以外に対応策はない。IoT・DXの活用により、鋼材の在庫管理を徹底し、市況をリアルタイムで把握し、鋼材の不足に対応する。また、人とAI・ロボットの協働は、労働生産性向上と人手不足の特効薬となるだろう。

【著者】

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。