製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (44)

実験や試験をやらせる場合の最重要指示事項がわからない

安全確保し目標期限までに報告書を

 

今日のワンポイントは、「若手技術者に実験や試験をやらせる場合の最重要指示事項がわからない」という時には、「まずは安全第一、そしてその次は活字と画像での報告を目標期限までに行わせる」ということを徹底してください。

 

実験や試験は技術者にとって時間の取られる業務の一つ

企業にとって若手技術者は、中堅技術者の時間捻出のために非常に重要な戦力です。製造業の技術者の業務で時間がかかるのはやはり「実験や試験」という実際に手足を動かす仕事です。化学系であれば化合物の合成や分析、機械系であれば評価設備の準備とオペレート、ならびにデータ取得等がその一例です。製造現場であれば生産設備の稼働もそのような業務の一つになります。

このような仕事はさまざまな事を同時に処理しながら、目指すべきゴールを見失わないというバランス感覚が重要になるため、経験の浅い若手技術者にとっては高度な業務となります。また刻一刻と想定外のことが起こることもあり、時間が想定以上にかかり、業務時間の多くを費やすことも多いのが実情です。

指示するマネジメント側は自らも経験がある上に、客観的に見えるため非常にもどかしい部分もあるかと思います。しかしながらここでいろいろ言ってしまうと若手技術者はより混乱します。そのため、優先順位の高いものに要点を絞って指示を出すことが重要です。

 

実験や試験を行う若手技術者に対する指示事項の優先順位

まずどのような仕事でも最優先は「若手技術者の安全確保」です。けがをする、危険物にさらされる、その他健康に害を及ぼす可能性のあるものについては、リスク回避に向け徹底的な教育を行ってください。

各業務には安全性に関する手順を明記した手順書を準備しておくのが理想的です。このような手順書を教科書として、時間がかかっても若手技術者の体と健康を守ることだけは絶対に譲らないでください。

 

安全の次に重要な指示事項とは

そしてその次に重要なものが「成果物の説明」です。「指示をした実験や試験がどのように進んだのか、そしてそれによって何が得られたのか」上記の情報が指示した側に入ってこないと、部下はいったい何をやっているのかわからない、ということになりかねません。そのため、あらかじめ成果物は何かを明確にしておく必要があります。

成果物として重要なもの。それは、「技術報告書」です。評価の背景、目的、結論、概要がA4用紙の1ページ目にまとめられ、2ページ目以降に行った試験、結果が述べられている。そして、技術者のスキルを高める考察までを書いたものが技術報告書です。

若手技術者のほぼ8割以上は満足に書くことができない技術報告書ですが、あらかじめ成果物を指示しておくことで最低ラインを上げておくことができます。内容が不十分であっても若手技術者が技術報告書の構成を理解していれば、マネジメント側が若手技術者がどのような理解で仕事を進めているのか、ということを把握できるからです。これにより修正が必要な部分について指摘と指導を行うことができます。当然若手技術者に考えがあるのであれば、それに応じて技術的な議論を行うことも重要です。

 

このような最低ラインを維持するためにまず伝えるべきことは、「成果物は活字と画像である」ということです。技術報告書の基本構成を伝えた上で、その構成要素となるのが活字と画像である、ということを強く意識させてください。

口頭での報告はもちろん速報という意味では大切です。しかし、最後は「技術報告書」という活字でまとめなくてはいけないということを強く意識することで、「どうしたら技術的な結果を活字と画像で伝えることができるか」ということを「思考する」ということを習慣づけさせることができます。

マネジメントの中には「技術報告書の作成は時間がかかるので、働き方改革の観点からも回避したい」という考え方もあるようです。これは興味ある事を後回しにしようという技術者の思考の癖と、残業時間を圧縮したいというマネジメントの考えが悪い意味で一致する例といえます。試験や実験の無駄なやり直し、技術者間のコミュニケーションの低下等、長期的視点でいくと間違いなく業務効率低下に向かってしまうでしょう。

以下のような事象は技術報告書の書けない技術者集団の典型例です。「打ち合わせの議論が発散する」「メールの文面が不必要に長い」「口頭でのやり取りに時間がかかる」「指示事項を理解してもらえず、何度も説明しなくてはいけない」「誤解故の間違いややり直しが多発」。

 

時間軸をきちんと意識させる

そしてもう一つ重要な事。それは「目標期限を伝える」ということです。どのような仕事もマネジメント側の想定する時間軸があるはずです。その時間軸を伝えるのはマネジメントとしては当たり前なのですが、マネジメントが技術者や元技術者は苦手な場合が多い。正確には、そのような情報を伝えるという習慣が無いのです。専門性至上主義を有し、それで勝ち上がってきた技術者や元技術者の典型パターンです。時間軸を意識し、それを他者に伝えるという考えが無いのです。
 
現場の人間であればそれでもよかったでしょう。当時のマネジメントがそのあたりを管理していたからです。しかし、若手技術者を指導し、管理する業務もあるマネジメント層の技術者や元技術者はそのままではいけません。きちんと目標期限を伝え、それに間に合わない状況にあるとわかった場合にはすぐに相談する、または相談するタイミングをフォローしながら見極める。そのような時間軸を意識した業務指示を若手技術者に行うことで、若手技術者もタイムマネジメントのできる技術者として成長していきます。

「まずは安全第一、そしてその次は活字と画像での報告を目標期限までに行わせる」そのようなことを最初に徹底した上で、時間のかかる実験や試験を指示することは、必ず若手技術者の成長を後押しする貴重な経験となるに違いありません。

 

◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。

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