製造業の働き方改革 デジタル化&現場改善で現場業務の負荷軽減から始めよう

 新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、製造業を含む多くの産業でリモートワークが広がり、働き方改革が大きく前進した。しかし実際に実施できたのは営業・販売や管理といった一部のオフィス業務に限られ、製造業のなかでも設計や製造、保守など現場業務は普段と変わらない通常勤務となるケースが多かった。
 「製造業」の働き方改革を考える時、カギとなるのがこれらの現場業務に携わる人々の働き方、業務の進め方をどうするか。ここを解決しなければ、本当の意味での働き方改革は実現しない。そこで今回は、製造業の働き方改革とその進め方について考えてみたい。

【結論】製造業の働き方改革は、現場業務の変革が本丸。デジタル化と現場改善をもっと進めよう

 製造業は人手不足に悩まされている。特に製造業の現場業務、いわゆる設計や製造、保守といった工場の現場業務の労働力不足は深刻だ。働きやすい現場環境づくりを進め、従業員の離反を防ぎ、間口を広げることが製造業の働き方改革の第一歩だ。

 それを実現するにはどうすればいいか?結論から言えば、現場業務はモノが動くリアルな業務が多く、オフィスワークのようにリモート化や柔軟な働き方へと大きく舵を切るのは難しい。しかしながら何もしなければ人手不足は解消できない。だからこそまずは足元の労働環境を改善し、従業員の負荷を減らすためのデジタル技術の積極的な導入と現場改善が必要だ。

 デジタル化も現場改善も、実施後の効果は生産性向上と労働環境の改善という同じゴールに行き着く。働き方改革だからといって製造業企業はデジタル化という今の方向性を大きく転換する必要はない。ただ、現場業務に携わる人々に対するリスペクトと、負荷低減や成長につながるためのエッセンスを加えることは忘れてはいけない。

オフィスワークとは一線を画す製造業の現場業務

 働き方改革と言っても業界や業種、職種によってもその形は千差万別。「製造業」に限った場合、どんなものになるのだろうか。

 働き方改革とは、厚生労働省の文言を借りると、「働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革」だという。しかし製造業の業務は、営業や総務経理などの一般的なオフィスワークと、製造業ならではの現場業務の2つに大別できる。後者は製品設計や生産準備、製造、保守メンテなど製品づくりに直接関わる現場業務に加え、生産管理や調達、物流なども含まれる。いわゆる工場等で技術者や作業オペレーターが行なっている業務だ。

 彼らの業務と働き方はいわゆる一般的なオフィスワークとは内容や性格がまったく異なる。工場でリアルな製品を作り、特殊な設備や装置を使ったり、機密情報を取り扱っていたり、はたまた工場の状況を見ながら計画を調整したりと特殊な制約や条件のもと日々行われている。
 いわゆる働き方改革の定義をそのまま当てはめ、一般的なオフィスワークと同じように実現しようとしても難しく、それは適切ではない。多額な設備投資も必要で、時間も工数もかかる。「製造業の」働き方改革と言った場合、製造業ならではの事情を汲みながら、できることから始めることが大切だ。

肉体的・精神的にも高い負荷がかかる現場業務

 働き方改革のゴールは人手不足の解消とされ、2007年の団塊世代の大量退職あたりから製造業の人手不足は一段と深刻さが増してきている。製造業、特に現場から人がいなくなり、新たに人も入って来なくなっている理由は何なのか?その原因と対策について現場業務ならではの事情なども含めて考える。

 現場業務と言えば、3Kのイメージがいまだ残っている。以前よりもだいぶ改善されてきているとは言え、肉体的、精神的な負荷はオフィスワークに比べて高めだ。まずそれを解消し、オフィスワークと同レベルか許容できる範囲まで下げることが求められる。

 例えば製造部門では重量物のハンドリングや機械・工具を使った作業、長時間同じ姿勢のままの単調作業などがあり、保守メンテナンスでも高所や狭所、危険箇所での作業、深夜や早朝、休日の作業などが今も行われている。現場で油にまみれて行う作業はザラにある。
 また殆どの業務が基本的な安全は確保されているとは言え、一歩間違えば命の危険や大怪我になるような作業内容も多い。労災事故も年間で数件発生しており、肉体的にも精神的にも負担は大きい。
 加えて品質や納期は厳守であり、そのプレッシャーもある。

 業務の性質上、これらをゼロにすることは不可能だが、極力減らすことはできる。一つひとつ発生原因を潰して、作業者への負担を減らし、快適な業務環境に近づけていく努力が必要だ。

Industriearbeiter Giesserei // foundry industry employees

見えにくい仕事へのやりがい

 製造業に限らず、退職理由として多いのが「やりがいがない」こと。自分の業務が社会のどこでどう役に立っているのか?自分の能力は上がっているのか?別の会社や社会に出ても通用するスキルがえられているのか?などに不安を感じ、退職するケースは多い。

 製造業の場合、メーカーであっても自社製品が社会のどこで何に使われているか分からないケースは多い。特に部品や素材メーカーではそうした声をよく聞く。そんな状況では、現場の一工程の担当者ではそれを知る由もなく、ただ作業としてこなすだけの状態が横行している。これではやりがいや愛着を持てないのは当然だ。作業や製品と社会のつながりと、それが産む効果を正しく学び、教えることは離職を防ぐことにつながる。

成長意欲を喚起し、成果を正しく反映する評価を

 仕事は給与を得る手段であると同時に、自己の修練やスキルアップとして前向き員取り組む人は多く存在する。
 作業が以前より速くできるようになった、できなかった加工ができるようになった、前よりも失敗が減った、新しいやり方を覚えた、新しいツールが使えるようになった、上司に褒められた、お客さんに喜ばれたなど、小さな成功がやる気を生み、楽しさにつながる。人々の成長や向上意欲を満たすことは、仕事を楽しく、充実したものとするためにも重要な要素だ。

 成長の見える化とそれを実感できる仕組み、適切な評価制度の構築。さらに給与への反映。これまでは各人のそれを測る手段があまりなく、整備されていなかった。それがあれば仕事への愛着がわき、働き続けるモチベーションにもなる。

製造業の働き方改革 人の負荷低減と成長促進で満足度を上げる

 働く人々の肉体的・精神的負荷を低減し、同時に成長や向上意欲を満たせる仕組みを整え、製造業で働くことを楽しめる状態を作ること。働き方改革として製造業界が取り組むべきは、こうした環境の整備だ。では、具体的には何を行えばいいのか?答えはシンプル。現場業務に携わる人々の負荷低減と成長を主目的とするデジタル技術の積極採用による「デジタル化」と「現場改善」だ。

デジタル化は現場で働く人を幸せにする

 いま多くの企業がデジタル化に取り組み生産性向上に努めている。働き方改革が叫ばれるなか、このままデジタル化を進めていってもいいものだろうか?働き方改革と逆行する恐れはないのだろうか?

 いまデジタル化で叫ばれていることの多くは、企業の生産性向上や次の時代の生き残りに向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)がほとんど。そこで働く人の話はほとんど出てこない。いわば企業、経営目線の論調で語られる。

 しかしデジタル化は、生産性を上げると同時に、働く人の負荷を軽減し、新たな技術に触れる機会を作ることで人の成長意欲を刺激する。「人」にスポットを当てる働き方改革とは主目的は違えども、出てくるアウトプット、効果は同じ。デジタル化の推進は、結果として働く人を幸せにし、さらなる働き方改革につながっていく。すでに多くの企業でロボットやIoT、AIなどデジタル技術が導入されてきている。そうした企業では現場や働き方に変化が起き始めているのは事実だ。

 これまでのデジタル化は、企業・経営目線で良かった。しかし大きな時代の潮目に来ているこの時、デジタル化の目的を現場で働く人目線へと逆転させ、彼らの気持ちに寄り添う形での改革へと大きく舵を切るタイミングに来ている。

Industry 4.0, 5.0 Collaborative robot technology , new relationship between man and robot hand machine ,mass personalization, productivity customization of cobots in electronic smart factory concept.

自分の労働環境を自ら良くする現場改善

 負荷を減らし、現場を快適にするには、現場のナマの声を反映する現場主導型の取り組みも必要だ。その役割を担うのが現場改善であり、それを継続・強化することで短いスパンで労働環境を改善できるようになる。

 最近のデジタル化は、経営層が現場を巻き込み、全社的なプロジェクトとして取り組む経営主導型の色が濃くなってきている。かつては小さなIoTで現場だけで完結できたが、最近はそうもいかなくなってきている。
 デジタル化は、長期目線で、広い範囲の改良を、金をかけて行う。多くの現場業務を大きく変え、劇的な効果が期待できるが、一方でそこには粗さが必ず発生し、ムダや非効率、負荷の原因になったりする。それを補完するのが現場改善。目の前の小さな改善を、コストを抑えて実行する。この両方が整ってはじめて最大の効果が上がるようになる。

【まとめ】やはりポイントはデジタル化と現場改善

 製造業の人手不足が起きた理由は、業界の変化とそこへの意欲、スピード感に欠け、勢いと国際競争力を失っていったことが大きい。斜陽産業と揶揄されることもしばしばだ。

 いま必要なのは、変革を積極的に進め、勢いのある業界であることを内外に示し、デジタル化を通じて利益体質へと変身し、そこで得た利益を従業員に還元すること。製造業の負のイメージを払拭し、再び世界経済をリードする地位に返り咲けば、自ずと人手不足解消への道は開ける。
 生産性向上のため、いま企業が熱心に取り組んでいるデジタル化は、そのまま働き方改革や従業員の負荷軽減にもつながる。また新たな技術を取り入れた活動として成長意欲の高い人にとっては魅力に映る。デジタル化は避けては通れない道であり、積極的に進めることが有効だ。
 一方で、デジタルだけに期待するのではなく、現場を良くするために自らが行う現場改善も継続して行う必要がある。デジタル化を通じた上からの改革と、現場改善を通じた下からの改革。両方が合わさってこそ、従業員にとっても会社にとってもメリットのある変革になる。

 製造業の現場業務には変わる余地がたくさん残っている。固定観念にとらわれず、聖域とならず、あらゆる可能性を試し、積極的にデジタル化に取り組むことが重要だ。

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