【提言】「ドイツの凋落」崩れ落ちるグローバル主義 コロナ終息後の日本の中小製造業〜日本の製造業再起動に向けて(61)

2020年3月25日

誰も想像しなかった大惨事「コロナショック」が世界を激震させている。先の見えない状況に人々はおびえ、株は暴落し、実態経済も大惨事に陥っている。

皆さんは、最近はやっている『ロックダウン・パラドックス』という言葉をご存じだろうか? コロナ対策で、入国制限や都市封鎖が全世界で実施されているが、これをロックダウン(閉鎖)という。パラドックスとは「正しいが正しくない」といった意味である。「コロナ対策で閉鎖は正しい。経済崩壊を起こすので閉鎖は正しくない!」そんな意味あいで『ロックダウン・パラドックス』という言葉が使われている。

中国では、武漢ロックダウンが「功を奏している」と報道される一方で、欧米では急速なコロナ蔓延に陥り、各国が強烈なロックダウンを発動している。ドイツが「ドイツ国境を封鎖する」との衝撃的なニュースが飛び込んできたと思ったら、フランスでは外出禁止令が発動。イタリアでは強烈な地域封鎖を行っているらしい。前例なきロックダウンに欧州連合(EU)は恐怖のどん底に落ちている。米国でも強力なロックダウンに踏み切っており、リセッション(景気後退)の不安で株価は暴落。略奪に備えた銃の買い占めも起きており、人々はパニック寸前の状況である。

 

当社(アルファTKG)では、インド・チェンナイのインド工科大学サイエンスパーク内に事務所を設け、約50人がソフト開発に従事しているが、大学の閉鎖と立ち入り制限が始まり、当社社員もテレワークに移行した。感染者の少ないインドでも、日本以上の徹底したロックダウンが始まっている。コロナが終息に向かえば、ロックダウンは解除され、『ロックダウン・パラドックス』の声も終息する。しかし、ロックダウンがもたらした衝撃は、人々の心に強く残り、コロナ蔓延前のグローバル社会を支えた「パラダイム(共通概念)」に戻ることは不可能である。

コロナをキッカケに、皆が疲弊したグローバル化に警戒し、国や地域を中心とした概念が生まれる。「無警戒のグローバル化推進」というパラダイムが消え、国境を意識した「自国第一主義」が世界の共通概念となる。グローバル主義の終焉による歴史的なパラダイムシフトをわれわれは経験していくのである。

このパラダイムシフトで最も強く影響を受けるのはEUである。グローバルの象徴として注目されたEUは、形骸化もしくは消滅に向かう。各国が独自の主権を求め、独自の主張が始まるだろう。時代の逆行である。かねてより満身創痍のEUは、英国の離脱で予算も欠乏し団結力を失っている矢先に、ドイツが国境封鎖に踏み切ったことでEUの命運は尽きた。EUの「優等生」ドイツは、昨年の米中貿易摩擦の影響で深刻なリセッションの最中にコロナに直撃され、八方ふさがりとなっている。かつては、南欧や東欧への輸出で財を築き、中国やロシアの輸出に依存してきたドイツは、大きな後遺症に悩まされている。さらに、経済面のみならず移民問題も抱え、ドイツ混乱は避けられそうにない。

 

ドイツ発「現代の黒船」として、世間の話題となった「インダストリー4.0(I4.0)」も難破の危機がある。第4次産業革命を見据えたこの思想は依然として極めて有益であるが、グローバルに全体を共通化しようとしたトップダウン思想のI4.0の普及は難しい。I4.0に代わって、各国・各地域・各社の歴史や伝統を重んじ、レガシー(現有資産)を最大限に活用する「ボトムアップIoT」が第4次産業革命の中心になるだろう。

歴史的パラダイムシフト進行の中で、日本はどうか? 日本の中小製造業はどうなるのか? 結論から言えば日本はドイツとは事情が全く異なり、日本は恵まれている。ロックダウンによる当面の景気後退はやむを得ないが、そのあと大きな回復が期待できる。日本は輸出依存も小さく、移民問題も存在しない。反グローバルの台頭で、好むと好まざるとにかかわらず、大手製造業のリショアリング(製造業の国内回帰)の流れが本格的に加速して、中小製造業の受注高も増大することで、日本のものづくりが息を吹き返す大きなチャンスがやってくる。

グローバル化の崩壊は、中小製造業にとっての大きな福音である。日本列島津々浦々に存在する日本の中小製造業は、優れた技術とローカル文化に育まれ、世界に類のない企業集団である。デジタル化も進んでおり、「ボトムアップIoT」による第4次産業革命の開花のインフラもそろっている。日本の大手製造業リショアリングの受け皿として、中小製造業の活躍が期待される。

 

中小製造業の唯一のアキレス腱は「人材不足」で、「人材不足の克服」が中小製造業の喫緊の課題であるが、その打ち手として「若者にとって魅力ある企業」の構築を目指さなければならない。

3K(暗い・汚い・危険)イメージの払拭や体育会系の現場技能教育の排除は急務である。多くの若者はかっこ良いサービス業を好む傾向を否定できないが、職人の技を体得し、ものづくりに情熱をかける若者は希少価値であり、若者にとっての魅力ある製造業の創造には製造業のサービス業化が必須である。具体的には、最先端技術を活用したカッコよく生産性の高い『事務所の構築』が必要である。もちろん事務所には、高度なエンジニアリングチームも構成されなければならない。

最先端技術の活用とは、RPA(Robotic Process Automation)やAI(Artificial Intelligence)の活用であり、事務所作業を徹底的にソフトロボット化した企業(ロボ工場)への志向である。RPAは、レガシー(現有資産)のしっかりした企業に導入することで成果が出る。実に日本の中小製造業にマッチしたソリューションである。パラダイムシフトに伴う新しい国際社会の潮流を先取りし、イノベーションを推進する好機である。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。