【提言】金属加工を襲うパラダイムシフト「PLA(ポリ乳酸)が起こすプラスチック革命」〜日本の製造業再起動に向けて(58)

2019年12月18日

数年前より「プラごみ問題」が地球規模の問題として、テレビなどで大きく取り上げられている。プラスチック製品が海に流れ込み、海洋動物が不運な被害者となる映像を見て、衝撃を受けた方も多いのではないだろうか? プラスチック製ストローの使用を禁止する企業や、規制をかける国(英、仏、台湾など)も出てきており、プラスチック製品は悪者の代名詞となっている。

プラスチック業界は、日本の製造業を支える年間数十兆円の巨大産業であるが、業界の存続を危ぶむ声もある。鉄などの金属をベースとした「金属加工業界」では、かなり以前よりプラスチック技術を注視し、金属製品がプラスチックに変わる恐怖を抱いていたが、プラごみ問題をキッカケに、『やはりプラスチックはダメだ。金属は永遠である!』とのイメージが金属加工業界に蔓延している。『金属からプラスチックへ』の話題は聞こえてこない。

ところが、2019年春先から工作機械メーカーの受注高は、連続して前年同月を割り込み、18年度と比較し40%もの受注減となっている。業界は強烈なリセッション(景気後退)に襲われており、自動車のEV化による金属業界全体の衰退危機もささやかれ、金属加工業界は決して穏やかではない。一方で、プラスチック業界では、金属加工を脅かす「3Dプリンター」や「PLA((ポリ乳酸))革命」が進行中であり、射出成形機メーカーも将来戦略を強力に推進中である。

 

皆さんは『PLA』をご存じだろうか? PLA(Poly-Lactic Acid)とは、ポリ乳酸の頭文字をとった略であり、PLA樹脂と呼ばれ、およそ20年前に開発された植物由来のプラスチック素材である。じゃがいもやトウモロコシに含まれるデンプンなどによる樹脂である。石油からつくられる従来の素材に代わる、バイオプラステックと呼ばれる自然に優しい素材である。植物由来のPLAは、地球環境に優しいプラスチックであり、3Dプリンターによる金型製造技術の進化により多品種少量生産にも対応でき、プラスチック加工の概念が大きく変わっていくだろう。

EV化に伴う「新型電池」も膨大な需要が予測されるが、絶縁性の観点から金属製品は否定されプラスチック化は必須である。自動車エンジンの後退とともに、金属加工製品からプラスチック製品への需要変化が始まっている。

パラダイムシフトとは、共通概念が破壊される時に使われる言葉であるが、今日の工作機械業界のリセッションと射出成形機業界の堅調性は、単なる景気循環サイクルではなく、大きなパラダイムシフトの序曲であるかもしれない。パラダイムシフトという発想の転換は、日本人にとって極めて不得意の領域である。

 

発想転換の難しさを証明するエピソードがある。30年前に、旧電電公社の幹部であったA氏との忘れられない会話である。A氏との会話の中心は、『電話の進化は、電話機にコンピュータがつくのか? コンピュータが電話機になるのか?』の議論であった。A氏の熱弁は『電話機がいかに優れているか!』の解説であり、交換機を含めた電話網のシステムは永遠であり、『電話機にコンピュータがついて便利にはなるが、コンピュータが電話機の代わるのはあり得ない』とのことであった。

A氏の認識は当時のNTT幹部の総意であった。事実、NTTは『iモード』を開発し、ガラパゴスと呼ばれるコンピュータを搭載した機能満載の携帯電話を開発したが、世界はこれを否定した。

世界的なイノベーションはNTTの思惑とは違い、スマホが全世界で普及した。スマホの普及は従来産業(特に日本の産業)を破壊する暴力的かつ破壊的なものであった。スマホはコンピュータそのものである。コンピュータに電話機能が搭載され、交換機など従来の電話網システムを不要にしてしまった。旧電電公社の幹部いわく、『絶対にできない事』が海の向こうで実現したのである。スマホ(コンピュータ)は、電話機のみならず、カメラやオーディオやカーナビなどを飲み込み、従来の専門機器メーカーは不要となり、日本に存在した大メーカーを破壊し、殲滅に追いやった。発想の転換に遅れた『日本の敗北』である。

 

今後、破壊的イノベーションは全産業で加速するだろう。コンピュータとEVにタイヤがついた車、コンピュータとEVにアクチュエータがついた工作機械など、EV化の潮流に合わせ、従来の概念が完全に変わるパラダイムシフトが起きるだろう。コンピュータとインターネット、そして人工知能技術が中核となる時代の到来である。20世紀に世界を席巻した日本製商品(電話通信機器・オーディオ機器・カメラ・自動車・工作機械など)の全てが、コンピュータと人工知能に飲まれていくイノベーションが世界で起きている。昭和・平成時代に活躍した日本の名門大企業が疲弊し、衰退する姿を皆が見てきた。

金属を対象とした工作機械も日本のお家芸であるが、機械のイノベーションはすでに終焉を迎えつつあり、各メーカーから発売される新機種はマイナーチェンジの範囲にとどまっている。その半面、プラスチック加工はPLAなどの素材革命や金型製造革命を含め、大きなイノベーションも期待され、需要も極めて大きい。『金属は永遠である!』、『当社には歴史が育んだ金属加工のノウハウがある』という概念を過信していたら、大きなパラダイムシフトの潮流に飲み込まれてしまうかもしれない。将来への変化の兆しを直視し、パラダイムシフトを自ら誘導する強い日本企業の台頭を確信し、2019年締めの提言としたい。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。