製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (33)

2019年12月11日

新人技術者の“知っている”ということが実務には使えない

今日のワンポイントは、「新人技術者の”知っている”ということが実務には使えない」という時には、「すべてを教えるのではなく、期限を決めて調べさせて説明させる」ということを心がけてください。

新人教育について、弊社の顧問先でも全体研修が終わり、研究開発部門での教育を開始しています。年齢や土地柄で技術者のタイプを分類するのはあまり意味が無く、個々人の性格に由来する要素の方が大きいと考えますが、ほぼ全員に共通して当てはまるのは、「新人技術者の”知っている”ということが実務には使えない」ということです。

 

新人技術者に対する基礎技術的な質問をすると、「それは知っています」と答えることが良くあると思います。問いかけた方は「知っている」ということは、ここまでわかっているのだろう、と判断してしまうでしょう。

しかし、実際にふたを開けてみると、その技術の名前を知っている、少し触ったことがある、本で読んだことがある、といったレベルであることが殆どでしょう。新人技術者たちの「知っている」は、上記のようなレベルなのです。

 

知っているというので仕事をやらせてみたところ、仕事が殆どできず、やらせた側は何が起こったのだろう、と考えるはずです。正直なところ学生の知っているは、経験がある程度ある技術者の知っているという言葉の定義と、大きくかけ離れているのが当たり前であり、新人技術者を責めてはいけません。

多少の冗談として、「大学で何を学んできたんだ」というのも悪くはありませんが、専門性至上主義が刷り込まれている理系学生上がりの新人技術者はプライドが高いのが一般的であり、あまり言いすぎると、「自分が会社に入ってやりたかったのはこういう仕事ではなかった」と現実逃避が始まるでしょう。企業の収益を高齢の社員が圧迫する昨今にあって、若い人が会社を去るのはできる限り回避したいのが企業の本音です。人材の代謝を止めると技術の向上が鈍化するのはもちろん、人件費が上昇する一方だからです。

では、技術者育成の観点でどのような教育をすればいいのでしょうか。最も大切なのは新人技術者の「知っている」と、一般的な技術者の言う「知っている」の溝を埋めるということです。ここが第一歩でありすべてなのです。

 

技術者育成において「教える」ということは大切です。いわゆる指導です。しかし、学生の多くは「会社に入っても色々教えてもらえる」と学校の延長で考えている場合が多く、「餌をもらうために口を開けて待つ」という態度になりがちです。学歴の高い新人技術者ほどその傾向があります。

しかし技術者としての実務を積んでいる方であれば当たり前ですが、待っていて成長することはほとんどなく、「様々な調査に加え、実験や検証を通じて事実を見極めながら技術的本質を突き詰める」という能動的な取り組みをしない限り技術者としての本当のスキルは向上しません。

技術の本質は極めてシンプルであり不変です。一方で、細々した多項式を多く組み合わせるのは、つじつま合わせの結果でしかありません。ほぼ例外なく事象の本質を説明する式はほぼすべてシンプルです。そこに様々な紆余曲折を経て理解できない限り、身に染みて技術の本質は身につかないのです。そのため、技術者は能動的に調べ、技術的本質は何かを突き詰めることが求められます。

そのため技術者に対してわかっているかどうかを確認するには、知っているのか、という確認だけでなく、「すべてを教えるのではなく、期限を決めて調べさせて説明させる」ということを行ってみてください。

 

すべてを教えるのではなく、調べさせるというのが一つ目のポイントです。教えられたことはその場ではわかった気がしますが、実際に経験を経て理解したことではないため忘れてしまいます。そこで「すべてを教えるのではなく、調べさせる」という技術者として極めて重要な、「能動的調査能力」を醸成するというのが、その後の技術者の自己成長を助長します。自分で調べるという能力は技術者にとって必須といえます。

また、「説明させる」というのが二つ目のポイントです。本当に理解しているのか否かについては、その本人の口から説明させるのが一番です。人にわかりやすく説明するには、説明する相手の数倍は理解していないとできません。新人技術者からの説明が的を得ているということを技術者指導者層の方が感じた、ということは本当の意味で「知っている」ということと同等になります。

また調べることにこだわり、無期限に調査をすることを避けるため「調べる期限を決める」ということも重要です。何月何日までに調べる、ということを指導すればいいと思います。民間企業における技術者は、時間軸という意識が重要であり、限られた時間の中で何ができるのかという感覚を早い段階で身につけることが重要です。

 

専門性至上主義故、「知っている」ということに対して執着する新人技術者と、「知っているということとの基準に達していない」ことに対して戸惑う技術者指導者層の方々。これらの溝を埋めるための一つのアプローチとして参考になれば幸いです。

 

◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。