【提言】令和時代の戦争と平和『人工知能とドローンの新時代戦争』〜日本の製造業再起動に向けて(51)

2019年5月29日

『川を上れ、海を渡れ』…この意味は、連綿と流れる歴史の川を遡り、過去の教訓を学ぶと同時に、海外に視野を広げ、違った角度から物事を見ることの重要性を表した言葉である。

皆さんは、令和の時代に『日本は戦争に巻き込まれる』と思うだろうか? それとも、令和の時代もそれ以降も、未来永劫『戦争なき平和』が続くとお考えだろうか? もし戦争が起きるとしたらどんな戦争なのか? それを避けるための手段は?

『戦争と平和』…こんな言葉は日本社会ではいまや死語に近い。戦争と平和について不感症となってしまった日本人にとって、『令和の時代の戦争と平和』を考えること自体が稀有なことであるが、改めて『川を上り、海を渡れ』の言葉を噛み締めて、『令和の時代の戦争と平和』を考えてみたい。

 

日本の歴史の川を上ってみれば、悲劇の戦争が随所に登場してくる。歴史ドラマでは英雄物語として語られる『明治維新』も、海外から見れば、150年前に日本で起きた武力革命であり壮大な市民戦争である。時の政府(江戸幕府)を武力で倒した日本のクーデターは、多くの戦争犠牲を生んだ暴力であり、日本人同士が殺し合う悪夢の戦争であった。決して美談などではない。

薩長によるクーデターの成功には、超大国『大英帝国』の思惑があり、大英帝国から供給を受けた最新武器の威力が、勝因であったとも言われている。日本の明治維新は、大英帝国の戦略の結果でもある。大英帝国は、思惑通り大量の武器を日本に売り込むことに成功したのである。

明治新政府は『富国強兵』を掲げ、英国から武器を大量に輸入し、国民を巻き込む『侵略的な戦争国家』となっていった。日清・日露戦争を勝ち抜きながら、太平洋戦争の終結に至るまで、日本国民全員を巻き込む戦争の日々が半世紀以上に渡り続いた。数百万の人々が戦争の犠牲となったが、日清・日露戦争の勝利により、『世界の一流に名を連ねる国家』に日本が躍り出たことも歴史の事実である。

 

戦争とは、最新兵器を持つものが勝利する。…と断じるには異論もあるが、歴史を遡れば、『技術イノベーションが戦争の勝敗を決する』という事実を否定する事はできない。

『最先端技術と戦争の勝敗』をテーマに歴史を遡ると、戦争の勝ち負けは、軍艦や飛行機などの目立つ武器の優位性だけではなく、『情報通信技術』の優劣に注目しなければならない。

今日、誰もが手にしているスマホやインターネット技術は、遠い昔に開発されたモールス通信やレーダー技術などから進化してきているが、日露戦争や太平洋戦争の勝因に、これらの技術が強く影響していた事がわかってくる。

 

筆者は、40年近く前に電気通信大学を卒業した。この大学は、戦前には軍事技術とは切っても切れない国家機関であったせいか、先端技術の研究に熱心な国立大学である。私も在学中には、日露戦争に活躍したモールス通信の講習から始まり、レーダーによる飛行物体の補足や解析技術など、軍事に活用された技術を多く学んだ。モールス通信とは、100年以上前にイタリアのマルコーニが開発した無線通信の手段であり、人類が初めて遠隔地との無線コミュニケーションを可能にした通信技術である。

マルコーニの開発から10年も経たない間に、日露戦争が勃発し、日本はロシアに大勝利する結果となった。超大国ロシアに対し、国力や技術で大幅に劣る日本に勝利をもたらしたのは、モールス通信による日本連合艦隊の円滑な相互連携であったと言われている。これを可能にした技術の結晶は、国産式の『三六式無線通信機』である。世界トップの技術を有する無線機が、安中電気製作所(現アンリツ)によって開発されており、海軍幹部の英断で「日本海軍のすべての船に装備されていた」という驚くべき事実があった。

超大国ロシアのバルチック艦隊を遥かに超越した『無線通信装置』が、日本の連合艦隊に装備されており、実戦で大きな成果を発揮した事は驚愕に値する。日本海海戦で、日本の連合艦隊がロシアに大勝利したのは、三六無線通信機の存在である。

 

日露戦争の大勝利から数十年経って、日本が太平洋戦争で米国に惨敗したのは、「レーダーの重要性に気づかず、遅れを取った日本海軍」との歴史的事実がある。戦艦大和や零戦など、世界最高峰のハード技術を有していた日本が、電波兵器に関して先見の明がなかったことは、とても残念な事である。

『川を上れ、海を渡れ』から強く感じることは、モールス通信やレーダーなどの情報伝達の重要性である。令和の時代を迎え、インターネットやスマホは誰にとっても身近な空気のような存在となり、『第四次産業革命』との話題も多く耳にするが、これらの技術の重要性を肌で感じている人は意外と少ないのではないだろうか? 特に、人類に着々と忍び寄る『人工知能』と『ドローン』の技術が、我々の生活を一変させ、次世代の『戦争と平和の象徴』となることを想像している人は少ないのではないだろうか?

映画に出てくるような『鉄砲担いで敵地に向かう』戦争が起きることはありえない。ドローンが特攻攻撃を担い、何百台のドローンが、人工知能の指揮によって一斉軍事行動を行う時代がやって来るだろう。人工知能とドローンが新時代戦争の武器となる。

令和が戦争なき平和な時代であるためにも、最先端技術分野で遅れを取ってはならない。日本は第四次産業革命に遅れを取っていると皆が認識している。今日の遅れを挽回するために、日本政府のみならず、民間企業が総力を上げて最先端技術に挑戦し続ける事が絶対条件ではないだろうか?

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。