【提言】外需失速を警戒する日本製造業「米中貿易戦争の行きつく先は?」〜日本の製造業再起動に向けて(48)

『外需失速・内需好調拡大』・・多くの経営者が、米中貿易摩擦の影響から輸出減少による経営悪化を警戒しており、『米中問題は予断を許さない』と語り、好調な内需拡大を予想する半面で、外需減少への危機感を抱いている。また、各メディアも米中貿易戦争の影響については敏感であり、『中国需要の減少が日本経済の悪化を招く』との警戒感を多く報道している。

『日本は貿易立国、資源の輸入が必要で自動車など工業製品を輸出して稼ぐ国』との概念からも、外需失速への強い警戒感が生まれているが、公表データによれば、日本の貿易依存度は輸出輸入とも10%台であり、諸外国から比べかなり低い水準にある。各国の貿易依存度をみると、韓国40%台で貿易立国の代表国である。ドイツも40%に迫っている。シンガポールを筆頭に東南アジア各国の貿易依存度は極めて大きく、欧州もオランダの60%台を筆頭に、各国とも貿易依存となっている。

日本は、意外な事に米国に次ぐ内需依存国家であり、貿易依存は小さく豊富な国内需要を持つ数少ない国である。日本が貿易立国という刷り込みは明らかに間違いである。この認識を持って、足元で起きている米中貿易戦争の国内への影響を分析してみたい。

 

筆者の会社は、板金製造業を営む中小製造業に多くの顧客を持つが、米中貿易戦争の影響で経営悪化している顧客はいない。一部の産業機器・工作機械メーカーは、中国からの受注減に見舞われているが、その影響比率は板金製造業の全体から見ると軽微で、業界全体は、依然として活況が続いている。特に社会インフラ関連の高需要が続いており、板金製造業全体はとても忙しい。内需は地場産業の農機具関連など縮小ムードに突入している業種もあるが、全般的には極めて好調で拡大基調にある。

一方、海外に目を転じると、中国の経済悪化は顕著である。中国で発表される経済指標は全く当てにならないが、貿易統計だけは相手国があるので、中国だけで捏造はできない。この貿易統計が最近10%近いマイナスを示しており、中国の経済破綻を如実に示している。中国GDPは政府発表とは裏腹に、すでに0%以下のマイナス成長に突入している可能性すらある。しかし、この経済悪化を米中貿易戦争と関連付けるのはおそらく見当違いであろう。

『中国は世界の工場、貿易で稼ぐ貿易立国だ!』との一般的な概念も決して的を得ていない。中国の輸出依存度は20%台と低く貿易立国とは言えず、また一方で個人消費も30%台しか無いので、内需も極めて弱い。外需も内需も小さく、歪んだ経済である。中国経済の実態は、明らかに政府主導の公共事業依存であり、これがGDPの40%以上を占めている。地方のゴーストタウンなど世界では類がない無駄な投資も多い。最近の中国経済の悪化は、公共投資依存で発展してきた矛盾が堆積し、負のマグマに耐えきれなくなった結果であり、中国経済はまさに『地獄の釡が開きかけた』状態にある。

 

中国経済悪化は、新興国はじめ世界に悪影響を及ぼすだろう。日本も少なからず影響を受けるだろうが、先進各国のなかでは、特にドイツが相当にヤバイ。欧州の優等生ドイツは、すでに中国経済悪化の直撃弾が多くの企業に命中し、好調であった経済が中国の冷水を浴びながら下降局面に突入した。

なぜ、ドイツに中国経済の悪化が直撃するのか? 『日本とドイツはよく似ている』とのイメージもあるが、人間性や生活習慣、そして経済活動においてもドイツと日本では大きな相違点がある。経済面での違いは、ドイツは『輸出依存国家』である。輸出比率は35%を超え、輸出で潤った国である。21世紀になって、ドイツは大きな経済成長を果たしたが、その背景にはEUの恩恵がある。同一通貨で為替変動もなく、ドイツは東欧や南欧諸国のEU加盟国に自国商品を大量輸出し大儲けした。そしてドイツが一人勝ちとなり、欧州内に格差が広がり、南欧諸国を国家破綻にまで追い込んだ結果、ドイツのEU域内での輸出戦略を制限せざるを得ない状況となった。

EU域内に替わってドイツが輸出の的として狙ったのが中国である。ドイツは中国攻略戦略を練り、ドイツ政府と民間大企業が一体となって、中国への献身的なアプローチを開始した。内需依存の日本人には想像もつかない戦略と行動力である。目論見通り、ドイツからの中国輸出は爆発的に伸びたが、残念なことにこれが裏目となって、ドイツの悲劇が始まり、解決できない闇に入ろうとしている。

 

先進国ドイツの外需失速は、ドイツの板金製造業にも影響が出ている。ドイツと比較しても、日本の中小製造業は恵まれた環境にあると言っても過言ではない。日本製造業の対処すべき課題としては、外需失速の警戒感も必要ではあるが、米中貿易戦争の本質論である最先端分野での技術競争とその動向を十分理解する必要がある。

米中貿易戦争の本質は、貿易問題などではなく、明らかに5Gなど最先端分野での技術戦争であり、第4次産業革命の主導権争いであり、国家の覇権争いである。米中貿易戦争は、米中どちらが勝ったとしても行き着く先は『真のデジタル社会』の到来であり、『デジタル活況・アナログ失速』が世界中で繰り広げられるだろう。

日本の中小製造業が対処すべき課題は、日本のお家芸『職人のアナログ技術』を大切にしつつも、間近に迫りくる5G時代『自社工場デジタル化推進』を一日も早くスタートし、デジタル工場に変換し、労働生産性の大幅向上を目指すことである。本国を追われた中国製造業が、大資本と自動化・デジタル化の仕組みを持って東南アジア各国に工場進出を開始した。いつ日本に上陸するかは予断を許さない。日本の内需好調拡大のマーケットは、海外から見たら絶好の獲物である。豊富な国内需要拡大の果実を中国製造業に奪われる危険が存在し、それが現実になろうとしている。日本の中小製造業が直面する最大脅威は、欧米より周回遅れのデジタル化・自動化対応で、中国・アジアの新興企業に追い越されることである。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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