【提言】中小製造業経営者と巡るインド・タイの旅『百聞は一見にしかず』〜日本の製造業再起動に向けて(45)

私の会社(アルファTKG)では、例年の恒例行事として海外交流視察旅行を実施している。今年度は、インド・タイの2カ国4都市を訪問し、躍進的な地元企業との交流やインドの主要大学との人的交流を実施した。

今回の寄稿は視察記として、参加した経営者の気付きや戦略を紹介する。参加した方々は、年間売上高10億円~50億円の中堅・中小製造業の経営者であり、精密板金や配線資材を製造するものづくり企業のTOP陣である。参加した企業の業績は急成長を遂げており、業界のリーディングカンパニーであるが、その名に相応しい『VIP』な交流視察となった。

『VIP』と表現したのは、今回の旅で訪問した4都市4カ所で交流した相手方も、すべてが現地のリーディングカンパニーであり、我々はこの旅を『トップ・オブ・ザ・ピラミッド』と呼んだ。

 

タイで1000人の精密板金企業、インドの巨大な紡績工場、インドの国防産業やクリーンルームを製造する躍進企業など、大企業顔負けの大設備工場を訪問したが、これらの企業の特徴は、完全オーナー経営の現地企業であり、短期間で急成長している企業である。

ゼロからオーナーが始めた企業であり歴史も短いが、大きな利益率を出し、日本の中小製造業を圧倒する設備力と技術力を持っている。完全な現地資本の独立企業であり、日本はじめ海外からの技術指導も受けることなく、高いエンジニアリング力や強い成長性を有している。

その理由は、世界中から有効情報を収集する情報収集能力の高さである。英語を自由に操り、オーナーの子弟はイギリスやアメリカの著名大学を卒業し、欧米に強いパイプも築いている。日本では、中小製造業が優れたものづくり遺伝子を持つ半面で、グローバルな情報収集力に欠けるのが大きな弱点となっている。

 

日本の大手製造業のベテラン技術者ですら、グローバル視点での情報は薄く、アナログ的な『日本式ものづくり』をアジアの労働者に強要するケースも散見されるが、現地企業が『日本式ものづくり』を受け入れる事は相当難しい。

日本発祥の「5S」はどこの企業でも導入しているが、インダストリー4.0はドイツに学び、自動化技術もドイツ、最近では中国の自動化技術も導入。機械もドイツ・アメリカ・日本・中国・現地製などを比較検討して導入する。そして工場運営や業務フローも欧米式が一般的である。アジアの中小製造業は、世界中の情報を糧に、グローバル基準のものづくりを徹底推進している。

事実、驚くことに(日本の中小製造業では考えられない)自動化やIoT化が進んでおり、日本人が一般的に抱く『低賃金の人海戦術』イメージとはずいぶんかけ離れた実態が存在する。何十台のプレス機に中国製のロボットが稼働しているのが、アジアの中小製造業である。

 

インド紡績工場の視察では、誰もが想像する『人海戦術』の姿はなく、何百台の紡績機が全自動運転している姿は圧巻であった。IoT化や自動化が日本より進んでいる事実を見たときの参加者の衝撃は半端ではない。日本の中小製造業は残念ながらグローバル化からは大幅に遅れ『情報の鎖国』となっている事を認識し、大きな警鐘を鳴らす必要があるだろう。

日本政府によって、移民推進が叫ばれているが、『人手不足を移民に頼ろう』とする考えが、いかに甘く愚策であるかは『百聞は一見にしかず』である。

『安い労働力を求めてアジアに行こう』とか『日本の技術をアジアに教育移転しよう』と思うのは、時代錯誤であり、上から目線であると言わざるを得ない。『百聞は意見にしかず』、アジアパワーは見なければ分からない。しかし、『見て分かった』だけで、次に戦略や行動が出なければ、肝心の結果は得られない。

 

今回のツアーでは、次の戦略を具体的に踏み出した中小製造業の事例を紹介したい。

GoogleCEOを輩出した超名門、インド工科大学(IIT)は世界的に極めて有名な大学であるが、今回のツアーで我々は、インド工科大学を訪問し、参加した群馬県の板金製造業O社が、インド工科大学と共同研究開発の覚書(MoU)を締結した。この締結には大学が大きな興味を示し、学長参加のイベントが行われ、地元新聞12紙がこの覚書締結を報道した。

また、千葉県の参加企業H社もインドマドライのティアガラージ技術大学(TCE)と覚書を締結し、学内に共同研究所が設立された。

 

この覚書締結は、日本の同業他社に先駆けた試みであり、中小製造業にとっての羅針盤となり、大きなブレークスルーとなるだろう。大学の学長も教授もそして学生も、日本の中小製造業と直接締結した覚書に大きな期待を持っている。

インドの一流大学の目線からも、日本の中小製造業のものづくりノウハウには、大きな尊敬を抱いており、ノウハウを伝承する人工知能やロボット研究開発は、大学にとっても非常に意義ある開発テーマである。学生たちも、インターシップを通じて契約企業のO社やH社に自由に学びに行くことができ、就職することも容易になる。

群馬県のO社は、これら学生人材の受け皿として、インド・チェンナイに子会社を設立した。「優秀なインドの学生を受け入れ、日本の製造拠点と融合しながら、高度なエンジニアリング会社に育てることが目的である」とO社の社長は語っている。

当社の海外交流視察を通じ、日本の中小製造業の国際化とIoTの新たな戦略が動き始めた。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた

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