【解説】THKとドコモ、シスコのIoTサービス開始が意味するところ

2018年10月18日
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THKとNTTドコモ、シスコシステムズの3社が共同で製造業向けの新IoTサービスを開始する
という発表がありました。

プレスリリースでは
①3社で製造業向けIoTサービス「OMNI edge」(オムニエッジ)を開発。商用化の検討開始
②役割は、THKがセンシングし、シスコがネットワーク機器を提供し、ドコモの回線を使うこと
③予兆検知を提供する
④そのための無償トライアルパートナーを50社募集すること
と書かれています。
記者発表も行われ、報道各社から様々なニュースが出ていますが、もう少し突っ込んだ形で分かりやすくかんたんに解説いたします

何するの?=世界トップシェアの機械部品「LMガイド」の状態監視と故障予知を提供

THKの直動部品「LMガイド」は世界トップシェアの機械部品で、世界中のあらゆる産業機械に搭載されたり、生産ラインなどで活躍しています。その状態をセンサでモニタリングし、データを溜め、見える化する。さらに壊れそうになったらアラートで分かる仕組みを3社でつくり、それを製造業の企業向けに提供していくことを考えています。そのために協力してくれるパートナーを募集しますというのが今回の発表の中身です。

何がすごい?①=LMガイドはあらゆる機械に使われている超重要な部品。そのメンテ最適化で、機械や生産ラインのダウンタイムを減らすことができる

直動部品とはその名の通り「まっすぐ動く機構部品」で、直線的な往復運動をしながら、決められた位置でピタッと止まることができ、機械の動きの基本となります。金属を加工する工作機械、樹脂部品を押し出す射出成形機、半導体チップを作る半導体製造装置といった、いわゆる製造装置には必ず使われています。また機械メーカーの製品以外でも、製造現場の技術者が自前、または外部の設備屋と作っているオリジナルの搬送機械や自動機械にもたくさん使われています。

LMガイドはとても高精度に作られていて頑丈で、だからこそ世界トップシェアで、多くの人たちに使われています。とは言えそこは機械部品、何年何十年と負荷をかけながら動かすうちにヘタってきてしまうのは仕方がないこと。その時は修理や交換が必要になりますが、現段階では壊れて動かなくなるまで状態が分からず、ユーザーは機械が不調になったり、止まったことで初めて故障が分かり、対応するというのがこれまででした。

LMガイドは機械の中核をなす重要部品であり、そこを直すとなったら時間も手間もコストもかかります。機械がダウンしている時間もコストになります。そうならないためにもLMガイドの状態を見て、早めに修理や交換をしてダウンタイムを減らそう、保守メンテにかかる手間を少なくしようというのが今回の狙いです。そうすることでユーザー企業は生産が止まる時間を最小限にして効率的に生産できるようになります。

何がすごい?②=世界トップシェアの製品、しかも部品メーカーがIoTに必要なすべてを提供するトータルサービス

THKは直動部品でLMガイドによって国内70%、世界でも50%のシェアを獲得しています。産業機械、製造装置、生産ラインに関わる人で知らない人はいないくらいの超有名な製品です。

工作機械や産業用ロボット、加工機械、産業機械メーカーが、その機械レベルでの状態監視や予知保全サービスを提供している例は多くあります。でも部品メーカーが部品レベルで予知保全サービスを提供する例はまだまだ少ない状態です。部品にセンサがついていてデータが取れますというレベルのものはあっても、センシングとネットワーク、見える化システムまで部品メーカーが揃えているというのは珍しい。

特に直動部品のようなメカメカしい機械部品でのセンシングは、そこでデータが取れて状態監視ができたら嬉しいけど、実際には難しいだろうと言われます。今回のサービスは、それをクリアしたというのがとても大きく、しかも世界で圧倒的なシェアを持っている企業と製品で行ったというのが重要なポイントです。

イメージしやすくするために近い例を挙げると、タイヤメーカーのミシュランが、タイヤの摩耗や異常を検知して通報するサービスを提供していますが、それと同じ構図です。

タイヤはどんな自動車にも搭載されている不可欠なパーツです。それが突然パンクしたら困りますよね?

・タイヤにセンサを取り付け、状態を監視して異常とトラブルの予兆を発見しメンテをする
・それを世界トップメーカーであるミシュランが提供している

これとまったく同じで
・産業機械や生産ラインに不可欠な直動部品「LMガイド」にセンサを取り付け、状態監視でトラブルが起きる前に保守メンテをする
・そんなサービスを世界トップシェアのTHKが提供する

こう見ると、今回の発表が製造業、特に産業機械や製造現場にはどれだけ効果的で、業界にインパクトのあることか分かるかと思います

参考:日本ミシュランタイヤとソフトバンクが協業し、IoTを活用したタイヤ管理システム「ミシュランTPMSクラウドサービス」を6月より提供開始

LMガイドを使っている、LMガイドで機械を作るユーザー企業向けにスタート

少し意外だったがのが、今回のサービス提供の対象が「ユーザー企業」であったこと。実際の製造現場でLMガイドを使っている企業向けにサービスを開始すると発表されました。

LMガイドは前述の通り、工作機械や半導体製造装置といった産業機械の中にたくさん使われています。産業機械メーカーで「自社の製品・機械をIoT化したい」という企業は多く、てっきりそういう機械メーカー向けのサービスだと想像していたら、そうではないそうです。ユーザー企業が自前で作っている自動機や搬送装置で使う(使っている)LMガイド向けに提供していくとのこと。さらに、今後はLMガイドだけでなく、ボールねじやTHKの他の製品群にも広げていきたいとし、比較的、中小規模でIoTをしたい、試したいという企業を対象にしているそうです。
とは言え、機械メーカーとも話し合っているようで、いずれは産業機械メーカーの提供しているIoTサービスとの連携や、IoT化したい機械のプラットフォームとしてOMNI edgeが支えるパターンもあるかもしれません。

今回の取り組みが本当に意味するもの。製造業、産業IoTの分岐点になるかも!?

LMガイドは他の部品と組み合わさって機械を構成します。産業機械メーカーはLMガイドを自社製品に組み込んでパッケージ化したものを自社製品として販売しています。一方で、工場の生産技術や製造部門では、LMガイドや他の部品を組み合わせて自社専用のカスタム機械を作っています。また、そうした部門をサポートする企業として、カスタム機械を専門に作っている自動機メーカーや設備屋が数多くあります。

前者はいわゆる自社製品を持っているメーカーであり、超有名どころや大きいところではファナックやDMG森精機、アマダといったところがあります。もちろん中小企業も多くありますが、自社ブランドの製品があり、外販をしているという意味では立派な「メーカー」です。

後者の場合は、あくまで社内の一部門であったり、機械を作っていても自社ブランドで外販する訳ではなく、受託製造がメイン。厳密に言うと「メーカー」ではありません。これらの部門や企業がIoTをやりたいとなった場合は、自分たちでIoTに必要な要素、センサやネットワーク、システムを開発して構築するしかなく、そこはハードルがものすごく高い。

こうした人たちのIoTの取り組みをもっと簡単にできるようにするには、部品レベルからIoTシステムが構築できる仕組みがとても重要です。それでいてIT技術が専門でなくても簡単に始めて運用できることが必要で、今回のTHK、ドコモ、シスコの3社の取り組みはここにバッチリはまるものです。単に大手企業3社が一緒にIoTを提供するというだけではなく、より多くの製造業の人々がIoTに取り組めるようになる環境整備の筋道が示されたというのが今回の本質です。

極端なことを言えば、機械や装置は部品の塊。壊れたり調子が悪くなるのは部品であって、その部品の状態が分かれば、機械の調子も自ずと分かってきます。特に機械部品、なかでも可動部は常に負荷がかかり、最も壊れる可能性が高い部品です。そこをキチンと監視することは機械の状態監視の基本中の基本と言っても過言ではありません。
LMガイドの状態が見られるというのは、(潜在的に)ユーザーが望んでいたこと。しかも、そうした仕組みがITやネットワークに詳しい人材がいない製造現場でも実現できるというのは、IoTに取り組もう、取り組まなければと考えている人には朗報です。

THKというトップメーカーが、機械の中核をなすLMガイドの状態監視のサービスを提供する

これが与えるインパクトはとても大きく、「日本の製造業のIoT拡大の分岐点になる」・・・というのは言いすぎかもしれませんね笑

参考:
THK、ドコモ、シスコで製造業向け新IoTサービス「OMNI edge」の商用化検討開始(THKホームページ)