【産業用コンピュータ特集 】一気にIoTの主役 エッジ・クラウド処理能力向上

産業用コンピュータへの注目が高まっている。製造業やインフラ設備など停止が許されない環境での採用に加え、IoT時代に中核となるエッジコンピューティングやクラウドコンピューティングの一端を担うことも期待されている。手のひらサイズといった小型化も著しく進んでおり、用途はさらに広がりそうだ。

小型化で組込みニーズに対応

産業用コンピュータ/コントローラの市場規模は、各方面の見方から日本市場で約300億円、グローバル市場で約2300億円と推定されている。ボードタイプやパネルコンピュータ(パネコン)など、分類が難しい部分もあり、実際はさらに大きな市場を形成しているという見方もある。

産業用コンピュータ/コントローラは、製造業のさまざまな分野で使用されている。半導体・液晶製造装置、計測・検査装置、工作機械などのディスクリートの生産設備をはじめ、鉄鋼、石油、化学、紙、食品飲料といったプラント設備などがある。

非製造分野でも用途が拡大している。水処理、ごみ処理、ダム監視、空港設備などの公共システム、鉄道や道路などの交通システム、テレビやレーダ設備などの放送通信システム、電力システム、さらには、各種医療機器・装置などが挙げられる。

産業用コンピュータ/コントローラの大きな市場の一つである半導体・液晶製造装置の生産は絶好調で推移している。日本半導体製造装置協会(SEAJ)の統計では、2016年度が前年度比23.1%増の1兆9805億円と、近年にない高い伸びとなっており、17年度も10.6%増の2兆2663億円と過去最高を更新する予測となっている。SEAJの17年3月以降の日本製半導体製造装置の販売高は前年同期比30%増前後の1500億円~1700億円で推移しており、6月は53.6%増、7月は49.9%増、8月は41.9%増と高水準が続いている。

このほどアップル社のスマホ新機種「アイフォーンⅩ(テン)」が発表されたが、画面への有機ELの採用や、顔認証・アニメ文字などといった機能が搭載されており、さらに半導体・FPDの需要増が見込まれている。IoTに伴う情報化で半導体を使用する、情報端末、カメラ、自動車の自動運転などに代表される分野での投資が継続している。

ロボットの需要も急増している。国内では深刻な人手不足、海外ではアジアの新興国を中心とした人件費の上昇から生産自動化への投資が急速に増えている。中国では人件費の上昇に加え、工場ワーカーの不足も加わり、自動化は待った無しの状況といわれ、ロボットなどの自動化機械に置き換えが進んでいる。国内でも人手不足に加え、自動機やロボットでないと人では作れないものも増えており、自動化投資が取り組まれている。最近は食品工場や薬品開発・製造でのロボット活用の取り組みが意欲的に進められており、先行き需要への期待が高い。

ロボットは産業用に加え、非製造業でもホテルでのサービスや外食産業の人手補完用、警備や清掃などといった幅広い用途で試行しながら普及が進んでいる。日本ロボット工業会(JARA)の生産統計によると16年は過去最高の7000億円を突破し、17年は7500億円まで拡大する見通しを立てている。しかし、実態はさらに上振れ基調で推移しているとみられ、8000億円も視野に入ってきた。政府も、ロボットの普及に向けた補助金施策を強化しており、製造業、非製造業のあらゆる用途で導入に向けて検討が進んでいる。

工作機械も、16年12月以降は前年同月比プラスとなっており、前年同期比2桁増と高い伸びが継続している。月ベースでは1300億円前後で推移していることから、17年の年間では前年比20%増の1兆5000億円を超えて、過去最高を更新する勢いを見せている。

17年の出荷予測は当初1兆3500億円としていたことから、大きく上振れするものとみられる。欧米市場が好調で、中国市場も回復基調で推移していることで、引き続き旺盛な受注が見込める。米国でもトランプ政権の製造業の国内回帰に向けた政策で、自国内での生産を促す取り組みを強めていることで、自動車関連を中心に、工場の立地や生産拡大などの計画を発表し、工作機械などへの波及が期待されている。

信頼性・長期安定供給でも強み

昨今のIoT化の流れの中で、産業用コンピュータ/コントローラの果たす役割も広がり、ますます大きくなってきている。

今まで産業用コンピュータ/コントローラは、工場やインフラ設備などに代表される24時間連続稼働や、停止が許されない高信頼な制御が求められる用途で数多く使用されてきたが、最近はさらに用途を広げ、インターネットなどをつないだ環境下で使用されるケースの増加とともに、果たす役割が変化してきている。

インダストリー4.0などに代表されるIoTへの対応によって、これらの生産や監視などの情報がクラウド上にあるサーバーに蓄積されて活用されることが増えてきている。工場やシステム単位から、全社的やグループ会社も含めた一体的に活用していく動きが強まり、その中心として産業用コンピュータが活用する動きになってきている。

IoTでは、あらゆるものにセンサーを付けてつなげることになるため、情報量は飛躍的に増大することになり、これを処理するコンピュータシステムの負荷も高まる。

特に製造業や社会インフラ用途で使用される産業用コンピュータには、冗長性とリアルタイム性が求められ、末端の各種情報を直接クラウドシステムで処理する方法では、タイムラグによる遅延リスクが懸念される。

そこで、センサーなどの下位層に近いところにフォグコンピュータやエッジコンピュータを端末として設置して一定の情報処理を行うことで、上位システムへの情報遅延防止と負荷の軽減を図ろうとしている。同時にインターネットなどとつながることで、外部との接続機会が増加し、制御セキュリティへの対応も求められてくる。工場や社会インフラシステムに対するハッカー攻撃も年々増加しており、制御セキュリティ対策はますます重要性を高めている。

IoTの進展する中で、産業用コンピュータの処理する情報量は増加しており、ハードに求められる機能もますますレベルが高くなっている。

産業用コンピュータ/コントローラは、汎用パソコンとは異なり、長期間の安定した供給体制や、連続稼働に耐える、信頼性の高い設計などが求められる。汎用パソコンのように数年ごとに買い替えするのが当たり前のような使い方に対し、5年、10年と同じ機種をトラブルなく使い続けることが多く、求められる要求レベルも高くなる。

工場の製造現場や重要な設備の制御装置など、長期間稼働を停止することができないシステムに利用されることが前提のため、マザーボードや電源などの重要なパーツには、より高い信頼性と耐久性に優れた部品などが使用されている。例えば温度特性もマイナス25℃~プラス60℃ぐらいの範囲に耐えられる設計で、ファンなどの冷却や加温機器などを使用しないでも安定した信頼性を発揮できる設計となっている。

また、制御機能も、生産ラインでの一体化処理や並行処理ができることで、処理時間の短縮やスループットの向上が図られている。半導体製造関連装置やFPD(フラットパネルディスプレー)製造関連装置分野においては、より複雑なプロセスを短時間で高速処理することが求められており、一つの装置に複数の制御コントローラとFA用コンピュータが使用されているケースが多い。

このような場合、最先端のCPUや大容量メモリなどハイスペックな製品が要求される。インターフェースについても増設コストを少しでも減らすため、豊富なシリアルやUSB、拡張スロットを持つことが要求されている。

拡張スロットは、画像処理ボードやモーションコントロールボード、各種フィールドバスボード、GP/IB通信ボード、AD変換ボードなど、用途別に応じたボードを使用する。シリアルやUSBには、各種ホストコントローラやUPS、計測装置などの周辺装置を接続することが多い。

CPUは、インテルなどの最新プロセッサを搭載することで、演算能力やグラフィック機能の性能が大幅にアップするとともに、消費電力の削減にも貢献している。インテルのBay Trailプロセッサを搭載した最新の機種では、演算能力が従来機種の約2倍となり、より高速な演算処理と省エネを両立している。

産業用コンピュータ/コントローラで最重視されるのが信頼性で、メモリーエラーの検出・訂正などが可能なECCメモリ機能、ハードウエア内部を監視するRAS機能、ハードディスクを切り離すホットスワップ対応ミラーリングディスク機能などがほとんどの製品に搭載されている。

24時間連続的に稼働する厳しい現場では、「いかにダウンタイムを削減できるか」という点も大きな開発テーマになっている。こうした状況を背景に、最近ではWindowsだけでは難しいリアルタイムな制御を実現するため、リアルタイムOSを併用することが増えている。

PLCでは実現できない処理の領域、例えばプロセス処理用の学術計算や、高級言語によるプログラミングなどを実現するため、制御部分はリアルタイムOSで処理、制御以外の部分はWindows OSで処理を行うなど、1台のPCで制御から処理までを行っている。

数年前まで、Windows OSとリアルタイムOSを同時に走らせることは難しかったが、近年はコンピュータの高性能化により、簡単に実現できる。特に最新のプロセッサとリアルタイムOSを有機的に連携することで、リアルタイムによる処理性能も大きく向上、42マイクロ秒で2万ステップの高速処理が可能になっている。

ハードウエアだけでなく、ソフトウエアでも長期のサポートを求めるニーズは高い。特に通信分野ではLinux OSの採用が多くなっている。

制御セキュリティ対策も進む

産業用コンピュータ/コントローラを取り巻く環境で最近重要性が高まっているのがセキュリティ対策だ。従来、工場や公共設備は外部とネットワークなどが遮断された形で存在していたが、インターネットの普及がこうした隔離された状況を一変させた。

IoTへの対応は、隔離された状況を「つなぐ」という形で開放することになったが、その負の側面としてクローズアップされている。事務所などで使うコンピュータではセキュリティ対策は従来もとられているが、制御システムのセキュリティ対応はここ数年の問題で、対応が遅れているのが現状だ。原子力発電設備や下水道設備など、われわれの生活に直結する部分が多く、被害が拡大する危険性を秘めている。

産業用コンピュータ/コントローラ各社は、制御セキュリティ対策を施した製品開発を進め、例えばいわゆる「ホワイトリスト制御」である。マルウェア情報を検知する。「ブラックリスト制御」に対し、動作して良いと判断した「良いもの(ホワイト)リスト」のみを決め、これ以外には動かないように制限を設けるものである。セキュリティに対応して、産業用コンピュータ/コントローラの認証制度もできており、徐々に対応が強化されつつある。

産業用コンピュータ/コントローラはIoTを支える中核として今後も大きな存在を発揮するのは確実だ。

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