【提言】ガソリン車からEVへの切り替え 日本製造業に与えるプラスとマイナス〜日本の製造業再起動に向けて(31)

EV(電気自動車)が注目されている。地球環境保護の観点からイギリス・フランスが打ち出した、2040年ガソリン・ディーゼル車の販売全面禁止や、中国のEV優遇策など各国の環境規制強化が、ガソリン車からEVへの切り替えを促している。ドイツで開催されたフランクフルト・モーターショーでは、EVが主役の座に躍り出た。ドイツ主力メーカーがそろってEVを発表し、EVの本格的到来を告げる歴史的な幕開けとなった。

『EVがこれからの自動車だ!』というイメージも世界中に定着しつつある。しかし、日本の自動車メーカーは、ガソリン車からEVへの完全切り替えを考えてはいない。トヨタ自動車は、EVの重要視を表明する一方で、依然としてHV(ハイブリッド車)戦略を堅持し、EVへの本格切り替えには慎重である。先般発表されたトヨタとマツダの資本・業務提携からも低燃費ガソリンエンジンを搭載するHVへのこだわりが透けて見える。

ドイツ各メーカーは、トヨタ自動車以上にEVへの早期切り替えの必要性を抱えている。得意としたディーゼルエンジン問題に加え、主力市場(欧州・中国)からのガソリン・ディーゼル否定を受けて、ドイツ自動車各メーカーは、シリーズ全体にEVを投入する戦略を発表した。日本メーカーより一歩進んだ EV戦略であるが、将来にわたってガソリン・ディーゼル車をラインアップに残すことも戦略の中心に据えている。

日本もドイツも本音では『完全EVには乗り気でない』のであろう。特に日本は、優れたエコ技術を保有しており、EVへの切り替えに鈍重なのは当然であるが、EVへの乗り遅れが、不幸にして日本の自動車産業衰退のキッカケとなる危険もはらんでいる。

自動車王国アメリカでは、ベンチャー企業テスラ社が『自動車メーカーへの挑戦』を旗印に掲げ、高級車市場にEV車で殴り込みをかけ、成功を収めている。シリコンバレーを中心とした富裕層では、『テスラが上流階級のシンボルだ』といった旋風を巻き起こしている。

日本の自動車市場が、現時点でガソリンからEVに切り替わることを想像することは難しいが、好むと好まざるとにかかわらず、近い将来に切り替えが起きることは間違いない。日本で、ガソリン車からEVへの切り替えが本格的に起こった場合、自動車メーカーのみならず日本製造業全体に甚大な影響を及ぼすのは必至である。日本製造業はどんな影響を受けるのか?そのプラスとマイナスを考察してみたい。

結論から述べれば、プラスは『社会インフラの変化によるチャンス到来』すなわち、EVを端末とする電力スマートグリッド網や充電ステーションなどの膨大なインフラ需要は内需拡大を促し、日本製造業に大きなメリットを与える。おびただしい数の充電ステーションの設置により、駐車場・ガソリンスタンド・高速道路・パーキングエリアなど社会インフラがガラッと変わる需要は壮大である。

また、EVとは切っても切り離せない『自動運転技術』などスマートインフラやサービス産業にも大きなプラス点がある。EVへの切り替えは、第4次産業革命の象徴として都市全体のスマート化を促す起爆剤となるだろう。

マイナス面は『自動車製造の日本優位性消滅と系列ピラミッド崩壊』である。自動車メーカーの下請け中小製造業は仕事が激減する。悪夢ではあるが、家電王国日本の衰退と同じことが、自動車産業を襲うかもしれない。ガソリン車からEVへの切り替えにより自動車のものづくりは、家電のものづくりに近づく。ガソリン車の製造には、日本が得意とする『すりあわせ(インテグラル型)』で優位性を保ってきたが、EVとなれば『組み合わせ(モジュール型)』に優位性が移ってしまう。『自動車のパソコン化』が起きるだろう。日本が得意とした『自動車のものづくり』は、韓国や中国が得意とする『パソコン・スマホのものづくり』に変わってしまう。日本人が不得意な『系列を持たないグローバル調達・モジュール組み立て』への移行である。

大手製造業は巨体であり、変化に対応することは簡単ではない。しかし変わらないことが悲惨的な破滅と衰退を招くことは、日本の家電業界はじめ多くの大手製造業が実証している。トヨタはじめ日本の大手自動車メーカーも同じ轍(てつ)を踏むのだろうか?系列の傘下にある中小製造業は、新たなビジネスチャンスにあふれている。自動車メーカーの系列ピラミッドは巨大であり、日本列島津々におびただしい数の企業が自動車製造に依存しているが、これらの企業は自動車に固守する必要もない。世界の強豪と戦う必要もないし、親会社と心中する必要もない。仕事が減る親会社・系列からの依存脱皮が戦略となる。

系列から離脱し新活路で成功するには、企業体質のデジタル化が必須である。自社のノウハウをデジタル化(①記憶から記録②情報の5S化 ③社有化)し、新たな顧客とマーケットに売れる準備をすることである。ノウハウは埋蔵金である。EVへの切り替えで湧き上がる新たな需要から埋蔵金の掘り出しのチャンスがやってくる。デジタル化により新規マーケットと新規顧客が開拓され、中小製造業の保有ノウハウが売れる時代がやってくる。小回りが苦手の「大手メーカー」は受難。 敏速に動ける「中小製造業」にチャンス到来。ガソリン車からEVへの切り替えで、そんなプラス・マイナスの混在時代が訪れるであろう。

◆高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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