【提言】IoTの泣き所『1マイル通信』やっと実現したIoT無線通信技術【LPWA】〜日本の製造業再起動に向けて(28)

IoT(モノのインターネット)という言葉は、今世紀最大のバズワードとして全世界に定着した。IoT時代の到来で、『スマートシティー』『スマート工場』に始まり『スマートハウス』や『スマート家電』など、何でもかんでも『スマート』が大流行である。

生活の中でも、『盗難対策で、自分の自転車をIoTで監視したい』とか、『おじいちゃんのお元気を常に知りたい』『ペットが迷子になったらすぐ探したい』など数多くの現実的な要望が生まれている。しかし、インターネットに接続された『IoT自転車・IoTおじいちゃん・IoTペット』は普及していない。何故であろうか?

意外なことに、従来の無線通信技術がIoTとの調和が悪く、無線通信技術が原因で、IoTxxx(移動体IoT)の普及を妨げているのである。

移動体IoTには、センサー情報をクラウドに伝送する無線通信が必須であり、携帯電話技術を使えば、移動体IoTは実現できるが、電池寿命が持たずコストも高く、大きすぎて商品価値を持たない。現在広く普及しているWi-FiやBluetoothでは、ごく短距離通信しかできず『IoT自転車』も『IoTおじいちゃん』も『IoTペット』も実現はできない。1マイル通信(1.6キロ)がIoTの泣き所となって、商品化できないのである。

移動体IoT用のデバイス(センサーノード)は、超小型の電池で何年も使えて、1マイル(1.6キロ)程度の安定的なセンサー情報通信ができれば、商品化に一気に近づくのはわかっていたが、従来の無線通信技術は、音声や映像など大量情報を連続的に通信することを目的に進化しており、IoTに要求される『低消費電力』と『長距離通信』を実現する方法は検討されてこなかった。

Wi-Fiや携帯電話などのデータ通信をIoTに使うと、消費電力や通信距離、そしてコストが全くマッチングせず、結局はうまくいかない。従来の無線通信技術の進化方向が、IoTの必要機能とは一致していないのである。

前回の提言で、デジタルトランスフォーメーション(DX)について触れ、第3のプラットフォームの解説をした。IoTの実現する第3のプラットフォーム『モバイル・ソーシャル・ビッグデータ・クラウド』の4つの要素技術は、無線通信技術の進化を背景に、誰でもスマホを使えて、インターネットも地球規模で整備されたが、IoTに関しては、たった『1マイル(1.6キロ)』のセンサー情報通信技術の未発達が、移動体IoT普及の足を引っ張っていたのである。今年になってLPWAが注目され、1マイル通信を一気に解決する具体的なイノベーションが続々と誕生している。

LPWAとは、Low Power Wide Area(省電力型広域無線網)のことで、低価格・低消費電力、かつ長距離通信が可能なネットワークのことであり、1マイル通信を完璧に可能にするIoT普及の切り札というべき待望の技術の誕生である。これは、IoT普及にとって最大のイノベーションであり、『IoT普及元年2017』と称しても過言ではないほどの大革命である。

100年以上も前にイタリアのマルコーニによって誕生した無線通信は、日本の歴史に大きな影響を与えた。日本は、日露戦争で無線通信を全艦艇に配備し実戦使用し、手旗信号に変わるモールス通信の威力を実証した。世界で初めてのことである。使用された国産の安中電機(現アンリツ)製三六無線通信機は世界で最も優れた無線機であったと言われている。以降日本は、無線通信の分野では世界のリーダー役を担ってきた。

また、日本の通信インフラにも目を見張るものがある。日本津々浦々で高速インターネットへの接続が可能であり、4G通信が国内あらゆるところで安定使用できるのは日本の底力である。これらの高度に開発されてきた無線通信技術であるが、IoTとの不調和が今日まで未解決であったことは、非常に残念である。

LPWAは、完全にIoTに焦点を絞ってIoT専用として新たに開発された無線通信技術である。

主たる特徴は、データ容量が非常に小さいことが挙げられる。センサー情報の通信には、大容量は不要である。音声も映像もない昔のモールス通信と同じで、ほんの少しの情報で十分大きな成果が得られる。情報量が小さくなったことで、混信に強く長距離通信が可能になり、消費電力は極端に少なくなり、当然コストも大幅に削減される。ボタン電池で数年OK。1マイル通信OK。あらゆるセンサー接続OK。そして低価格など、商品化に必要な機能を完全網羅する。

LPWAの技術は、従来の無線通信技術とは一線を画するものであるが、アマチュア無線家が、IoT誕生のずーっと前から『パケット通信』に、挑戦していた。これがLPWA技術の源流であろう。LPWAのなかでも、非常に注目されている『LoRa』は、『スペクトラム拡散』というかつての米国軍需技術を使い安定的な長距離通信を実現している。周波数バンドも直進性の強い2.4GHzではなく、920MHzの活用で優位性が更に増している。

LPWAの誕生で『IoT普及元年2017』。一気に『IoT自転車・IoTおじいちゃん・IoTペット』が普及するのは間違いない。

◆高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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