IoT・スマートファクトリー 経済産業省 小林 寛 「世界一の利活用社会」目指す

ロボットシステムインテグレータ(ロボットSIer)の重要性と可能性
経済産業省 製造産業局産業機械課 ロボット政策室 技術一係長 小林 寛

人手が足りない状況が続き、労働力の確保に頭を抱える日本

日本では今後、働き手がますます高齢化していく一方で、彼らが引退しても同じだけの若者が存在しなくなり、労働力の確保がより一層難しくなると予想されています。
現に企業の人手不足は深刻な状況にあり、中小企業の「従業員過不足DI」(今期の従業員数の水準について、「過剰」と答えた企業の割合(%)から「不足」と答えた企業の割合(%)を引いた数値)は、2011年には全産業平均がマイナス、すなわち不足に転じ、2016年にはマイナス10ポイントより低い値で推移するなど、一貫して人手不足感を強めている状況にあります。つまり、人を雇おうと思っても採用することは容易ではなく、その状況はこの先さらに深刻になっていくと言えるでしょう。

人の働き方の将来とロボット活用の可能性

特に人手不足を訴える現場の中には、延々と続く単純作業や、肉体的にも精神的にも過酷な労働環境を伴うものも少なくありません。こういった現場は企業の運営上は必要な場合が多いですが、人にとっては過酷なため長続きせず辞めてしまう、しかし新しく人を雇うこともできず、そのため企業運営に支障をきたし…というスパイラルに陥ってしまうことが、我が国にとって今もっとも憂慮すべき課題です。

そこで、人手がより限られてくる今後においては、これまで人手で行ってきた単調・過酷な作業には、集中力が切れず疲れを知らないロボットに担ってもらい、貴重な人材には、人にしかできない、より付加価値の高い仕事で活躍してもらう、そういった考え方の転換が必要ではないでしょうか。

すなわち、人の絶対数が減少していくこの国の将来は、一人ひとりがどのような働き方をしていくかに懸かっており、そこにロボットの活用という可能性が存在しているのです。

ロボットシステムの構築におけるロボットSIerの重要性

では、ウチの工場にもロボットを入れてみようかと思っても、これまでロボットに触れて来なかった企業が独力で導入を行うのは大変困難です。なぜなら、ロボットは本体を買っただけでは動かず、ハンドやカメラといった周辺機器、動き方のティーチング、前後の工程との連携なども含め、全体の自動化システムとして構築する必要があり、ロボットや自動化に関する幅広い技術や能力が要求されるからです。

そのため、ロボットを使用した機械システムの導入提案や設計、構築などを行う「ロボットシステムインテグレータ」(ロボットSIer)と呼ばれる企業が、ロボットの活用法を考え、システムを構築して納入するというもっとも大切な役割を担っています。したがって、今後のロボット活用の裾野を広げていくには、ロボットSIerの存在がますます重要になってくるのです。

国内産業の担い手としての可能性を秘めるロボットSIer

ロボットシステムを構築する「システムインテグレーション」(ロボットSI)は、「モノ」単体を製造する行為ではなく、さまざまな機械設備を組み合わせ、最適な自動化システムを提供する「ソリューションビジネス」です。ユーザーの現場に相対して課題を分析し、ロボットシステムを構築した後も調整やメンテナンスが必要になります。これは、現場との幾度もの「擦り合わせ」が重要な要素であり、現場に行かないとできない作業です。ここに、ロボットSIビジネスの可能性が存在しています。

グローバル化に伴い、我が国の市場構造もかつてと比べて大きく変容してきています。特に新興国における安い人件費を武器にした価格競争力は、日本のものづくりにおいても一つの脅威になっています。しかし、我が国におけるロボットSIビジネスという点においては、必ずしもこのような一般論が当てはまりません。なぜなら、ロボットSIはモノを輸出するというものではなく、現場ごとに調整が必要なソリューションビジネスだからです。

人件費の安い国から技術者を現場に一度派遣すれば良いという類いのものではなく、前述のとおり幾度もの擦り合わせが必要になってきます。海外からの移動や滞在にかかるコストは人件費の優位性を帳消しにするばかりか、それ以上に費用負担を発生させます。だから海外企業の参入障壁がとても高く、国内企業に大きな競争優位が存在する、将来性のあるビジネス形態であり、その担い手となるロボットSIerには大きな可能性が秘められていると言えるでしょう。

ロボットSIerの眼前に広がるビジネスチャンス

経済産業省では「ロボット導入実証事業」という事業を通して、これまでロボットの導入が進んでこなかった領域を開拓する取り組みを実施しています。例えば、伝統的工芸品産業はロボット未活用領域の代表的な例でしたが、本事業では、岩手県「南部鉄器」の鉄急須内面の錆止め(琺瑯:ホーロー)工程にロボットを導入したり、石川県「山中漆器」の塗装作業をロボット化したりと、職人による作業と分業する形でロボットを導入し、人と協調して生産性を向上させていく事例を創出しています。これらはあくまで事例の一つであり、ロボット導入に向けたフロンティアはまだまだ広大ですが、それだけロボットSIerにとってビジネスチャンスが存在していると言えます。

このほかにも経済産業省ではロボットの普及促進に向けた施策を各種実施しています。日本を「世界一のロボット利活用社会」にするという目標の実現に向けて、今後もロボットSIerにとってビジネスがしやすい環境の整備に取り組んでまいります。

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