安全対策機器 国内、輸出とも堅調に推移 労災防止 ICTに期待大

センサ/AI/ビッグデータ/インターネット

作業者への配慮設備投資も奏功一石二鳥の成果

労働災害が依然年間11万件以上起こり、減少を見せていない。このうち製造業での労働災害は、約22%を占め、この率も横ばいで推移している。事故防止に向けて、法的な規制や安全対策機器の普及などが進み減少傾向にはあるものの、まだゼロには至っていない現状だ。熟練作業者の減少、外国人や非正規労働者の増加などで労働災害が発生しやすい環境が生まれつつある中で、一層の作業安全に向けた取り組みが求められる。ICT(情報制御技術)を駆使した新たな事故防止への取り組みも始まっており、今後の成果が期待されている。

国内における労働災害死傷者数(死亡・休業4日以上)は、厚生労働省の統計(速報)によると、2016年(1~12月)は11万2087人で、15年比1009人増加している。このうち死亡者は874人で、前年比35人減少している。

16年の製造業の労働災害死傷者数は、2万5381人で15年比47人減少する一方、死亡者は165人で逆に前年比14人増加している。

製造業の死傷事故の発生状況は、機械への「はさまれ・巻き込まれ」が約4分の1を占め、続いて「転倒」が約20%で、以下「墜落・転落」「切れ・こすれ」「飛来・落下」などの順となって15年とほぼ変わっていない。また、死亡事故では「はさまれ・巻き込まれ」が62人と最も多く、以下「墜落・転落」「崩壊・倒壊」「飛来・落下」などの順となっている。

安全対策機器の市場規模は、日本電気制御機器工業会(NECA)のまとめている出荷統計によると、14年度が前年度比9.9%増の317億円、15年度が同2.8%増の326億円と5年連続で過去最高額を更新している。16年度も国内、輸出とも堅調に推移しており、16年9月は国内出荷が単月では過去最高を記録するなど、着実に市場を拡大している。

製造業の作業環境は時代とともに改善されてきた。最初は、自分の身は自分で守るという考えから、危ない機械でも人間が注意して作業することが当たり前であった。しかし、人間は間違うということを前提に、機械設備を安全にする取り組みが強まり、機械構造を人間の作業の安全確保するように対策を取りはじめた。ここでは、機械にでき得る限り安全対策を施す一方、それでも残る危険性をリスクアセスメントとして開示し、情報を提供することを求めている。機械の使用者はここでの残留リスクを考えながら、訓練や保護などを行うことで、自分の安全を確保することを行っている。これを「スリーステップ・メソッド」として機械安全確保の指導を行っている。

よくいわれる「何よりも安全が優先する」「安全第一」などの言葉であるが、現実は安全対策を強化すれば生産性が落ちる、安全の投資投下が見えず無駄であるといった考えが依然強い。そこで安全性と生産性を両立させるために、情報化技術と組み合わせた安全コンセプトも注目されはじめている。

いま、自動車の自動走行運転技術が注目されている。交通事故の9割は運転手の人為的ミスであると言われている。この運転を無人で行おうとする技術には機械安全と共通した部分が多い。自動車の自動運転では、完全無人に至るまでのレベルを1~4まで分けている。人間が運転のどこまで介在するかであるが、すでに自動ブレーキシステムなどを搭載した自動車では顕著に交通事故が減少しており、その効果が実証されている。

製造業の現場でもこうしたICT技術の活用は、自動車の運転同様に事故の減少につながると見られている。

人による安全と機械による安全対策に、センサ技術、AI(人工知能)技術、ビッグデータ技術、インターネット技術などを融合することで、人と機械が協調した形での安全確保が可能になってくると期待されている。

例えば、働く人個人ごとの体調、熟練度、経歴などをセンサで検知したり、機械設備から作業に従事している人に対し、状況に応じて作業スピードを調整したりすることもできる。

つまり、従事する人の作業状況を監視する事で、機械を止めないでも安全を確保することができ、稼働率や生産性の向上につながってくる。働く人のことを考慮しながら、設備投資効果も高められるという一石二鳥の成果を生み出すことが可能になる。

人×機械 協調安全へ

製造業ではインダストリー4.0やIIoT活用に向けた取り組みが始まっているが、作業環境の安全確保という点からは非常にわかりやすく、効果が見える流れになっているといえる。

製造業の作業安全を確保する安全対策機器は多岐にわたる。主なものとして安全リレー、安全リレーユニット、セーフティドアスイッチ、セーフティリミットスイッチ、非常停止用スイッチ、ソレノイド付き安全スイッチ、エリアセンサ/ラインセンサ、フットスイッチ、マットスイッチ、テープスイッチ、ロープスイッチ、プログラマブル安全コントローラ、安全プラグ、安全確認型回転停止センサ、非通電電流センサなどがある。これら各種安全対策機器を用途に合わせて、機械本体や機械周辺に装備して安全を確保する。

安全を確保する手法もここ数年で大きく変化してきている。

例えば信号の伝送はハードワイヤから安全バスライン、そしてワイヤレス化へ進もうとしている。

さらに、昨今は広い作業現場にたくさんの機械設備が混在して稼働しているところで事故が多い。

こうした作業現場では危険領域内で複数の作業者が機械の調整などで立ち入り、死角などで確認できずに事故になるケースが、挟まれ・巻き込まれ死亡事故の約半分を占めるという統計も出ている。

事故防止に向けた支援的保護装置の設置に向けた取り組みも行われている。UWB(超広帯域通信)を用いた3D作業位置検出やID確認システムなどが一例としてあげられる。

労働災害が減少しない背景には、エンドユーザーの安全意識の薄さも挙げられており、経営者からのトップダウンによる取り組みとボトムアップによる安全思想啓蒙がさらに重要と言える。

人の安全意識にICT技術が合わさることで、飛躍的な作業事故の減少が期待される。

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