産業用PC/PLC特集 生産設備・インフラで存在感 “全社的活用”に対応

産業用(FA)コンピュータやPLCが新たな用途として注目されている。インダストリー4.0(I4.0)やインダストリアル・インターネットといったIoTの流れの中で、エッジコンピューティングやクラウドコンピューティングの一端を担う、ネットワークハブやゲートウェイ的な役割を果たそうとしている。当然ながら本来の役割である24時間連続して安定稼働し、長期間の保守と製品供給を大きな特徴としながら、生産設備や社会インフラシステムの制御や監視としての存在を発揮している。

■長期の安定供給・連続稼働 高まる信頼性 エッジコンピュータと連結

インターネットの普及はあらゆるものがネットにつながる・つなげるといったIoTという形で社会を一変しようとしている。とりわけ、産業用(FA)コンピュータやPLCの使用が多い製造業や社会インフラシステム分野では新たな変革期に入ろうとしている。

産業用(FA)コンピュータ/コントローラの市場規模は、範囲の捉え方で異なるが、メーカーや調査会社などの見方を擦り合わせると、日本の市場規模は約300億円、グローバル市場規模は約2300億円と推定されている。ボードタイプやパネルコンピュータ(パネコン)など、製品としてボーダーレスのものもあり、実際はさらに大きな市場を形成しているという見方もある。PLCは、日本電気制御機器工業会(NECA)の生産見通しによると2015年度で1300億円となっている。また、市場調査会社富士経済によると、15年度の出荷額は1888億円としている。NECAの会員外の数字も加えている。富士経済の18年度の出荷予測は2149億円と3年間で250億円程度増加すると見ている。

産業用(FA)コンピュータ/コントローラは、製造業のさまざまな分野で使用されている。半導体・液晶製造装置、計測・検査装置、工作機械などのディスクリートの生産設備をはじめ、鉄鋼、石油、化学、紙、食品飲料といったプラント設備などがある。

非製造分野でも用途が拡大している。水処理、ごみ処理、ダム監視、空港設備などの公共システム、鉄道や道路などの交通システム、テレビやレーダ設備などの放送通信システム、電力システム、さらには、各種医療機器・装置などが挙げられる。

このうち、産業用(FA)コンピュータ/コントローラやPLCが多く使われている半導体・液晶製造装置などの生産は、このところ好調に推移しており、日本半導体製造装置協会(SEAJ)の調べによると、15年度の出荷額は1兆5786億円(前年度比7.4%増)で、16年度は9.8%増の1兆7660億円と07年以降では最高となると予測している。

人件費上昇や安定した生産確保などの点からロボットの生産も増加しており、日本ロボット工業会では16年が過去最高を更新し、7000億円を超えるものと見ている。

工作機械の出荷は輸出の伸びが停滞していることもあり、日本工作機械工業会(JMTBA)の出荷統計では前年同期を下回る状況がこのところ続いているが、月ベースでは1000億円前後となっていることから、年間1兆2000億円前後の出荷が見込まれている。

■システム負荷軽減

昨今のIoT化の流れの中で、産業用(FA)コンピュータ/コントローラやPLCの果たす役割も広がり、ますます大きくなってきている。

今まで産業用(FA)コンピュータ/コントローラやPLCは、特定領域で隔離された状況で使用されることが多かったが、インターネットなどをつないだ環境下で使用されるケースの増加とともに、果たす役割が変化してきている。I4.0やインダストリアル・インターネットなどのIoTへの対応によって、これらの生産や監視などの情報がクラウド上にあるサーバーに蓄積されて活用されることが増えてきている。工場やシステム単位から、全社的やグループ会社も含めた一体的に活用していく動きが強まり、その中心として産業用(FA)コンピュータが活用する動きになってきている。

IoTでは、あらゆるものにセンサーを付けてつなげることになるため、情報量は飛躍的に増大することになり、これを処理するコンピュータシステムの負荷も高まる。特に製造業や社会インフラ用途で使用される産業用(FA)コンピュータ/コントローラやPLCには、冗長性とリアルタイム性が求められ、末端の各種情報を直接クラウドシステムで処理する方法では、タイムラグによる遅延リスクが懸念される。

そこで、センサーなどの下位層に近いところにフォグコンピュータやエッジコンピュータを端末として設置して一定の情報処理を行うことで、上位システムへの情報遅延防止と負荷の軽減を図ろうとしている。同時にインターネットなどとつながることで、外部との接続機会が増加し、制御セキュリティへの対応も求められてくる。工場や社会インフラシステムに対するハッカー攻撃も年々増加しており、制御セキュリティ対策はますます重要性を高めている。

IoTの進展する中で、産業用(FA)コンピュータ/コントローラやPLCの処理する情報量は増加しており、ハードに求められる機能もますますレベルが高くなっている。

産業用(FA)コンピュータ/コントローラは、汎用パソコンとは異なり、長期間の安定した供給体制や、連続稼働に耐える、信頼性の高い設計などが求められる。汎用パソコンのように数年ごとに買い替えするのが当たり前のような使い方に対し、5年、10年と同じ機種をトラブルなく使い続けることが多く、求められる要求レベルも高くなる。

産業用(FA)コンピュータ/コントローラと汎用パソコンは、構造上からも異なる。工場の製造現場や重要な設備の制御装置など、長期間稼働を停止することができないシステムに利用されることが前提のため、マザーボードや電源などの重要なパーツには、より高い信頼性と耐久性に優れた部品などが使用されている。例えば温度特性もマイナス25度~プラス60度ぐらいの範囲に耐えられる設計で、ファンなどの冷却や加温機器などを使用しないでも安定した信頼性を発揮できる設計となっている。

また、制御機能も、生産ラインでの一体化処理や並行処理ができることで、処理時間の短縮やスループットの向上が図られている。半導体製造関連装置やFPD(フラットパネルディスプレー)製造関連装置分野においては、より複雑なプロセスを短時間で高速処理することが求められており、一つの装置に複数の制御コントローラとFA用コンピュータが使用されているケースが多い。

このような場合、最先端のCPUやメモリー2GBクラス以上のハイスペックな製品が要求される。インターフェースについても増設コストを少しでも減らすため、豊富なシリアルやUSB、拡張スロットを持つことが要求されている。

拡張スロットは、画像処理ボードやモーションコントロールボード、各種フィールドバスボード、GP/IB通信ボード、AD変換ボードなど、用途別に応じたボードを使用する。シリアルやUSBには、各種ホストコントローラやUPS、計測装置などの周辺装置を接続することが多い。

CPUは、インテルなどの最新プロセッサを搭載することで、演算能力やグラフィック機能の性能が大幅にアップするとともに、消費電力の削減にも貢献している。インテルのBay Trailプロセッサを搭載した最新の機種では、演算能力が従来機種の約2倍となり、より高速な演算処理が可能になっている。

産業用(FA)コンピュータ/コントローラにはさまざまな仕様が要求されるが、中でも最重視されるのが信頼性で、メモリーエラーの検出・訂正などが可能なECCメモリー機能、ハードウエア内部を監視するRAS機能、ハードディスクを切り離すホットスワップ対応ミラーリングディスク機能などがほとんどの製品に搭載されている。

24時間連続的に稼働する厳しい現場では、「いかにダウンタイムを削減できるか」という点も大きな開発テーマになっている。こうした状況を背景に、最近ではWindowsだけでは難しいリアルタイムな制御を実現するため、リアルタイムOSを併用することが増えている。

PLCでは実現できない処理の領域、例えばプロセス処理用の学術計算や、高級言語によるプログラミングなどを実現するため、制御部分はリアルタイムOSで処理、制御以外の部分はWindows OSで処理を行うなど、1台のPCで制御から処理までを行っている。

数年前まで、Windows OSとリアルタイムOSを同時に走らせることは難しかったが、近年はコンピュータの高性能化により、簡単に実現できる。特に最新のプロセッサとリアルタイムOSを有機的に連携することで、リアルタイムによる処理性能も大きく向上、42マイクロ秒で2万ステップの高速処理が可能になっている。

■ハブの役割に期待

ハードウエアだけでなく、ソフトウエアでも長期のサポートを求めるニーズは高い。特に通信分野ではLinux OSの採用が多くなっている。PLCは言語の国際標準化が進んでいる。国際標準言語規格「IEC61131-3」が中心で、JISとしても規格化されている。使う人のスキル、使用する業種などによって五つの言語を標準化して選択できる。欧州を中心に普及してきたが、国内でも普及が進み、PLCメーカー各社も対応機種の充実を進めている。

今後、産業用(FA)コンピュータ/コントローラやPLCは、IoTの進展の中でエッジコンピューティングのハブとして、末端のセンサー情報と上位システムをつなぐ役割がますます高まるものと見られる。信頼性と長期安定供給の特徴を生かしながら、さらなる用途拡大が期待されている。ジコンピューティングのハブとして、末端のセンサー情報と上位システムをつなぐ役割がますます高まるものと見られる。信頼性と長期安定供給の特徴を生かしながら、さらなる用途拡大が期待されている。

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