不連続戦線に異状なし 黒川想介 (48)

■省力化のための機械・自動化、サービス・販売業に

1960年代の日本経済は高度成長を加速させて湧き立っていた。今ではメード・イン・ジャパンと銘を打った商品は世界でも信用が厚く、ブランド価値の高い商品となっているが、当時のものつくり業は欧米に一歩も二歩も後塵を拝していた。したがってものつくり業では欧米に多額の特許使用料を支払っていたことになる。

その当時、経営の神様と謳われていた松下幸之助は、オランダのフィリップス社と家電品の特許使用料の交渉に際し、「その家電品を販売するにあたって松下電器には独特のノウハウがある」と言って、家電品販売に対するノウハウ料を請求し勝ちとったのは有名な話だ。現在ならフランチャイズ制のように販売のノウハウに対するロイヤルティは普通に発生しているが、欧米に対して販売のやり方を認めさせたことは、当時としては珍しいことであった。

ものつくり業では欧米の後塵を拝しても販売においては負けてはいない。一歩も引かないという気概を感じさせる。当節では、ものつくり業での特許使用料は諸外国に対して売り越しになるほど日本の技術の優位は際立っているが、経営の神様松下幸之助が気を吐いた商売の方は欧米のフランチャイズ制が街々に幅を利かせている。

ものつくり業が一気に世界のトップレベルに達したわけではない。60年代にルイスの転換点である余剰労働力の減少が明らかになって、借金の上昇を招くと製造業はこぞって省力化技術に力を入れた。さらに70年代に入ってオイルショックに苦しみ省エネ技術を向上させた。その後のものつくり業は、グローバルな大競争にもまれて製品の機能・品質技術あるいは環境技術が向上して世界のトップクラスに躍り出ている。苦難にあえいだものつくり業は、競争原理が働いてこうして現在でも先進国のトップクラスに位置している。

ものつくり業と比較すると松下幸之助が気を吐いたサービス業である販売は、人と人との関係から発する業なのでローカル色が強い。特に日本の国民性である和の精神が義理・人情を厚くして、それが壁となって長いこと熾烈な競争原理が働きにくかった。しかし昨今では欧米からディスカウント店を皮切りにコンビニ、ファストフード、コーヒー店などのフランチャイズ制やメディア・ネットによる販売が次から次にやってきて、ものつくり業と同様に熾烈な競争原理が働いている。今ではサービス、販売業でもグローバル展開するほどの実力を身につけてきた業界もある。

ものつくり業での品質が世界で定評がいいように、サービス・販売においても、世界に好かれる「おもてなし文化」を持っているからサービス品質は誇れるものを持っている。しかし労働生産性に関していえば、ものつくり業が世界のトップレベルにあるのに対して、就業人口の7割を占めるサービス・販売業の生産性は先進国の中でも下位レベルに位置している。

現在でもサービス・販売業は人手不足をいわれながらも生産性が低いため賃金が低い。今後急激に起こる労働人口の減少は深刻な人手不足と賃金上昇をもたらすことになる。経営を圧迫する人手不足と賃金上昇を吸収するにはものつくり業がやってきたように省力のための機械化・自動化が必要となる。

機械化・自動化をするためにサービス・販売業の集約化が加速される。集約化し、大型化が進めば労働集約型から資本装備率を高めた設備集約型に変貌してゆくことになる。日本のサービス・販売業の労働生産性が欧米に比べて低いということは大きな発展の余地があるということだ。現在進行しているITがらみの情報化のほかに省力化や省エネ化される機械、機器設備が3次産業であるサービス・販売業へ加速的に増加するということである。

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