不連続戦線に異状なし 黒川想介 (44)

■成長期は外へ広がる 設計者と親しみのある関係に
日本が経済成長をしていた頃に比べると海外に行きたいと積極的に思う若者は少なくなったと言われている。一般的に言えば、元気のいい時と成長している時は外へ外へと広がっていく。一方、成長したいと強く思うそのエネルギーの発露が減速してくれば内部を固めることを優先する。このことは国においても、会社においても、会社の中の事業においても、展開する営業所の拠点においても言えることである。

身近な例でいえば、会社が伸びていく時に営業所を作る。営業拠点を任せられた責任者は、すでにある営業所と比べて遜色がなくなるまでエネルギーを全開する。特に売り上げ、利益の確保のため顧客を増やす。つまり外へ向かって顧客開拓に全力を挙げる。数年たって売り上げ、利益が伸びて、先輩営業所と比べても遜色がなくなると、肩身の狭さがとれて、外へ向かう開拓から、顧客満足度営業へと軸足を移すようになる。

このような現象は、部品や機器商品のユーザーである顧客についても同じである。作っている製品の需要が伸びている時は販路の開拓に意欲的に取り組む。結果として売り上げと利益が伸びて、事業の採算が合ってくると販路の開拓は鈍る。製品需要の成長期には、作られた販路からの受注をこなすため設備の増築が行われる。需要の成長期が終わり安定期に入ってくると増産設備から生産効率重視に軸足が移る。この頃になると製品業界の販路は定まっていて、他に食い込むには難しくなっている。現状の販路を守るために品質・納期・コストで顧客満足度を上げる方に軸足を移すことになる。

製品需要の安定期から下降気味になってくると、再び外へ向かう成長路線にかじを切り、今度は海外市場の開拓に向かう。海外市場の開拓を積極的にしない企業も持続的成長をしなければならない。そのためには国内マーケットを対象として技術の開拓をする。従来技術から派生する技術開拓や資金力のある企業は新しい技術開発に向かう。

そして新しい製品を生み出す。もちろん販路や製品技術の開拓以外にも、生産技術の開拓で最適な設備を考案して業界に君臨しようとする企業もある。いずれにしても元気のある時は、内部固めをする前にそれが営業であれ、製品や製造の技術であれ外へ外へと広がっていくものだ。

今や日本は再び成長路線へと軌道を取っているので積極的に成長を目指す企業が多くなっている。部品や機器商品を扱う営業は、自分たちの顧客はどのような戦略を持っているかを知って、つき合い方を決めていく必要がある。

自分たちの顧客は、(1)海外マーケットの販路開拓組(2)国内マーケットで新しい技術を開拓する組(3)それとも生産技術で業界に君臨を目指す組のどれなのかを知って、重点的訪問する現場はどこかを探すことなのだ。

(1)の場合では、海外マーケットに合うように製品の仕様を変えていかねばならないから、製品設計は従来製品の変更や周辺製品の設計に追われ忙しくなる。当然、部品や、機器商品の見直しが起こる。忙殺されている設計者は親しみのある営業マンに案件話を持ちかけるだろう。常日頃近くの存在でいることが大事であるが、用件がないと会ってくれない程に忙しい製品設計者と親しく近しい関係になるのはかなり難しい。したがって、これまでも実績のある商品を担いでいる営業マンに声がかかった。それで販売ルートの変更はほとんどなかったのだ。

似たような商品を売り込みたい、と意気込んでも、忙殺されている設計者と親しみのある関係になっていなければ、巡ってきた部品や機器商品の見直しのチャンスを生かすことはできないことを知るべきだ。

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