スイッチング電源 国内外メーカー技術競う 省スペース化へ「より小さく」 耐久性、変換効率、ローコストでしのぎ

工場では非常に多くの電気が使用されている。発電所からの経路として、変電所を経由し各事業所で受電。受電盤・配電盤を通って、制御盤にまで複雑な経路を通じて電気が届く。トランスなどの電源が活用され、電気は各ポイントにおいて変圧され、次の設備で使いやすい状態で送電される。その中でも、最も製造現場に近い場所で使用される電源が「スイッチング電源」である。「パワーサプライ」と呼ばれる「直流安定化電源」として、国内海外合わせ多数のメーカーが日々技術開発を競っている。

工場で使われるスイッチング電源はDC(直流)電源に変換するものがほとんどで、商用(交流)電源(AC電源)をDC5V(情報機器に多い)、DC24V(制御機器に多い)などに変換し、「弱電」と呼ばれる分野で活用されている。具体的にはセンサ用電源・PLC用電源・リレー駆動用電源・ランプ用電源・ロボット用電源などのFA用制御機器、アナライザ・オシロスコープなどの計測機器、各種医療機器などに利用されており、近年では工場の情報化に伴い、HUB・無線LAN機器など情報機器用に使用されるケースも増え、市場は堅調な成長が続いている。

AC電源から安定的にDC電源を作りだす方式としては、大きく分けて「ドロッパ方式」と「スイッチング方式」がある。「ドロッパ方式」はトランスを用い、「大きい」「重い」「効率が悪い」といったデメリットの代わりに「低ノイズ」「壊れにくい」といったメリットがある。一方、「スイッチング方式」は半導体素子を用い「ノイズが発生する」というデメリットの代わりに、「小さい」「軽い」「高効率」といったメリットがある。機器に組み込まれる場合は大きさが重要視されるため、「スイッチング方式」が主流となっており、ほとんどの電源は「スイッチング方式」の製品を指す。

■標準品ニーズの高まり
「スイッチング電源」はPC用に組み込まれた電源や、単体でAC電源からDC電源に変換するものなど非常に広い分野の製品を指し、さまざまな統計があるものの、市場規模は国内全体で約2500億円前後といわれており、自動車製造設備、工作機械、半導体・液晶製造装置市場などで、搭載機器の増加により電源需要が高まり、今後も伸びるとみられている。

その中でも標準品といわれる型式・仕様が既に決まっている製品と、カスタム品といわれるそのつど顧客仕様にあわせて開発する製品と大きく2種類があり、標準品は市場の約20%強を占めているといわれている。標準品の小型化や、コスト対応力の強化により、今後標準品が増えていくとみられている。

■多機能化が進展2500億円市場、今後も伸長
スイッチング電源選定の要素としては「入力電圧」「出力電圧・出力電流(出力電力)」などの基本要素の他に、「ケース有無」「取り付け方法」「(警報などの)出力有無」などが挙げられる。基本スペックとしては「変換効率」「仕様周囲温度」など多数の条件があり、全部を数えると、標準品だけで数百機種をそろえるメーカーもある。さらに、最近では設備の省スペース化が顕著になってきており、スイッチング電源自体の体積も小さいものが好まれるようになってきている。

■設備を止めない対策
「予兆保全」の分野でもスイッチング電源は期待されている。電源が破損してしまうと、電源供給を受けている機器が全て停止してしまうため、製造設備を構成する要素としては重要な位置を占める。最悪の場合、RAMなど、記憶装置(機能)が電源供給を必要とする場合、データの破損、紛失にもつながるため、設備設計の際にスイッチング電源の信頼性は非常に重視される傾向にあり、「耐久性アップ」「メンテナンス時期のお知らせ機能」などを強化している。また、万が一故障の際にも稼働を継続できるよう、冗長運転ができる製品も増えている。

■規格対応が進む
輸出も順調に増えている。国内で販売されるスイッチング電源も、制御盤や機器に組み込まれた状態で海外に輸出されるケースが増加している。そのため、電気的仕様に関する規格や、安全に関する規格などが採用にあたり必須になりつつあり、各メーカーが積極的に取得している。欧州向け規格の「CE」、北米向け規格の「UL」などをはじめ、中国向け規格の「CCC」などがある。他にも欧州の環境影響物質に関する規格である「RoHS」など多数の規格があり、輸出する装置に採用する場合は、各メーカーのHPなどで確認が必要だ。かつては個別にメーカーに問い合わせ、「非該当証明書」や「CE自己宣言書」などを取り寄せる必要があったが、現在では各メーカーともHPで必要事項を入力し、書類PDFをダウンロードできるサービスが標準になりつつある。

■進む製品の二極化
新製品開発の方向性としては「多機能化・高機能化」と「ローコスト化」の二極化が進んでいる。多機能化の例として、「電流表示」「自己診断(メンテナンス時期のお知らせ)」、高機能化の例として「小型化」「耐久性アップ」「変換効率のアップ」などが挙げられる。

特に耐久性アップについては各社強化している。耐久性は主に内蔵する「アルミ電解コンデンサ」の耐熱温度や放熱性に依存する。アレニウスの法則といい、使用周囲温度が10℃上がると、寿命が半減するといわれており、各社ハイエンド品を中心に、耐熱温度が高いコンデンサの採用や、アルミ電解コンデンサを使わない製品の開発を進めている。カタログ上での仕様としては「使用周囲温度」に影響し、他の技術との組み合わせで、現在ではマイナス25℃~プラス75℃まで耐えられる製品も発売されてきている。

変換効率も各社技術開発を競っており、最近では90%を超える製品も出てきた。効率が良いと、省エネにつながるばかりか、エネルギーロス(=ほぼ熱に変換)による部品(コンデンサ)へのダメージが少なくなり、製品の安定化(長寿命化)にもつながる。電源がダウンしてしまうと装置全体が停止してしまうため、止まらない工場の実現のためには重要なスペックでもある。

ローコスト化については、原価低減を価格に反映し価格を見直す例や、海外工場に生産移管する例、取り付け金具などをオプション扱いにして本体価格を抑える例などの他に、中国、韓国、台湾など海外メーカーが日本市場に参入し、コストを武器にシェアを伸ばしている。

また、ケースに入っていない基盤タイプのラインアップも年々増えており、ローコスト製品に関するニーズにも各社対応している。

■成長するWEB販売
流通方法も多様化し、従来の専門商社からの購入だけでなく、WEBを使った販売方法も増加しつつある。今までは各地の制御機器を扱う専門商社が、各ユーザーから受注し、メーカーからの納入価格を基に、価格・納期を調整し、回答・販売するケースがほとんどを占めていたが、仕様が決まっている汎用標準品については、納期や価格をすぐ知りたいというニーズからWEBによる購入が増えている。

WEB販売の多くは納入価格が明示されており、納期も最速即日出荷と、ユーザーにとっては部品の納期管理を含めた購入に関する工数を大幅に削減できるため、今後も増えると見込まれる。

一方で、特注仕様やハイエンド製品に関しては専門商社やメーカー技術営業スタッフによるサポートを受けながらの仕様決定が必要で、大量購入の場合はコストが重要な要素になる。また、メーカーによってはWEB販売自体を行っていない場合もあり、顧客ニーズにより今後も流通方法のすみ分けが進んでいくと思われる。

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