不連続戦線に異状なし 黒川想介(29)

二兎追うものは一兎も得ず、ということわざがある。昔からあることわざには思い当たるふしが往々にしてあるものだ。しかし、現代社会は複雑なゆえに二兎を追う局面は多々ある。特にものづくりにかかわる業界にとって、グローバル市場と国内ローカル市場の二兎を追わねばならないことが多くなった。二つの異なった市場に正面から立ち向かう二正面作戦を実行するのは、それなりの実力があったとしてもかなり困難である。

かつて第一次世界大戦においてドイツ参謀本部は大国フランスと大国ロシアに対して二正面作戦を実行し、結果的に4年間という長き戦いの末に敗北した。ドイツ帝国ができたのは1871年である。それ以前のドイツ地方はプロイセン国、ハプスブルグ帝国の二強の他にバイエルン・ザクセンなどの小国がひしめきあっていた。現在のドイツを形づくったのは、プロイセン首相ビスマルクと参謀長大モルトケのコンビであった。ビスマルクは、ハプスブルグ家の現オーストリアを抜きにしたドイツ民族国家をつくろうとした。

まずオーストリアとの国境を決めるため、オーストリアに戦争をしかけた。ロシアとフランスはプロイセンが強国になることを恐れ、この戦争に干渉してくると読んだビスマルクは外交に知略を尽くし、露国と仏国と不干渉の密約を結んだ。それで大モルトケはオーストリアだけを敵とし一正面作戦に専念することができた。

次に仏国との国境を決めるため仏国に戦争をしかけた。この時も露国が背後から襲ってこないように外交をもって露国を封じ込めた。大モルトケは仏国のみを敵とした一正面作戦をもって仏国を破り、ドイツ帝国の設立をパリの講和会議で宣言した。二正面に敵を持つには国力不足と判断したビスマルクは外交をもって一正面の敵と戦う条件をつくったのだ。

ビスマルク亡き後、ドイツは欧州で最強の陸軍団となって第一次大戦を迎えたのである。ビスマルクのいないドイツは外交に失敗し、仏国と露国の二正面に大敵を持つことになった。最強を誇るドイツ参謀本部は両国を分析し、露国は軍の動員がのろいことを知った。

まず仏軍に対し全力をあげ一気にたたき、講和を結び、返す刀で戦備の整った露軍を全力をあげてたたくという作戦を考案した。仏国はドイツとの国境沿いに堅固な城塞を築いていた。プロイセン軍は仏国の城塞をけん制しつつ、大軍をもってオランダ、ベルギー方面をまわって一気にパリを突くという作戦を策定したが実行の段階になって、参謀長モルトケのおいはもし露軍の動員が予想より早かったらと考え、大軍の一部を露側の東部戦線に回した。

それでも最強を誇るプロイセン軍は、オランダ・ベルギー方面から仏国境を破りパリに迫った。あと一息のところで軍力不足となり、仏軍との西部戦線は全面的に膠着状態となった。その間、英米が参戦した。それでも東部戦線では露軍を圧倒していたが4年間を戦いぬき敗北した。

歴史にもし…はないが、大軍の一部を東部戦線にまわさなかったらと思わせる電撃的進軍であっただけに作戦の一部変更は惜しまれる。現代のものづくりにかかわる業界において、二兎を追う実力のある場合、実力はないが二兎を追わざるを得ない場合にしばし遭遇する。自他を比較した自分の実力の分析と、二つの異なる市場の本質的な分析をできるかどうかが最も重要なのである。一度決めたら一直線に行け、もし途中で迷ったら修正せずにもう一度戦略を練り直せということを歴史は教えている。(次回10月7日付掲載)

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