不連続戦線に異状なし 黒川想介 (28)

1990年代に、護送船団方式という言葉や活字が巷間で散見された。本来の護送船団方式とは軍事用語であり、船団を護送する時に最も遅い船のスピードに合わせて航行することであったのだが、この時マスコミ紙上で賑わった護送船団方式とは金融業界のことであった。お金は経済社会の血液のようなものである。そこで、銀行の破綻は社会を極端に混乱させるため金融行政で過度の競争を避け、一つの銀行もつぶさないようにするために様々な規制をかけ統制してきた。

バブル崩壊や国際的圧力により90年代中頃から金融の大がかりな規制緩和が進められ、もはや護送船団方式は崩壊したという記事が連日紙上を賑わせたのであった。護送船団方式の崩壊によって競争の原理が働き、集約化や各種の商品開発が活発になり、日本の金融業界もグローバルで戦えるようになった。企業向けコンポ商品や部品業界では、かつての金融業界のような規制はかかっていないので、護送船団方式のようなことはない。当初から商品開発、品質、納期、コストの競争で業界全体は生き生きと伸びてきた。

90年代に入って、護送船団方式という言葉が紙上を賑わせていた頃に業界でささやかれ出したのが「競争と協業」という言葉であった。無駄な競争を排除して、協力できることは協力し合うということであった。この言葉がささやかれた背景は多々あると思うが、伸びまくっていた業界も日本社会の成熟化により生産力強化が一服したため、量産コスト減で利益を出す構図が崩れ出したのが一つの理由になっていた。「競争と協業」とは、これまで競争に明け暮れていた競合各社が協業できるところを話し合って協業しようではないかということであった。人は集まって社会をつくる。社会ができれば競争が始まる…日本民族は白鳳の御代から競争が嫌いな民族であったようだ。

そこで競争の原理とは相反する「和」の原理を大切にしてきた。争って決めるのではなく話し合いで決める、ということを大切に思っている。これは他民族にはないことである。世界で行われている外交は話し合いではないのかと言われるだろうが、外交は力を背景に持った話し合いだが、日本の話し合いは力を背景にしない独特のものである。和の原理を根底に持つ日本ならではの発想が「競争と協業」であったのだが、競争と協業がどのように実行されたかは不明である。おそらく、スローガン倒れで終わったようだ。

90年代も終わり、グローバルの波が一気に押し寄せてグローバル競争に入り、「競争と協業」は消し飛び死語となった。部品やコンポ商品業界では当然規制はなく、競争と協業という縛りもない、もともと競争一筋の世界である。競争を勝ち抜くためにベンチマークという経営や、自社の営業を改善する手法がある。他社の優れた経営や営業と自社のやり方を比較し、自社の経営や営業手法の改善を行うものである。競争と協業が死語になってから、ベンチマークという言葉がこの業界でもよく使われるようになった。

ベンチマークは優れている他社に似せることではない。的確な戦略をもってベンチマークをするのだろうが、大事なことは自社の評価を正しく把握することである。そうすればできること、できないこと、やらねばならないこと、やってはいけないことが自ずとはっきりする。

ところで、よく目にするキャンペーンのやり方や内容は、各社とも商品こそ違うが、護送船団のように粛々と並んで航行しているように見える。従来に促われず、周囲にとらわれないで今日の自社の戦略に合うキャンペーンはそれぞれ違ってしかるべきはずだが。
(次回は9月16日付掲載)

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