不連続線線に異状なし 黒川想介(14)

2020年に東京オリンピックが開催されることが決まっている。前回開催された東京オリンピックは50年以上前の1964年であった。日本経済は高度成長の真っただ中にあった。現在の新興国と同じく騒然とした活気があり、日本の物づくり産業も軌道に乗りつつあった。

それでも国際流動性は現在に比べれば圧倒的に少なかったから、世界から日本への資本の移動も少なかった。そのため日本が独自で外貨を稼いで、物づくりの原料を海外から購入しなくてはならなかった。

したがって大規模に原料を買って大規模に物づくりをするまでには至らず、現在のグローバル経済で新興国が世界中から資本を集め一気に大規模工場で操業している様相にはほど遠かった。

外貨準備の少なさを穴埋めするように日本の山々で金、銀、銅、鉄、石灰石など掘れるものは何でも掘るという具合に多数の鉱山が稼働していた。資源のない日本と言われるが、ない中で原料を掻き集めて物づくりをしていたのが1964年東京オリンピック以前の状況であったのだ。

当時の原料加工工場の多くは山の近くにあった。原料を加工するには多大な電力を必要とする。当時の電力は水力発電主体であり、大きなダムをつくる時間と費用は莫大なものだった。したがって供給力とコストの面から、原料加工工場は山の高低を利用してわりあい簡単につくれる揚水発電所を自家発電として、工場の近くに持っていた。

60年代当初は、制約された原料と電力で物づくりをする状態だったので大口の需要家は、国営と専売・電電などの公社や独立行政法人のような政府系の企業体が主であり、民間企業は従であった。物づくり技術は機械工学が主役であり、電気は動力、配電を主とした脇役だった。

64年東京オリンピックを境に、社会資本は充実し資本力もついてくると原料の国際調達は活発になり、石油・火力コンビナートや原料加工コンビナートが海岸に並んだ。

電力・原料の安定供給によって、いよいよ物づくりは快調に飛ばし始めた。その頃は、原材料を加工し部品をつくる加工工程では人は機械を操作し部材をつくっていたし、製品の組み立て工程では大勢の人がそれぞれのパートを担当し人力で組み立てて製品を完成させていた。

まだ加工・組み立ての物づくりの現場では、自動制御という概念は一般的には知られていなかった。自動制御とは何かと問われたら、オートメーションと答えていた。それで、なんとなく分かってもらえたのは無声映画時代の「チャップリンのモダンタイムス」に出てくる自動食事機械のようなものであって、機械が勝手に動くという程度の理解ができたからである。その程度の物づくり工場であったから、今から見れば全ての工場という工場は自動制御市場の宝の山であったろう。

新しく購入される設備は自動制御を備えていたので、現場の技術者は自動化に対する技術力を速いペースでつけていった。古い工場の設備を改造したり、自動化のできるところを探し自動化を進めていったから、加工組み立て工場だけでなく、原料工場においても自動制御の部品やコンポ機器の需要があった。今でも残っている小規模の原料工場や協同組合飼料のような工場でも、自動制御の案件はとっくに出ていた。

このような工場の自動化は終わり、今では営業の訪問はない。概して言えば国内工場は徐々に自動化は終わり、改造・リニューアル、改善・革新で、生産効率を上げる方向になっている。

自動制御が宝の山に見えていた時の延長線上にはないため、物づくり現場には不連続の目がいる。次の東京オリンピックの頃にはどのような生産設備を使って、どのような工程で物づくりをしているのだろうか。

国内需要はますます多様化するから、多様化する顧客の要求にぎりぎり合わせる物づくりが主流となるはずだ。
(次回2月4日付掲載)

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