混沌時代の販売情報力黒川想介社会の変化を理解し手を打つ

最近になって、国内の営業が売り上げを伸ばすには、顧客を増やさなければならないことに多くの会社が気づいてきた。それまでも、産業用電気や電子部品を販売する会社では、ユーザーやセットメーカーである顧客の売り上げがスローダウンしていることに気づいていて、その対策として新たな商材を増やしたり、販売員に対する考え方の教育を強化する方向をとってきていた。その結果として、何とか大きな売り上げのダウンは免れ、一進一退を繰り返してきた。

顧客の多くはコスト低減や円高の影響により、コストが安く済む海外への移転を加速してきた。しかし海外で物づくりをするのに日本で加工部品を作ったり、海外工場の設備に関する装置や治具類を日本で作って海外へ輸出してきたため、制御機器や産業向け電子・電気部品は大きな落ち込みもなく、業界関係者は『海外へ工場が行ってしまって大変だ』と口で言う割りには衝撃の度合は薄かった。現在でも、大方の企業は海外工場向けの設備に伴う装置や治具類を日本で作って送っているからだ。ここ数年の間に産業新興国は経済的・技術的にも力をつけてきた。すべての加工部品を日本から調達しなくとも、中韓をはじめとする新興国で作るもので間に合う分野は増えているし、今後も着実にアウト―アウトの取引で済むケースが大方を占めてくる。設備に伴う装置や治具もまた然りでアウト―アウトの取引となり、日本が持つ海外工場向け設備ベンダー機能は縮小していくことを免れない。ベンダー命で商売をやってきた制御機器や産業用部品の販売員にとって大変な事態となる。案件を次々と消化し、競合切り替えに血道を上げても、景気がちょっと悪いと、売り上げがかなり沈むようになり、国内販売各社は不安を抱き始めた。

そこで、これまでやってきた方向を変更し、昔から言葉に出していた顧客増やしのための客先開拓に本腰を入れ始めている。しかし、立派な会社案内や戦略的な商品をもって新たな見込み客を訪問しても、あまり良い結果が得られていない。前回述べたように新規見込み客の訪問先が扉を開けてくれる目新しい商品や、あっと驚く使用例などはないに等しい。だから販売員の意志がよほど強固でない限り、あきらめてしまって、開拓熱の上り下りのトーンを繰り返している。

車の販売がある時期を境にして大きく方向を変えた。車のセールスの草分け時代には社会が未成熟であったため必要性が低く、高価な物だった。一軒一軒、訪問して売り込んだ結果、ほとんどが断わられるセールス受難の時代だった。成長期に入り車が世間的にも認められだした。その上に、リピーターが増えたので訪問販売はますます盛んになった。しかし、ある時期から訪問販売はなくなった。その代わり、見込み客を販売会社に誘導するやり方に変わった。車の販売会社が社会環境の変化を深く理解し打った手であった。車販売会社は現在その延長で戦っている。

コンボや部品販売員が実際にやっている新規客のつくり方は積極的な見込み客訪問ではない。ホームページを見た見込み客から電話が入り訪問する。そして、見込み客が抱えていた納期や商材に関しての要件が完了する。その後、その見込み客からの要件が継続して発生すれば顧客として定着する。要件完了後再度訪問しても、次の要件が発生しなければ縁が薄くなりリセットされる。これでは車販売のように、社会環境の変化を理解し手を打っているとは言い難い。販売員の営業スキルの問題だけではないように思う。
(次回は9月11日掲載)

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