世界初の「密閉型実証研究植物工場」今春稼働 札幌市郊外に「グリーンケミカル研究所」 ・遺伝子組み換え植物を栽培・コンピュータ管理で水耕栽培・異分野の技術かし研究・実験 1000種類の植物に適用 5つの栽培室に常駐各1人 産学がひとつ屋根の下で

2013年1月9日

公益財団法人北海道科学技術総合振興センター(=ノーステック財団、近藤龍夫理事長)が昨年暮れ、札幌市郊外に完成させたグリーンケミカル研究所(密閉型実証研究植物工場)が今春稼働する。遺伝子組み換え植物の栽培やコンピュータで管理された水耕栽培、さらに目的物質の抽出、精製、機能評価といった異なる分野の技術シーズを生かした融合研究と一貫した実証実験をひとつ屋根の下で行う、世界初の先端施設だ。

グリーンケミカル研究所は、札幌市豊平区の産業技術総合研究所(産総研)北海道センターの敷地内にある。土地面積2000平方メートル、総床面積985平方メートル。科学技術と産業技術の振興によって北海道の企業・産業、そして経済の発展を目指すノーステック財団が国の補助金(平成22年度経済産業省の先端技術実証・評価設備整備補助金整備事業)を受け、総工費10億円で建設した。

■技術の橋渡し拠点

民主党政権が経済成長戦略とした特区制度に採択された「北海道フード・コンプレックス国際総合戦略特区(フード特区)」の最重要プロジェクト。植物で医薬品や工業原材料を生産する事業を企業ベースで実現するための橋渡しをする役割を担う「技術の橋渡し拠点」である。

財団は(1)基礎的・先導的研究への支援(2)産業クラスター形成に向け、実用化・事業化への支援(3)産学官連携のネットワーク形成への支援(4)産学官共同研究を推進するための施設運営を目的としているが、「グリーンケミカル研究所」は4番目の施設運営事業の柱のひとつだ。

「グリーンケミカル」という名称は、同財団オリジナルの用語。具体的なサブ名称は「密閉型実証研究植物工場」。「植物工場」というと、トマトやレタスといった食材の野菜を生産するイメージだが、同研究所の狙いは全く違う。規模もさほど大きくない。

目的は、医薬品の原材料となる物質を有する遺伝子組み換え植物の栽培や、コンピューターで管理された人工環境下の水耕栽培で多種多様な作物種の栽培、栽培した植物から目的の物質を抽出・精製し機能評価といった最先端の取り組みだ。こうした技術は産総研・北海道センターや北海道大学の基礎研究で開発されている。稲や芋は高容量の人工光により年間3・5回の収穫ができるという。

電力コストが高く食材には見合わないが、品種改良や遺伝子組み換えの成果を通常の3・5倍のスピードで実証できる。光の波長を変えることにより、植物の成分の含有量を変えることができるという。

■1000種類の植物に適用

植物の遺伝子組み換えは確認するのに通常4カ月から8カ月必要だが、産総研の技術では5日ほどで可能という。適用できる植物の種類も通常十数種類が1000種類に及ぶ。

■5つの栽培室に常駐各1人

栽培する遺伝子組み換え作物が他の遺伝子と交雑して生態系に影響を与えないように5つある栽培室は完全密閉されている。

栽培室の総床面積232平方メートル。A室(73平方メートル)、B室(34平方メートル)、C室(15平方メートル)、D室(28平方メートル)、E室(82平方メートル)。LED照明の光の波長を変えて植物の生育に最適な環境を作り出す栽培室や、メタルハライドランプを光源に4万5千ルクスの強い人工光で稲の栽培もできる栽培室、太陽光併用型もある。栽培室の光の量や波長、水、温度、空調などすべてがコンピューターとセンサーで栽培する植物と目的に最適な状態を室内同一条件で実現するように制御される。常駐する人員は一室一人程度という。

入居企業のテーマは(1)遺伝子組み換え技術を用いた植物を栽培し、医薬品や工業原材料を生産する(2)人工環境下での水耕栽培を研究し、新たな農業生産方法を生み出すというもの。

昨年10月に開かれた同財団の入居選定運営委員会で出光興産(東京都)、北興化学工業(同)、朝日工業社(同)、ハーバー研究所(同)、アミノアップ化学(札幌市)の5社が入居を認められた。期間は最長5年間とされ、門戸は他の企業にも開かれている。

出光興産は「植物で豚の病気に効くワクチンの生産」、農薬メーカーの北興化学工業は「ヒト医療用ワクチン成分の大量生産技術の開発」、ハーバー研究所は「オリジナルに製造する化粧品と機能性食品に関連する成分を持つ植物の効率的な栽培方法の研究」、機能性食品事業を行っているアミノアップ化学は「青ジソの水耕栽培」を予定している。そのほか、朝日工業社は「低コストで大量生産できる植物栽培システムを開発」するという。

■産学がひとつ屋根の下で

同財団の常俊優専務理事は「遺伝子組み換えや完全人工環境下での水耕栽培、目的物質の高効率抽出・精製技術といった世界トップレベルのグリーンケミカル生産技術を生かし、産学がひとつ屋根の下で実証・実用化研究を行う。新製品、新事業、新産業を創り出し、高効率農業の生産方法の構築や人材育成を図り、世界から注目される中核的研究開発拠点(COE)を目指している」と語っている。