混沌時代の販売情報力黒川想介 顧客をもっと知ろうとする努力

2010年9月22日

われわれは起きている間はいろいろな物を見、いろいろなことを聞いている。しかし、「心ここにあらず」と言う言葉が示すように漫然と見たり、聞いたりしても心や記憶に止まることはない。自分の住んでいる街の通りを普段歩いているのに友が訪ねてきて、いざ昼食を共にしようとすると、外食をしない私はどこにどんな食堂があるのか、はたと困ってしまう。

もっともファストフードのマクドナルドや吉野屋、すき家、などのチェーン店はあちこちで統一された看板が普段から目に飛び込んでいるので、わが街のどの辺にあるのか認識している。これなどはチェーン店効果で、どこの街でも見かけるため、漫然と見ていても、どの辺にあるのか記憶に残っているのである。

それでもファストフードに多少とも興味がなければ、街の通りのどこかで見たような気はするが、どこにあるのかを記憶することはないだろう。こうした卑近な例を示すまでもなく、人は興味ある事物以外は意外に見ているようで見ていない。

営業活動の目的は、目標の売り上げ達成である。目標の売り上げ達成のために重要な活動は、情報入手である。売り上げを上げようとして、顧客から情報を入手しようとした時の心理はどのようになるのか。販売員も人である。人は自分に必要と思われる事物を、選択して見てしまう。

販売員の性向は、猟犬のように売り上げ対象となる商品情報に目を光らせて耳を澄ます。売り上げに必要なことだから当然だ。手持ちの商品をPR、反応を見て、競合他社の商品がそこにあれば切り換えようとして目を見張る。情報入手の対象も、興味ある商品以外は見ていない。それでも成熟期に入って競争が激しくなると、各社は競合の切り換え活動や商談テーマ管理活動を強化する施策を打ち出すだろう。それでは、もともと販売員がやろうとしていることを、更にやれと言っているのと同じ施策になってしまう。

過去の戦史で、寡兵ながら大軍を破った戦いでは戦闘状態に入る前に想定戦場や敵の情報入手が決め手になっている。混沌時代の営業活動では、情報入手の重要性が増している。虎視眈々と顧客からの受注を狙っている販売員の頭の中は、電気部品や制御コンポーネントで一杯である。部品やコンポーネントを通して、情報を取ろうとすると全体の本質を見失うことになる。

つまり、競合他社商品の発見や案件拾いの活動では、営業の目的である目標の売り上げ確保に必要な情報が入手されないということである。当社でもやれたとか、当社で欲しかった件名だという情報が、後々に分かってからでは遅い。売り込む商品とは、ちょっと違った角度から質問を試みればいいことなのだが、必要と思われる事物を選択して見てしまう心理に忠実な結果になってしまう。だからといって、取りあえず何か情報を取ろうとして悩んでも、欲しかった情報に遭遇することはない。

前述の卑近な例で示したように、人は興味をもって見ていないと目に入らず、目の前を通り過ぎるにすぎない。だから興味を持ったり、拘ることが情報を取る秘訣ということになる。漠然と何か情報はないかと探すのではなく、取りあえず顧客のどこかの部分に興味を持つことから始めていけば、更にその先や別の部分が知りたくなるはずである。

気になる人や好きな人のことをもっと知りたいという心境と同じである。だからもっとその先を知りたいと思わなければ、本心から気になったり、好きだと思ってない証拠である。顧客情報も同様であり、もっと知りたいと思わなければ本心から顧客を知ろうとしていないという反省をすべきだ。
(次回は10月13日掲載)