企業リスクマネジメント 第56話 ~冷たい国―日本~

最近、日本は大丈夫だろうかと思うことが多くなった。社会全体が崩れてきているように思えてならない。年間の自殺者が11年連続で3万人を超え、1日90人が自ら命を絶っている。未遂者は、この10倍いるといわれているから、毎日約1000人が自殺を図っていることになる。これはG8諸国の中でロシアに次いで2位であり、アメリカ、イギリス、イタリアの3倍である。毎年、この小さな国からイラク戦争で亡くなった米兵の10倍の死者を出していることは異常である。自殺実態白書2008によると、トップ10にあたる危機要因で約7割の人々が自殺している。それは、うつ病、家庭不和、負債、身体疾患、生活苦、職場の人間関係、変化、失業、事業不振、過労である。そして自殺者の70%以上が男性、20~50歳の自殺原因は30%が経済生活問題だ。経済的に苦しければ、うつ病にもなり、家庭不和にもなる。雇用や事業のセーフティネット対策が万全であれば予防できるはずである。

また、近頃のニュースで、家族が実母を数十年間も死体遺棄し、何年間も親の年金を受給していた事件が報道された。実娘、実孫等、家族全員が共犯だったことに驚愕し、なんともやるせない思いがした。その後行政の調査で、同様の事件が何件も発覚した。本来、子供は親に対し、育ててくれたことを感謝し、敬い、余生を安楽に過ごせるような環境を与えるべきなのに、死に絶えた親を成仏させず、親の屍を利用して金を得るなんて、日本人の慈愛の心はどこへ行ってしまったのだろうか。

そして、今年の記録的な猛暑の中、生活保護申請をしたにもかかわらずむげに断られ10年間困窮状態であった76歳の男性が、熱中症で死亡した。2カ月に10数万円の年金から家賃を支払うと食費を捻出するのが精一杯のこの男性は、電気代が払えず酷暑の中エアコンも冷蔵庫もないところで死んだ。そのニュースと同日、皮肉にも“共済"と名のつく某生活協同組合の理事長に退職金が2.4億円も払われていたという事実、そして外務省所管の天下り機構の社長の年俸が2000万円であった事実が報道された。行政は都合のよい言葉で国民支援をしているかのように言うが、実際は弱者に冷たいと不満の声を身近に聞く。唯一、政権交代後民主党が推進している事業仕分けにおいて、こういった理不尽なカネの使い方を暴いてくれたことは評価したい。

続いて、先日の新聞の1面に育児放棄され亡くなった幼い子供2人のカラー写真が目に飛び込んだ。幼い姉弟は、母の帰りを待ち焦がれつつも、数週間飲食物を与えられないまま猛暑のゴミ部屋で、寄り添うように死んでいた。「ママー、ママー」と連日泣き叫ぶ異常な状態に気づいた住民が、何度か子ども相談センターに通報するものの、手続きがとれないという理由で助けなかった。手紙を残したそうだが、子供が読むわけがない。センターも管理会社も居住者がわからなかったからと何もせずに放置した。これでは、仕事をしたとはとても言えない。無責任な母親には憤りを感じて当然だが、子育てと仕事の両立を困難にする逃げ場のない社会が生んだ犠牲者なのかもしれない。10代でママになり、支援者がおらずに行き詰まった結果である。

家族や社会との絆の崩壊が、不幸な人々を次から次へと作り出している。戦後がむしゃらに頑張ってきた日本は、今ではどこか怠慢になり、培ってきたものを次世代に継承できない国と化している。

携帯が手放せずにゲームにのめりこむ時間を、もっと人と触れ合い、汗をかくボランティア活動に費やすような環境を小さい時から与えないと、自分だけがよければいいといった無責任な大人が、無責任な社会を形成していくように思えてならない。烏合の衆の政治家たちがいい例だ。今の過度のストレスを長期的に与える国は決してよくない。個々の事件は、日本がいかに冷たくて住みにくい国かを物語っている。

理想郷を求めるか、世直しに励むかは自分次第である。
(シュピンドラー株式会社
代表取締役シュピンドラー千恵子)

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