【FAトップインタビュー】“ものづくりの裏方”事業を強化するオータックス 生産受託とM&A推進でメーカーの供給責任・事業継続の受け皿に 代表取締役社長 富田 周敬 氏


スイッチ、コネクタ、端子台といった「接続部品」の老舗メーカーで、2026年に設立50周年を迎えるオータックス。大手メーカーが相次いでメカニカル部品事業から撤退・縮小し、それ専門の中小メーカーも経営難に苦しむなか、生産受託でそれらの事業を助け、場合によってはM&Aで事業を承継する「製造サービス(ファウンドリ)」という独自のビジネスモデルで急成長を遂げている。
現在の市場環境と同社の取り組み、さらにIPOも見据えた今後の成長戦略について、オータックス 代表取締役社長 富田氏に話を聞いた。
■市場環境は底打ち 次は「インド」が世界の勝負所
――足元の市場環境と2025年から2026年にかけての見通しについて
全体として、底打ちはしたという感触を持っています。産業機器(産機)向けは、欧米市場では回復が見え始めています。日本国内の回復はまだ緩やかですが、お客様の中にはコロナ禍での「在庫を持たないリスク」への反省があり、在庫を適正水準まで積み増す動きが出てきています。
――中国市場の減速が懸念されていますが、影響は?
確かに日中関係の冷え込みや経済の停滞感は否めません。 例えば中国の「独身の日(11月11日)」でのEC商戦などを見ると、日本の電機製品を取り上げる機会が明らかに減っていて、これから影響が出てくると思います。
ただ、今後の最大の焦点は間違いなく「インド」です。インドは15億人の人口を抱え、国策としてエアコンやトイレの普及を進めており、日本企業も積極的に進出しています。当社の製品はそれらの製品やお客様に多く使われています。中国メーカーがまだインド市場を席巻しきれていない今がチャンス。ここで勝てなければ世界では勝てないという覚悟で、インド市場へのアプローチを強化しています。
■M&Aを積極的に推進 生産中止・事業撤退による損失を防ぐ
――近年、M&Aを積極的に推進していますが、その狙いは?
2020年に富士通コンポーネントのコネクタ事業、2024年に松久のDIPスイッチ事業、佐鳥電機のトリガースイッチ事業を譲受し、2025年にはパトライトの端子台事業の承継を完了し、10月1日から当社で事業を開始しました。特にパトライトの端子台事業は、旧春日電機の端子台として80年の歴史があり、多くのお客様が今も使っている製品です。こうした伝統ある製品を当社の生産キャパシティを活用して守り、育てているところです。

いま大手メーカーがスイッチやコネクタ、端子台といったメカニカルな部品事業から撤退、あるいは縮小する動きを加速させています。中小メーカーも人手不足で社内も高齢化し、成長が難しくなるなかで、自社の将来について考えるところも増えてきています。特に大手にとってはスイッチやコネクタ、端子台などは「成長が見込めないニッチ事業」かもしれませんが、ユーザーにとっては「なくなると困る部品」です。
生産中止になるとお客様は「代替品はないのか」と路頭に迷い、代替品があったとしても正式な後継品でなければ設計変更やテスト、試験などで時間と手間がかかります。それを回避するため、まずは当社がその受け皿となり、事業や生産設備を譲り受け、供給責任を継続するというのが当社の考えです。
とはいえ、決してM&Aありきで考えているのではありません。当社は接続部品メーカーである一方、以前から「ものづくりの裏方」を掲げ、他社からの生産を引き受ける生産受託事業を増やしてきました。競合他社とパイを奪い合うのではなく、ユーザーのことを第一に考え、業界全体のインフラとして生産機能を提供する。目指すところは「接続部品のファウンドリ」という姿です。他社ブランドの生産を引き受けて事業継続を助けることが第一で、その延長線上、結果としてM&Aに至っているというのが現実です。
■グローバル生産体制を再編 国内生産も強化
――M&Aにともなって生産体制の再編も進んでいます
この1・2年、在庫調整の状況下で生産体制に再編を進めてきました。中国の深圳工場を縮小し、タイの生産工場を強化して東南アジアとグローバル供給のハブとして主幹工場にしていきます。
またお客様と近い距離で活動するため、2020年の富士通コンポーネントのコネクタ事業を承継した頃から国内生産の強化を考えていて、ちょうどそのタイミングでパトライトの端子台事業と辰野工場を一緒に移管できることが決まりました。2025年10月からパトライト辰野工場はオータックス長野事業所と名称を変え、国内の生産の中心拠点として位置付けで稼働を開始しています。もともと生産していた端子台以外にも、今後は長野事業所の生産アイテムを増やし、例えば本社で生産しているコネクタや医療機器なども生産できるような体制にしていく予定です。さらには生産受託も拡大し、長野事業所の生産キャパシティを有効に使っていきたいと思います。
物流コストが高騰し、為替も円安が進み、地政学上のリスクも高まるなか、円安・円高どちらに振れても対応できるよう、日本、中国、タイの3極体制を柔軟に使い分けていきます。
■チャレンジ150 売上高150億円とIPOへの挑戦
――2025年度からはじまった中期経営計画とこれからについて
2025年度から3カ年の中期経営計画がはじまり、2027年度に売上高150億円を目指す「チャレンジ150」を進めています。既存のビジネスに加え、譲り受けた事業の積み上げで達成可能な数字だと考えています。2024年度の売上高は105億円で、2025年度は130億円はクリアできる見通しです。
同時に、近い将来のIPOを視野に入れて準備をしています。これまで生産受託拡大のための設備投資やM&Aは自社資本ですべて賄ってきました。ただそれにも限界があります。日本には優れた技術を持ち、長い歴史があっても、後継者不足や投資力不足で廃業の危機にある中小・零細の部品メーカーがたくさんあります。そうした苦しんでいる企業を救い、ユーザーの生産中止、廃盤リスクを回避するためにも、生産受託やM&Aをもっと積極的に進め、彼らの技術を存続させる必要があります。市場から資金を調達し、業界再編を主導する。そのためにも上場することが必要だと考えています。
――今後に向けて
スイッチや端子台は、派手な成長産業ではありません。しかし、AIやIoTが進化しても、物理的な「接点」や「接続」はなくなりません。特に当社の主力製品であるDIPスイッチは、むしろエアコンやEV充電器、ロボットなど産業機器を中心に底堅い需要があります。
スイッチをはじめメカニカル部品は陣取り合戦の様相を呈していて、どれだけの広く陣地を取れるかが勝負となっています。M&Aや生産受託を通じて全体ボリュームを上げ、コストメリットを享受できるようにしていく。そのために相手先のブランドで作るOEMや生産受託を増やすことは重要だと考えています。
2026年は設立50周年という節目に向け、伝統を守りつつ、新しい「製造サービス業」としてのオータックスを確立していきます。



