令和の販売員心得 黒川想介 (149)外向き情報の入手が重要 相手にあった脚本作りも
一般的に情報力があるといえば、前回述べたように「①相手に自分の力を誇示して物事を有利に運ぶ力」「②相手のことを根こそぎ知ることによって物事を有利に運ぶ力」の2通りの意味合いがある。
では、FA営業の場合はどうだろうか。実際に販売員が行う情報活動で、①の場合は、商品サンプルや資料の情報提供である。②の場合は、案件の探索や競合商品の使用状況の探索、あるいは商品のアプリケーション探索等の情報収集である。
FA商品が次々と開発されてマーケットを賑やかにした成長期には、販売店営業は①の商品情報提供を強化し受注増を図った。それでは令和前期は情報力をどのように使って受注増を図ればいいのだろうか?FA販売店営業にとって情報提供も情報入手も受注増のためにはなくてはならない営業力である。それでもその時代の趨勢によってはどちらかに重心がかかった営業になるものだ。
令和期に入ってFA営業の直面しているマーケットでは、人手不足でロボット需要が増えるだろう。工場の現場にもIT技術がどんどんと入ってくるだろう。エネルギーを使う工場は二酸化炭素排出で大きな影響を受けるだろう。こうした時代の趨勢は分かってはいても具体的にこれまでの流れと何が違うのかが分からなければ、営業活動はそれまでの流れとは大きく変わることはない。
実際にこれまでもFA販売店営業の顧客は生産技術力を向上させて生産力のアップや生産効率を上げてコストダウンしてきた。そのような顧客の変化に対応するために販売店営業は商材を増やし、電機的技術と知識を修めてきた。今後も顧客から出てくる案件や要件からの情勢をよく見て商材を増やし、電気的知識を深めていけば売り上げは増えていくだろうと考える販売店営業は多い。
企業は成長する過程で組織や人の仕事が分化してそれぞれが専門化していく。機械の自動制御化がはじまった昭和前期には、工場の生産を円滑にするため、製品の製造のことをよく知っている製造課が治具やアクチュエータ、簡単な専用機を設計し作成していた。生産規模や技術の高度化が進むと製造課は分化し、「製造部門」と「生産技術部門」に分かれ、それぞれが専門化した。FA販売店営業は、その生産技術と受注ルートを作ってきた。
企業は今後も一段と成長と飛躍を試みるだろう。そうなるとFA営業が取引する工場の受注ルートはいつまでも同じルートでいいのかと考えなければならない。そこで、まず工場内の変化を具体的に察知する情報力の出番である。
その際、以前に説明したような受注ルート客からの情報は「内向き情報」であり、販売員向きの情報に加工されているから販売員にとって情報の価値は低い。だから加工されていない情報入手が必要だ。
加工されていない情報を手にするには、受注ルート以外からの「外向き情報」を入手することだ。FA販売店営業に一番関係あるのは「製造部門」である。生産のことはよく知っているが、制御商品を直接買うわけではない。販売員と面識はないので、外向き情報を入手するには格好の部門である。それに、受注ルート客である生産技術部門は、製造部門の意向に影響を受ける。製造部門にはFA営業に関係する知らない情報がある。
令和前期はFA販売店営業にとって具体的に新しいマーケットの芽を見つける時期であると位置付けるなら、外向き情報を積極的に入手することが重要だ。それには製造ライン長クラスの人を紹介してもらい、会いに行かなくてはならない。その際にセールス要件ではなく、ビジネス要件として合う必要がある。セールスは「商品」が主だが、ビジネスの主は「情報」だ。さらに、相手に情報として伝わるには、相手の状況にあった脚本を作る営業力も必要になってくる。




