- コラム・論説
- 2025年4月2日
令和の販売員心得 黒川想介 (148)顧客の状況を根こそぎ知る その好奇心が情報力育てる
FA営業は、製造機械や工場設備の自動制御分野をマーケットにしてきた。したがってFA販売店営業は自動制御分野の機器や部品に精通し、 品揃えをぬかりなくやってきた。
製造業とともに急成長した制御マーケットを見ると、業界の別なく制御技術の浸透や新商品のアプリケーションの拡散の速さがあった。FA営業はそれらの浸透や拡散に大きく貢献をした。
昭和期に急速に大きくなった国内のFAマーケットは、平成期には安定して推移したが、新たなアプリケーションを作り出すような新商品は極端に少なくなっている。この現象はどんな分野でも起こるもので、マーケットの成熟によるものである。市場成長期のように、新しいアプリケーションが新しい需要を呼ぶようなFA商品は生まれにくくなっているということだ。
こういう現象が目に見えるようになってきたら、ここまで築き上げてきた制御技術、マーケットの原点に戻ってみることもアリだと思う。
制御技術マーケットの原点には「生産の合理化」がある。製造業の高度成長期には、生産を合理化するために人を省き、人件費の高騰を吸収するため、機械設備による自動化推進に拍車がかかった。それ以降、FA営業は機械設備の制御マーケットにして成長してきた。FA商品は増えているがシリーズ商品が多く、それが機械設備について新しい需要を産めばいいが、そうなっていないのが現状である。
したがって、制御マーケットの原点に戻るのであれば、機械設備の自動化だけでなく、人の作業の合理化も視野に入れる必要がある。つまり機械設備ありきでアプリケーションを探るのではなく、人の作業をサポートする効率化を考えるのだ。そこに何らかの制御する箇所があれば、FA営業にとってもとっつきやすいはずである。
今でも工場内には人が多い。工場内を見渡せば、人手に頼っている箇所は、自動機械や機器類が稼働している前後工程であることがわかる。工場に出入りしている販売員なら、人の作業は大雑把ながら分かっている。しかしその程度では省力化になるテーマにはたどり着けない。
今のFA営業が省力化のテーマに出会うには、顧客からの案件の打ち合わせを待たなければならない。なぜならFA商品は機械設備や機器の制御部を構成するコンポ、デバイス商品だからである。そのため機械設備や機器のようなハードの存在がなければ、打ち合わせに参加させてもらえないのが普通なのである。
平成期に確立した営業は、工場内には機器設備や機器類が使われていることを前提にして、それらのハードにあった最適の商品を売り込む営業だ。だから合理化するにしても、機械や機器などのハードなしに、どうすれば省力化になるかという考えをすることに慣れていない。商談の入口はあくまでもハードありきなのである。
ハードありきを前提にせず、省力化や合理化ニーズを探索するには情報力がいる。一般的に「情報力がある」と言えば、「自分の持っている情報で相手を説得する部分」と、「相手の状況を根こそぎ知って物事を有利に運ぶ部分」がある。平成期の営業は前者の情報力を熱心に磨いて売り上げを上げてきた。商談や打ち合わせの前後に潤滑剤的に雑談をするが、その中身は世間一般的な雑談であり、顧客をよく知ることになる雑談は極端に少ない。つまり、後者の情報力に関しては全く関心がないといっても過言ではない。
したがって、この行動を改め、後者のような、相手の状況を根こそぎ知って物事を有利に運べるような情報力に神経を注ぐくらいでないと、平成期の営業からの転換は困難だ。顧客を根こそぎ知るのは難しいが、意識して作業者の具体的な動きを知ろうとすることから始めなければならない。1つのことを知れば、その先に何かがあるかを知りたくなる。その好奇心が情報力を育てるのだ。



