【FAトップインタビュー】HMS Networks 組み込みからネットワークインフラまで 急成長を遂げる産業用ネットワーク専門メーカー AI時代を前に製品ポートフォリオとセキュリティ事業を強化

ハンス・ヨアヒム・ゾンマー APACバイスプレジデント
HMS Networksは、スウェーデンに本社を構え、世界をリードする産業用ネットワークの専門企業として、各産業用ネットワークプロトコルに対応したFA機器向けの組み込み製品や産業用ネットワークインフラ機器などを展開。現場の機器や機械、装置のネットワーク対応を手助けし、デジタル化やスマートファクトリー、製造業DXといった製造業の進化を支えている。
近年、産業用ネットワーク市場の需要増と重要性が高まるなか、M&Aを通じて製品ポートフォリオとカバー領域を拡大し、さらに産業用途での安心安全なAI活用に向けてサイバーセキュリティ関連の技術開発とソリューションの提案も強化。産業用ネットワークに特化した強固な土台を築いている。
そんな同社の事業展開について、ハンス・ヨアヒム・ゾンマーAPACバイスプレジデントに話を聞いた。
中期目標 売上高500億円超を前倒し達成
― ―2025年のこれまでの状況について
当社は5年ごとに会社の目標を立て、2025年は2020年に計画した目標の最終年度となります。この5年間は決して平坦な道のりではありませんでしたが、2025年の目標はすでにクリアすることができ、売上目標として掲げていた「π(パイ)ビリオン」、つまり3.14ビリオン・スウェーデンクローナ(SEK 日本円で約500億円)に対し、直近12ヶ月の売上は3.4ビリオンSEK(約540億円)に達しています。利益率も目標の20%を達成しました。
2024年に遡ると、この年はHMSの歴史の中で最も大きなイベントがあり、4月に米国のRed Lion Controls(レッドライオン社)、11月にはドイツのPEAK-System Technik(ピークシステム社)を買収しました。この2社の買収は当社の事業に非常に大きなインパクトをもたらし、当社の事業規模を1.5倍に引き上げました。
Red Lion Control社は、米国のオートメーション機器とネットワーク機器を主体とするメーカーで、この買収には2つの目的がありました。一つは「米国市場の強化」です。これまで我々の売上は欧州が6割以上を占めていましたが、この買収によって米国での売り上げが拡大し、欧州と米国の比率がそれぞれ約40%となり、よりバランスの取れた事業ポートフォリオとなりました。
もう一つは、プロセスオートメーション(PA)分野への展開です。これまで我々はFA分野を主戦場としてきましたが、PA分野にも強いRed LionControl社の製品ポートフォリオが加わることで、FA以外のマーケットへも本格的に力を入れていけるようになりました。
一方のPEAK-System Technik社は、車載ネットワークで広く使われているCAN通信機器をメインとする企業です。自動車業界、特に開発エンジニアの間では非常に有名なブランドで、我々の既存製品との親和性も高く、この領域をさらに強化していくための買収となります。
― ―続く2025年はいかがでしょう
2025年は、1月に新たな組織体制に移行し、これまでのビジネスユニット制から3つのディビジョン(事業部)制へと再編しました。
1つ目は「INT (Industrial Network Technology)」です。組み込み製品やゲートウェイ、ワイヤレス製品など、従来のHMSの中核事業を担っている「Anybus」ブランドがあり、また現在最も注力しているサイバーセキュリティ関連事業もINTに含まれます。
2つ目は「IDS (Industrial Data Solution)」です。リモートアクセスソリューションを提供する「Ewon」ブランド、旧Red Lion Control社のオートメーション機器を展開する「Red Lion」ブランド、Ethernetスイッチなどを展開する「N-Tron」ブランドが、IDSに含まれます。
3つ目は「NI(New Industry)」です。旧Peak-SystemTechnik社のCAN通信ソリューションを提供する「Peak」ブランド、ビルディングオートメーション用の通信ソリューションを提供する「Intesis」ブランドが、NIに含まれます。
この新体制により、それぞれの事業領域でより専門性を高め、お客様への価値提供を最大化していく活動ができるようになりました。

デジタル化やサイバーセキュリティなど追い風に成長
― ―この5年間は厳しい市場環境でした。産業用ネットワークのトレンドに変化はありましたか?
コロナ禍によるパンデミックとそれによる半導体供給不足や材料高騰化、ウクライナ戦争、や米中国とアメリカの問題をはじめとする経済不安など、とても難しい問題に直面した時期でした。
HMSが毎年公表している産業用ネットワークのグローバルシェア動向でも、産業用ネットワーク市場は活況と言いながら、2024年は全体のノード数としては前年に比べて10%ほど落ちました。また半導体供給不足の影響で2022年と2023年にかけて先行注文が急増し、その後の在庫調整の影響が現在も少し残っています。
ただこの間もPROFINET、EtherNet/IP、EtherCATといったEthernetベースのネットワークが成長を続け、産業用ネットワークのシェアは70%以上に達し、反面RS485ベースのフィールドバスはシェアを落として17%ほどになっています。ワイヤレス通信は7%ほどで、あまり変わっていません。5Gはまだ産業ネットワークでは限定的で、PoCが色々と行われていますが、まだ本格実装には至っていません。
産業用ネットワークシェアについては、地域によって大きく異なります。特に日本ではCC-Link IEの影響力は強く、当社でも2024年にCC-Link IE TSN対応の組み込みモジュール「Anybus CompactCom 40 CC-Link IE TSN」をリリースしました。FA機器に組み込むことで容易にCC-Link IE TSNネットワーク対応機器を実現します。

― ―難しい5年間でも御社が成長できた要因は?
効果的なM&Aが実行できたことに加え、いくつかの大きなトレンドが我々のビジネスにとって追い風となったと考えています。
1つ目は「ニアショアリング」、世界的な生産拠点の見直しの動きです。コロナによるパンデミックとその影響による部品不足を経験し、多くの企業がサプライチェーンのレジリエンス(強靭性)を高める必要性を痛感しました。その結果、生産拠点を消費地の近くに移す動きが活発化し、世界中で新しい工場の建設が進みました。労働力不足も深刻化する中で、これらの新工場ではネットワークを使用したFAシステムの導入が必須となり、我々の主力製品であるネットワーク製品の需要が大きく伸びました。
2つ目は「デジタライゼーション」、デジタル化の加速です。製造現場のデータを活用して生産効率の向上やコスト削減を実現しようという動きが、あらゆる産業で活発になっています。そのためには、OT(制御技術)の機器をITシステムに接続するニーズの高まりが加速し、その機器間や機械間でデジタルコミュニケーションを担う我々の製品が重要な役割を果たしました。
そして3つ目が、デジタライゼーションの進展と表裏一体の関係にある「サイバーセキュリティ」需要の増大です。OTとITがシームレスに接続されることで、これまで閉じた環境下にあった工場が、工場外のインターネットからのサイバー攻撃のリスクに晒されるようになりました。製造業は今やクリティカルインフラの一部と見なされ、法規制も厳しくなっています。こうした背景から、セキュリティ対策は喫緊の経営課題となっており、我々の製品に対するセキュリティソリューションへの関心も急速に高まっています。
― ―特にサイバーセキュリティは一番ホットな話題です
最近、国内外の著名な大企業がITネットワークでのサイバー攻撃の被害に遭ったというニュースは記憶に新しいと思います。今後はIT/OTネットワーク関係なく攻撃対象となり、OTネットワークでのセキュリティも、欧州のCRA(Cyber Resilience Act)の法規制化を含め、今大きなトレンドとなっています。
また産業用のAI活用も視野に入れた予知保全や自律的なオペレーション、スマートマネジメントシステムを実現するには現場の産業機器からのデータ収集が必要であり、そこにもサイバーセキュリティ対策を施さなければなりません。特に日本では稼働中の工場や既存設備へのサイバーセキュリティの導入が大きな課題となっています。
我々はそれに対するサイバーセキュリティソリューションとして、シンプルでコンパクトな産業用ファイアウォール「Anybus Defender」の販売を開始します。「Anybus Defender」は、データを監視し危険なデータを除外するファイアウォール機能と、万が一ウイルスが侵入しても被害を最小限に抑えることができるネットワークを分割するセグメンテーション機能を持ち、非常に有効なソリューションです。IIFESのHMSブースでは「Anybus Defender」の新製品も展示する予定で、産業用ネットワークの専門企業による導入しやすいサイバーセキュリティをぜひご覧いただきたいと思っています。
次世代産業用ネットワークモジュールを開発。IIFESで先行公開
― ―そのほかにIIFESでの注目して欲しい製品などありますか?
今回のIIFESでは、「N-Tron」ブランドのEthernetスイッチを新製品として紹介します。
その他に「Anybus」ブランドで、現在開発中の次世代の組み込み製品のコンセプト紹介をします。これは、2026年以降に本格展開する新世代の組み込み製品群で、ドイツのSPSや米国のROKLive、日本のIIFESで世界に向けてそのコンセプトの一端を公開します。
「シンプル」「スケーラブル」「ビルトイン・サイバーセキュリティ」をキーワードとする産業用ネットワークの組み込み製品で、これまでのI/O通信処理だけでなく、予知保全やスマートエネルギーシステムで活用されるようなAIを駆使した複雑なデータ処理まで、お客様の要求に応じて機能を拡張できるスケーラビリティを備える予定です。そして何よりモジュール自体にサイバーセキュリティ機能が実装されており、ユーザー様はこの製品を組み込むだけことで最新のセキュリティに対応した製品を開発することが可能になります。製品詳細の公開は2026年第2四半期を予定していますが、このコンセプト紹介を通じて我々が描く未来の産業用通信の姿を感じていただければと思います。

日本製造業の成功を産業用ネットワーク技術で支える
― ―2030年に向けた新たな戦略と今後について
先日、2030年に向けた新たな5カ年戦略を発表しました。売上高は7.5ビリオンSEK(約1200億円超)、現在の2倍以上を目標としました。既存事業の成長に加え、我々の戦略に合致する有望な企業があれば積極的にM&Aを検討していきます。
私たちの使命は、産業機器から得られる価値あるデータとインサイトを活用できるようにし、お客様が生産性と持続可能性を高められるよう支援することです。HMSは、産業界のあらゆる機器をつなぎ、データを活用するための基盤、いわば「バックボーン(屋台骨)」となることで、お客様のデジタライゼーション、そしてビジネスの成功に貢献していきたいと考えています。
昨今のグローバルな潮流として、サプライチェーンが中国から他のアジア諸国や自国周辺へとシフトする動きがあります。これは、どこで生産するにしても「グローバル標準」のネットワークに対応する必要性がますます高まることを意味します。我々はPROFINET、EtherNet/IP、EtherCAT、CC-Link IEといった主要な産業用ネットワークにおける世界的なリーダーであり、グローバル展開をされるお客様を製品群でサポートしていきます。
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