

安川電機は、サーボモータやインバータ、産業用ロボットといったコンポーネントメーカーとしての顔に加え、近年はi³-Mechatronics(アイキューブ メカトロニクス)のコンセプトを核としたデジタルソリューションプロバイダーとして、次世代の生産設備や工場構築を支援する取り組みを加速している。埼玉県入間市にある「安川ソリューションファクトリ」は、i³-Mechatronicsを自社で実践する先進的な工場として、実際の製造工程でデータ活用に取り組み、目覚ましい進化を遂げている。そんなソリューションファクトリの現状と2025年度のモーションコントロール事業展開について、上席執行役員 モーションコントロール事業部長 上山顕治 氏に聞きました。
i³-Mechatronicsで進化を続けるソリューションファクトリ
ーーソリューションファクトリは5年ぶりの見学でしたが、その進化に大変驚きました。当時は機器や装置同士がつながった自動化ラインのお話が中心で、今回は一転してデータ活用に焦点が当てた解説が多かったことが印象的でした。
いまは、単に自動化されたラインを見せるだけでなく、「プロセスデータ」「ステータスデータ」といった実際の生産活動から得られるデータをどのように活用し、改善につなげていくかという点を重視して紹介しています。以前は「i³-Mechatronics」のコンセプト面が中心でしたが、いまはデータを活用して具体的に何ができるのか、それを実践し、お客様と共に価値を創り出す工場として進化しています。
ーーインダストリー4.0やスマートファクトリーが製造業のトレンドになってから10年以上が経ちますが、コンセプトは理解できても、具体的な姿はなかなか見えにくい状況が続いていたように思います。
この10年、スマートファクトリーに向けて地道な積み上げをしてきて、イメージしていたものとリアルな現場の姿が合致し、ようやく形になってきたのが「今」という感覚はあります。
ただ、収集して分析したデータ活用の具体的な「使い方」は、品質を改善したいのか、チョコ停をなくしたいのか、タクトタイムを上げたいのか、お客様によって異なります。以前は「データはここまで取れます。活用はお客様側でお願いします」というスタンスでしたが、最近は「こういう課題を解決したい」というお客様の具体的なニーズに対し、データの収集から分析、活用までできるような提案を進めています。より詳しい話ができるようになり、「では、こうしたい」といった具体的なご要望やご相談が増え、実際の商談に繋がるケースが増えています。
現場データ活用で自動化から自律化へ
ーーコントロールセンタには何面ものディスプレイがあり、現場と装置の状況がリアルタイムで可視化されていました。問題箇所がすぐに特定できるというのは、まさに未来の工場の姿ですね。
実際にダッシュボードを見て、稼働状況や生産進捗を把握しながら、一方でアラームが出た箇所や出そうになっている箇所(予兆)に対して対策したり改善活動を行っています。
例えばモータピンの圧入工程では、単に押し込んでいるだけでなく、毎回位置決めを行って、その時の抵抗値を取得して、押し込みシロのデータを管理しています。設定値から外れそうになると、装置に押し込み量を調整する指令を出すといった形で予防保全的なデータの使い方も実践しています。
また、以前はステーターの耐圧不良が発生した場合には、どこに問題があるのかは分解して原因を探るしかありませんでした。巻線機1台で12個のコイルを同時に巻くわけですから、どのコイルがいつのタイミングで巻かれたものか分からず、不良の原因を探ろうにもどこから手をつけていいか分かりませんでした。しかし今は、製品と稼働データが紐づいているため、不良が発生した製品が、いつ、どの巻線機で、どのような条件(テンション、巻き上がり寸法など)で巻かれたものかが特定できるようになっています。これによりピンポイントで不良の原因を究明し、的確な改善策を打つことが可能になっています。
昔はやりたくてもできなかったことが、装置とプロセス、製品のデータを紐付けることによって実現できるようになったのです。
ーー自動化からさらに一歩進んで、自律化に近い領域に来ていると感じます。
それこそまさにi³-Mechatronics、スマートファクトリーが目指すところです。単なる自動化ではなく、いかに自律分散的に、変種変量生産に対応できるラインやシステムを構築できるか。従来のPLC(シーケンサ)制御だけでなく、より柔軟なプログラミングで対応できるシステムの提案も進めています。「段取りレス」で、生産計画の途中に異なる製品が1個だけ流れてきても、自動で認識し、適切な工程に振り分け、最終検査まで完了するような、より柔軟で高効率な生産ラインを目指しています。
受注の底を脱し、回復に転じた2024年度
ーーここからは現状のモーション事業についてうかがいます。2024年度の振り返りをお願いします
結果としては、モーションコントロール事業は前年同期比で減収減益となりました。ただし受注に関しては、第4クオーターは前年同期比で20%増と回復しました。23年度は過去の受注残を売上に繋げることで収益を確保できましたが、新規受注はその時期がボトムでした。24年度はそこからは回復基調となったものの、当初期待していたほどの戻りには至らず、結果として減収になったというのが実情です。
ーー地域や産業別の状況は?
地域別に見ると、アメリカが半導体製造装置向けを中心に好調で全体を牽引しました。日本も回復傾向にあります。中国は前年度よりは落ち着きましたが、想定よりは悪くなく、横ばいから微増。欧州は依然として厳しい状況が続いています。
産業別では、半導体関連が強いものの、それ以外の産業、例えばEV(電気自動車)関連などは、一時期の勢いは落ち着いています。ただ部品供給に関しては安定しており、受注があればしっかりと生産・供給できる体制は整っています。
先行き不透明も引き続き受注の伸びに期待
ーー2025年度(2026年3月期)の見通しはいかがでしょうか?
2024年度と同程度の受注の伸びを期待しています。引き続きアメリカの半導体関連が牽引役になり、日本も底堅い回復を期待し、中国も緩やかな増加を見込んでいます。欧州は依然不透明ですが、これ以上悪くなることはないだろうと考えています。ただし米国の関税問題(いわゆるトランプ関税)の動向は注視していく必要があります。
生産効率の向上と標準品、市場特化型製品の提案を強化
ーー具体的にはどう取り組んでいきますか
引き続き生産効率の向上と原価低減に取り組み、2024年度にリリースした欧米向けマシンコントローラー「iC9200」や、日本・中国向け「MPXシリーズ」といった新しいコントローラー製品群を核に市場開拓を進めていきます。
主力サーボモーターの「Σ-X(シグマ・テン)」シリーズも、より大容量のモデルや多軸化に対応する製品ラインナップ拡充を予定しています。ロボット事業との連携も強化し、お客様の装置全体を当社の製品でカバーできるような提案力を高めていきます。
サーボやモーターといった「足回り」だけでなく、コントローラーという「頭脳」、そしてロボットまで一貫して提供できるのが当社の強みです。特に、近年ますます大型化・多軸化する製造装置において、同期制御しながらのこの一貫性は大きなアドバンテージになると考えています。コンポーネント単体でのアプローチだけでなく、コントローラーという「頭脳」から入り、システム全体を提案する戦略を強化していきます。
また、ある市場や用途に特化した「市場最適化製品」の開発と提案にも力を入れていきます。以前は「カスタマイズ開発」と呼んで、お客様からいただいた声を反映してカスタムに近い状態で製品化し、特定のお客様だけに提供していました。それを今後はより幅広いお客様へ提案するようにしています。
標準品の拡充と、こうした市場特化型の製品開発の両輪で、お客様の多様なニーズに応えていきます。
食品や包装業界と連携して生産性向上を推進
ーーインバーターについてはいかがでしょう?
インバーターは、当社は米国のオイル&ガス業界に入り込んでいて、海外に強い製品です。国内では省エネを切り口としたインバーターの提案は、特に空調設備や、まだ当社があまり入り込めていないデータセンターなどの分野をターゲットに訴求していきたいと考えています。
ーーこれまであまり自動化が進んでいなかった領域、新規分野への展開は?
食品・包装分野は、まさに注力している領域の一つで、大手食品メーカー数社と、具体的な生産ラインの自動化やデータ活用による生産性向上といったテーマで案件が進んでいます。単純作業の自動化だけでなく、変種変量生産への対応といったニーズも高まっており、当社のモーションコントロール技術やロボット技術がお役に立てる場面は多いと考えています。食品以外でも、労働集約型で、多品種大量生産を行っているような分野には、まだまだ開拓の余地があると感じています。
増収増益に向けて全力
ーー最後に、2025年度に向けた意気込みをお願いします
この数年間、市場環境の変動に翻弄される部分もありましたが、地道に新製品開発や新規市場開拓、お客様との関係強化を進めてきました。今年度は、これらの取り組みの成果を確実に刈り取り、「増収増益」という結果に結びつけたいと強く思っています。その思いを実行に移し、年度末には良いご報告ができるよう、全社一丸となって邁進していきます。