日本の製造業再起動(96)【提言】中小製造業の『茹でガエル』『ChatGPT(チャットGPT) の驚異』

2極化」という言葉が流行語となった時代がある。勝ち組・負け組とよばれ、業界構造を表現した言葉であるが、今はそんな甘い時代ではない。2023年は、中小製造業にとって「消滅か?発展か?」を決める分水嶺(ぶんすいれい)の年である。分水嶺とは、山で降った雨が日本海に行くか、太平洋に行くかの分岐点となる場所のことを言うが、中小製造業にとって、23年は将来の行末を決める年となる。今年が分水嶺である理由は、世間では極端な人材不足が常態化しており、この対応を間違えれば、どんなに設備投資が進んだ企業においても、消滅は必至である。

人材不足の対応に、外国人労働者、技能実習生の活用を重視する中小製造業の経営者は多い。経営者に限らず、政治家や政府関係者でも外国人労働者の導入に積極的な考えをもつ人は非常多く、大企業や経団連も外国人依存を望んでいる。この背景には、メディアをはじめ共通価値観として、「現場労働者がいない」、「現場労働者が採用できない」といった現実に焦点があたっている。 もちろんこれも正しい現実ではあるが、中小製造業を襲う人手不足は現場の作業員のみならず、ホワイトカラーの人材不足が企業存続の危機的レベルに到達している。ホワイトカラーとは、社長・経理担当の奥様やプログラマーや工場長レベルのエクスパー ト(米国ではフォアマンと呼ぶ)が対象であるが、日本の中小製造業では、この点が軽視され、「人材不足=現場作業者」との一辺倒な価値観に支配されているのは悲劇である。

筆者のホームグランドである精密板金業界では、この傾向が一段と強く、後継者がいない企業が過半数を超えているという現実がある。また、奥様に代表される身内で固められた事務所作業(受発注業務や経理業務など)は、(受注増加で)混迷を極めている企業が 多く存在する。この現実を直視し、「中小製造業の輝かしい発展」を模索すると、AI(人工知能)、RPA(ソフトロボット)などの最新技術を活用した「ホワイトカラー・アシスタント」導入の重要性が見えてくる。ところが、多くの中小製造業では、30年以上前の『最新機械を買えば儲かる』というパラダイム(一般常識)に支配され、「人の希少化」に対応できない経営者が多く存在する。『茹でガエル』とは、外部環境の変化を感じることができずに、死んでしまう『カエル』のことを表現しているが、不幸なことに中小製造業の経営者の多くに『茹でガエル』の危険が忍び寄っている。

具体的に『茹でガエル危機』をはらむ経営者を紹介しよう。 過去の成功体験を前提に、「RPAやAIの活用を疑う人」・・このような経営者が重度な『茹でガエル』と診断できる。                「DXの導入決定を優柔不断で決断できず、現場作業者に(導入判断を)任せる経営者」も『茹でガエル』。消滅軌道を歩む代表例な経営者である。AIやRPAの進化は目覚ましく、3~5年後の未来になっても、AIやRPA、そしてクラウドを使用しない企業が消滅するのは当然の成り行きである。

今年のお正月早々に、人工知能の応用例を示した世界的大事件が起きた。 『ChatGPT(チャットGPT)』である。ChatGPTとは、米国のOpenAI社が開発した新たな人 工知能エンジンである。Googleなどの現状AIとは水準が違い、人工知能が知見を持った会話に応じてくれるので、驚きの話題になっている。無償で全世界に提供し、何百万ダウンロードの大反響となっている。『茹でガエル』を避けようと思う読者の皆様には、ChatGPTをダウンロードして、自らが体験し、人工知能の現実と未来社会を想像することをお薦めする。 ChatGTPの詳しい解説は、インターネットなどで多くの情報が得られるので、この紙面では省略するが、この流れを知らない経営者は『茹でガエル』必至である。 中小製造業のホワイトカラー人材不足に、外国人労働者は無力であるが、ChatGPTなどAIの先端技術がこの課題解決を実現する可能性を秘めている。

当社アルファTKGにおいても、インド・チェンナイにある開発センターにおいて、ChatGPTの人工知能エンジンを活用し、見積作業や工程設計など難易度の高い業務をアシストするシステムを開発し、商品化の準備を進めている。ベテラン技術者(エキスパート)の知見を基にした支援システムであり、驚くほどの成果が期待できると予想される。ホワイトカラーの人材不足に対応する打ち手として、AIやRPAが絶大な効力を発揮することに疑いの余地はない。 この最新技術を導入する企業が勝利を勝ち取るのは当然のことである。 分水嶺にあって、どちらの道を歩むかは経営者の『茹でガエル指数』にかかっている。

◆高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。

電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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