【日本の製造業再起動に向けて(80)】茹でガエル危機⑨テスラに乗ってわかる日本のEV茹でガエル

自動車産業のEV(電動)化の話題が沸騰している。世界各国がEV化にシフトする潮流の中で、日本の自動車メーカーのEV遅れが指摘されている。

EVの重要ポイントには、充電ステーションの充実も極めて重要であることには異論はないとは思うが、日本の充電ステーションの貧弱性はあまり話題にされない。日本での急速充電方式(DC)の充電規格は、充電口の構造も含め全てCHAdeMO(チャデモ)と呼ばれる充電規格に統一されており、高速道路のサービスエリアなどに設置されているが、この充電ステーションに大きな問題が秘められている。

トヨタ自動車の豊田章男社長は、カーボンニュートラル選択技をEVに限定せず、水素などさまざまな解決策を試みることに言及した。全面的EV化には消極的である。その理由に「EV化普及の課題は急速充電ステーションの充実にあり、トヨタのみでは実現できない」とし、「日本国家が主導し、急速充電ステーションを(ガソリンスタンド並みに)普及させるべき」と主張している。ところが米国テスラ社はEVに特化し、国家には頼らず、世界中にテスラ専用の超高速充電設備(スーパーチャージャー)を急速拡大し、大成功を収めている。

スーパーチャージャーと比較したら、チャデモは全く勝負にならない。豊田社長の希望通り、チャデモがガソリンスタンド並みに普及しても、日本製の電気自動車は普及しないだろう。

筆者は、2年前に興味津々でテスラMODEL3を購入した。毎日社用でテスラを運転し、時には500キロメートル以上の遠隔地まで走る。累計の走行距離も6万キロメートルを突破した。2年間の体験を通し肌感覚で感じるテスラの底力を披露したい。まず、結論から言うと、テスラのすごさは『エネルギーマネージメント』の一言に尽きる。前述したが、テスラ社独自の(テスラ車だけが使える)スーパーチャージャーは、日本でも毎年増え続けている。

日本中どこに行くにもテスラの充電不便はない。一カ所の充電ステーションには平均4台の充電設備が設置されており、充電も超高速30分で十分。充電ステーションの場所は、車内のカーナビで簡単検索でき、到着までに急速充電のためのバッテリー準備に入ったことをモニターが示す。充電には、会員カードもクレジットカードも不要。ケーブルを挿すだけで所有者を自動認識・課金する。テスラ所有者だけが得られるデジタル化された電気エネルギー供給時代の特権である。

一方で、日本車や一般輸入車用のチャデモは、テスラ・スーパーチャージャーと比べたら、貧弱の一言に尽きる。テスラ車でも(変換アダプターと会員カードを用意すれば)チャデモを使えるが、筆者は使う気も起きない。その理由は、まず充電スピードが極端に遅い。操作も面倒。会員カードを忘れたら使えないし、まず汚い。長く汚れた充電ケーブルを車につなぐたびに嫌になる。高速道路のサービスエリアでの設置台数も多くは一台のみ。待ち時間は苦痛以外の何者でもない。テスラ車に2年間乗ってわかるのは、車としての基本性能は驚くほど優秀であり、自動運転も先端機能も素晴らしいが、スーパーチャージャーの存在こそがテスラの魅力である。トヨタはじめ日本の自動車メーカーも今後テスラ車を超える素晴らしいEVカーを発売するだろうが、チャデモによる充電ステーションではテスラには勝てない。

ホンダはエンジンを捨てて、全てEVとする大胆な企業戦略を打ち出し、世間を驚かせている。ホンダの開発コンセプトは、長距離走行を目的に新型電池の開発に注力しているとのことであるが、筆者のテスラは400キロメートル以上走るのでこれで不便はない。EV購入の必須条件は400キロメートル以上の長距離走行ではなく『自宅充電』の有無である。筆者はテスラ購入時、自宅にテスラ専用の充電設備を(無償で)設置してもらった。数時間で充電する自宅設備のおかげで、朝には満充電。ガソリンスタンドに行く手間がなくなった。スーパーチャージャーは、時々長距離移動する際の必須設備である。繰り返しとなるが、自宅充電がなくてはEVの魅力は半減する。

ところが、テスラ車の自宅充電戦略は、一戸建てで駐車場を所有する人が限定とならざるを得ない。マンションや集合住宅、さらには屋外駐車場の利用者にEVカーを普及させるためには、これらの充電環境を一気に推し進める必要がある。当社(アルファTKG)の都内事務所やマンション、および近隣の賃貸駐車場で充電設備を有する物件は皆無である。東京都知事が将来、ガソリン車の販売を禁止する発言をしたが、「自宅充電もダメ」「チャデモ充電もダメ」と、日本の事情を真摯に捉え、この問題を解決しない限り、都内在住者がそろってEVカーを使うことは不可能である。

NHKはじめ多くの報道機関が、EVを自動車の『ものづくり革命』として取り上げているが、エネルギーマネージメントを忘れ、日本の自動車メーカーがものづくりの観点のみでEV化に突き進む姿は、欧米に感化された『出羽守(でわのかみ)』の象徴であり、茹でガエル危機と言わざるを得ない。

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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