スガツネ工業、小さな金物部品が製造現場にもたらす大きな利便性 動きの最適化で生産性を向上

近年の製造業では、生産性向上の実現に向けてDXがとてもにぎやかです。デジタルツールを活用してアナログ的な業務のやり方を変え、企業活動や風土、文化まで新しい時代に合わせて変革していこうという活動ですが、実際はデジタルツールだけではDXも生産性向上も達成はできません。

製造現場ではリアルなもの、機械や部材を動かして生産しています。そうしたものの動きを円滑かつ最小限にし、そこで生まれた小さな動きのカイゼンを積み重ねて業務効率を上げていく。デジタルを中心とした大きな業務変革と、カイゼンを主とする小さな効率化の両方が揃ってはじめて生産性が最大化でき、DXが実現します。特に、後者のものの動きの効率化は「チリも積もれば山となる」であり、やればやるほど効果が上がり、決して軽視できない部分です。

そこで今回は、産業用金物部品、機構部品メーカーのスガツネ工業に、産業機械や盤・キャビネット等の扉や蓋などものの開閉や動きを最適化・効率化する技術を通じた、現場での作業性や生産性向上とDXについて聞きました。

家具・インテリアと産業向けを両立する金物部品・機構部品メーカー

ーースガツネ工業といえば蝶番やハンドル等の金物部品を作っているイメージです

そうですね。実際には、家具や建築、インテリア金物の「アーキテリア事業部」と、FAや産業機械、自動車、鉄道など機械に使う金物部品・機構部品を取り扱う「テクノフィールド事業部」の2つに分かれます。産業向けはテクノフィールド事業部となり、製品の企画・開発は東京、千葉、京都の3か所で行っており、千葉に自社工場があります。

機械の使いやすさ、作業のしやすさに大きな影響力

ーーご存知の通りいま製造業はDXがトレンドで、ITやデジタル系の話がとても盛り上がっています。しかしながらデジタルやソフトウェアだけでDXは完成せず、ハードウェアがとても大事だと考えています。ハードウェアの王道とも言える金物部品メーカーとして、御社はどのように考えていますか?

当社が製造・販売しているのは蝶番やヒンジ、ハンドル・取手、キャスター等であってソフトウェアとかシステムとかではありません。また直動機構やアクチュエータのように機械の性能に直結するものとも異なります。そのため一見すると生産性とは無関係のように思われがちですが、実際には、現場で作業をする人が機械を動かす時にはじめに触れる部分であったり、作業の途中で頻繁に触る部分などユーザーインターフェースの肝となる箇所に採用されています。

例えば、機械の操作パネルの角度を調整する時のヒンジや分析装置の蓋では、力を入れずに軽く動かせたり、蓋がゆっくりと閉まることで現場での作業がしやすくなります。

開閉の動きのひと工夫で生産性向上に寄与 モーションデザインテック

ーー現場で機械や機器を使う人のことを最大限に考えているということですね。

そうですね。でも実際に機械や機器を設計して作るのはメーカーですから、現場で作業をする人の利便性を追求した製品づくりを通じ、「金物部品というハードウェアをうまく使ってお客様の生産性向上を目指しましょう」という提案をメーカーに対して進めています。

その代表格と言えるのが「モーションデザインテック」シリーズです。ものの開閉にさらなる動きを与える金物部品というコンセプトのもと、「どこでもとまる」「ゆっくりうごく」「かるがるひらく」「カチッととまる」「あちこちひらく」という5つのモーションの製品を提供しています。

どこでもとまる・ゆっくりうごく・かるがるひらく・カチッととまる・あちこちひらく

ーーそれぞれについて解説いただけますか

「どこでもとまる」のフリーストップヒンジは、どの角度でも止めることができるヒンジです。蓋や扉に使うと、開けたままにして材料の投入や内部のメンテナンスができ、突然閉まって指や手の挟まり事故を防ぐことができます。通常、開けた状態をとどめおくにはストッパーやステー等の部品追加が必要ですが、フリーストップヒンジなら単体ででき、機械の部品点数の削減に効果的です。

また機械の操作パネルやモニタの角度調節用アーム、さらにはセンサ取り付けにも使うと任意の角度や位置調整ができ、設置や設定の作業が効率的にできるようになります。操作パネルや表示器は、UI(ユーザーインターフェース)として画面の作りこみが重要視されますが、角度や取付位置もUIの大切な要素。フリーストップヒンジを使うことで最適な位置調整が可能になります。

「ゆっくりうごく」のダンパーヒンジ、ソフトクローズヒンジは、家具で培った技術を応用し、閉じる際、閉じ際になるとスピードが抑えられてゆっくりと閉まるヒンジです。上下の開け閉めでゆっくり閉じられるヒンジは昔からありましたが、最近、横の開閉でもソフトクローズできるヒンジを開発し、あるメーカーのワイヤ放電加工機のメンテナンス用扉で採用されました。

通常、加工機のメンテナンス用扉には開閉を検知するセンサが取り付けられていて、開いたままだと異常のアラートを発報するという仕様になっています。そのメーカーの加工機では、メンテナンス作業終了後、扉をバタンと閉めたとき、勢いが強くて跳ね返って開いてしまうことがよくありました。それを解消するためにソフトクローズヒンジが採用され、ゆっくりと確実に閉まることで、開いたままになるということはなくなったそうです。

「かるがるひらく」のパワーアシストモーションは、力を補助して軽い力で開けられるというヒンジです。力を補助するものとしてガススプリングがよく知られていますが、パワーアシストモーションはヒンジ単体で同様の動きができ、設計時間や部品点数を削減できます。

もともとは医療機器や分析装置のメーカーからの要望を受けて開発した製品で、ユーザー企業で試験や分析を担当する方から、力を入れずにカバーを開け閉めしたいという声が多かったそうです。またガススプリングだとカバーを最後まで開け切ってしまうので、メンテナンスの時は便利でも、普段はそこまで開く必要がなく、閉じる時にカバーに手が届かなくて不便、毎回背伸びをしないといけなくて操作性が悪いという意見がありました。

パワーアシストモーションはそうした声から生まれ、フリーストップヒンジと組み合わせて「力を入れずに任意の位置で開いたままにしておけるヒンジ」として提案したところ、とても高く評価されました。今では多くの機械や機器に採用され、特に上蓋やカバーなど上開きのところに使われています。

「カチッととまる」のクリックモーションは、クリック機構を使ってカチッという感触とともに一定の角度で保持したままにすることができるヒンジです。

扉をある角度まで開く(閉める)とカチッとはまる感覚があり、扉はその場所にとどまります。開けすぎ閉めすぎがなく、扉もふらつきません。医療機器や分析機器など小型の軽量扉に多く使われています。

「あちこちひらく」のユニークモーションは、複数の軸とアームを組み合わせたリンク機構により、扉が開閉する多彩な軌跡のバリエーションを持つものです。例えば、ヒンジを使った開き戸なのにスライドドアのようにクイッと横開きでき、開閉の時にスペースを取りません。製造現場はスペースが限られていて、機械のメンテナンスをする際、扉を開けたままだと通路をふさぎ、通行や作業の妨げになる場合があります。ユニークモーションを使うことでそういうケースを避けることができます。

繰り返し作業を効率化するからこそ積み上げ効果が生まれる

ーー任意の位置でカバーが止まってくれたり、扉の開閉の力加減に気を配らなくて良かったり、狭い場所で開閉できたりするのは、作業者としては便利で嬉しい機能ですね。1回の作業に対しての効果は小さくても、毎日何十回、何百回と行うものだと1年間で相当な積み上げになりそうです。

「使う人がどれだけ便利になるか」という意味では、当社らしい製品だと思います。

モーションデザインテックは作業環境に合ったものを選ぶことで利便性が増し、単体で使うだけでなく、組み合わせることでもっと幅広い用途に使え、高い効果が期待できます。使う人の作業を効率化でき、機械の付加価値を高めることにもつながります。

ーーでも、製品が多いからどれを使えばいいか、どうやって選べばいいかは難しそうですね。

おっしゃる通りで、モーションデザインテックは種類が豊富にあり、選定は大変です。そこで当社は「選定ツール さスガくん」という簡単に選定できるWEBツールを提供し、誰でも使えるようになっています。条件を入力するだけで簡単に選定でき、モーメントや操作力などもシミュレーションできます。

機械メーカーの変化 使う人に配慮したUI、デザインへの意識強まる

ーー機械は高速・高精度という基本性能の向上だけでなく、UI、実際に作業する人の使いやすさも大事です。特に人手不足が深刻化するなかでは、UI重視の傾向が一層強まっていると見ています。

機械メーカーも設計者もUIに対しての意識の高まりは感じます。自動車や半導体製造装置は早くからそのあたりを考えていて、作業効率や安全、人間工学に対する意識は高かったと思います。一方で最近、意識の高まりを感じるのが工作機械です。UIと外装デザインに力を入れていて、耐環境性と操作感、見た目の美しさにこだわったタフネス&ビューティリティーハンドルは採用が増えています。ハンドルや取っ手ひとつで見た目の印象が変わり、触り心地も良いと評価いただいています。

ハードもソフトも、アナログもデジタルも、目指すゴールは生産性向上

ーーDXはデジタル技術やデータ活用だけでなく、実際に動いて生産を行う機械そのものの性能やUI、使い勝手の向上も不可欠です。そのためには機械を構成する部品など個々の要素にも、生産性を向上させるような機能・性能が求められます。最後にまとめとしていかがですか?

DXの目的は業務効率や生産効率の向上です。当社の金物部品も、使う人の利便性を高め、使いやすくするということで目指すところはDXと同じ。アプローチが違うだけだと思っています。

大事なのは、ハードウェアとソフトウェア、デジタルとアナログがお互いの相乗効果によって使う人にメリットをもたらすことだと考えます。

今回紹介したモーションデザインテック以外にも、当社には食品業界向けに洗いやすさ、水切れの良さ、菌の繁殖を防ぐ構造を備えた「ハイジェニックシリーズ」や、重いものを軽く運ぶことができ、大手自動車メーカーの金型運搬台車にも採用された「Darcorキャスター」、締結・固定具で、アルミフレームの組み立てを簡単に行える「ジョイントシステムPJ型」、ねじやナット、溶接不要で取り付けできるDIRAK製品など、効率化に役立つ製品を多数取り揃えています。ぜひこれらを活用し、生産性向上につなげてもらえればと思っています。

テクノフィールド事業部 販売部 販売助成課 課長
髙内利明 氏

スガツネ工業株式会社 産業機器用機構部品

https://search.sugatsune.co.jp/product/tech/c/c10/

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