「強い生産現場」のための顧客情報の活用 第1回:なぜ営業と製造現場の意思疎通が上手くいかないのか

あらゆる業種で顧客との接点となる営業部門は、企業にとって欠かせない存在であり、製造業においてもそれは例外ではありません。しかし、多くの企業において、顧客に近い立場の営業部門は、物理的にも心理的にも製造現場からは距離があります。そのことが情報共有や意思疎通を難しくし、製造現場にさらなる負担を強いるだけではなく、企業の競争力と価値にも影響を与えます。逆を言えば、営業と製造現場がもっと連携を深めることで生産性は上がり、明るい未来が開けてきます。
そこで、本連載では、製造現場と営業がうまく協働できない原因を分析しながら、その解決策に繋がるヒントを探っていきます。(著:株式会社NTTデータ グローバルソリューションズ)

製造業のなかでよくある対立構造

製造現場と営業、ともにゴールは共通

この記事を読んでいる製造現場の皆さんは、営業部門と円滑にコミュニケーションができていますか?営業部門の皆さんは、製造現場との意思疎通はとれていますか?胸を張って「イエス」と言える方は決して多くないのではないかと思います。

「営業が無理な注文を取ってきた」「製造現場が動いてくれない」これは「製造業あるある」で、営業部門と製造現場がボタンのかけ違いから対立構造になってしまうケースは珍しくありません。

では、なぜこのようなことが頻繁に起こるのでしょうか?営業は、製造現場より、顧客に近いと自負しており、その代弁者である自分たちの意見こそ通るべきだと考えがちです。一方で製造現場も、顧客のためによい製品を作りたいと日々努力しており、そもそも製品がなければ営業も成り立たず、自分たちこそが会社を支えていると思いがちです。お互いに顧客に価値のある製品を届けたいというゴールは共通であり、両方とも大切な仕事のはずなのに、コミュニケーション不足によって対立構造に陥るケースが非常に多く発生しています。

製造業は国際的な競争にさらされ、変革が求められるなかで、企業の中で対立している余裕はありません。今のこのような不確実な時代だからこそ、改めて製造現場と営業部門が一致団結して顧客と市場に立ち向かうというビジネスの原点に立ち返ることが必要なのではないでしょうか。

相手の立場を知らない、知ろうとしないことから生まれる悪循環

とはいっても、一度対立関係が生じてしまうと、そう簡単に関係を改善するのは難しいというのが本音でしょう。
例えば製造現場は、いつも短納期での受注や仕様変更などの要求に振り回され、疲弊するばかり。どれだけがんばっても顧客から感謝されるのは営業で、製造現場に届くのはクレームばかりという話もよく聞きます。

しかし営業の立場から見ると、製造現場に生産の進捗や納期を確認しても、タイムリーに精度の高い回答は得られず、その都度個別に確認しながら調整しなければならなかったりします。これでは、なかなか良好な関係を築くのは難しいでしょう。

程度の差はあれ、こうしたケースが多くの企業で起きてきるということは、これは偶然ではなく、構造的な欠陥による必然の可能性がありそうです。例えば、その原因と考えられるのが、不明確な業務規程・ルール、役割分担や、営業部門と製造部門で個別に構築されたシステム。曖昧なルールと、業務と情報が分断されているという構造は、営業部門と製造部門のコミュニケーションを取りにくくし、加えてその状況を当事者たちが自力で解決することを難しくしています。それを解消するには、双方の共通基盤をつくって認識を合わせ、共通言語で話せるようにする。こうした仕組み作りが有効です。

ひとつ実際にある企業の製造現場であったエピソードを紹介します。

製造現場は工場からモノを出庫したらその仕事は完了です。しかし営業部門では、顧客納期やロット数量に満たなかったり、返品などにより最終的に販売できずに積み上げられて会計上は不良在庫として損失計上されるケースが発生し、その都度対応をしてきました。営業部門としては調整やクレーム処理など定常業務以外の対応に追われるため、その改善を求めていました。

定期的な製販会議等で話題に上がったりもしましたが、結局繰り返されるのは譲らないお互いの主張と不満、そして「お客様の要求」という営業の言い分です。結果、議論は平行線をたどり、生産現場は常に営業から納期や仕様の無理強いの犠牲になっているという被害者意識を強め、営業はなぜ顧客の要求にこたえられないのだという不満を抱えて終了。経営陣もこれらのロスを気にはするものの、廃棄理由を特定しきれず損失計上の責任の所在が曖昧なまま処理を続け、最終的には何も変わらず、営業部門と製造現場の対立だけが深まったという笑えないお話です。

既にシステム導入済みの大企業でも、使いこなしている企業は少なく、状況は変わらない。

これらの問題を抱えている企業は、システム化が遅れていたり、属人的なプロセスに頼っている小規模な製造業に限った話ではありません。売上数百億円から一千億円を超えるような一定以上の規模で、かつグローバル展開しているような企業でも状況は同じなのです。

中堅以上の企業では、もちろんシステム導入はそれなりに行われていますが、実際にデータが蓄積されているのは、営業部門と製造部門それぞれのシステムであったり、営業担当者個人のExcelシートであることも珍しくありません。さらに生産現場も最後はExcelで管理しているというケースもよく見かけます。極端な例では、生産現場への作業指示や出荷は手書きの指示などということもあります。

結局、それぞれの担当者が手元のExcelで個別に管理し、都合のよい結果だけがシステム上で共有され、そんな不正確で不安定な仕組みの上でコミュニケーションをせざるを得ない状態になっているのです。

ストレスだけではない影響

これらの対立構造がもたらす影響は、製造現場と営業が感じるストレスだけに留まりません。結果として、無理な納期に対応するための度重なる残業や休日出勤、そして品質の低下や納期の超過など、その影響は顧客に及び、自社の価値を大きく下げる結果になるのです。

生産現場と営業それぞれのKPI

もうひとつ、このような対立構造を生み出す原因の一つとなっているのが「KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)」です。

営業、生産、調達など、部門ごとに数値的な目標としてKPIが設定されます。それぞれの部門を独立した組織として見立て、それぞれの部門がKPIを達成すれば企業全体の利益も最大化されるはずであるという考え方に基づいています。各部門の評価はこのKPIがベースとなるため、それぞれがそれを最大化しようとし、ピースががっちりとはまると大きな成果が期待できます。しかし、現実には「合成の誤謬」と呼ばれるような、個別最適の総和が全体最適にならないというケースも発生してしまうのです。

生産部門が(材料や部品を仕入れ)、完成品を営業に売るという奇妙な現実

例えばこんなケースがあります。

各部門の最適化のため、生産部門も営業部門も独立組織としてP/L (損益計算書)を作成し、その利益を最大化していくようにという方針を立てた企業がありました。生産部門は調達部門から材料を買い、完成品を営業に売る。営業も独立したP/Lを作成して生産部門から完成品を仕入れ、顧客に販売するという考え方で取り組みました。

結果、何が起きたかというと、当然のことながら生産部門は営業部門に少しでも高く販売しようとし、営業部門は顧客にさらに利益を乗せて販売しようとしました。生産部門と営業部門の過剰な利益が乗せられた製品は、当然市場での競争力を失いました。それでも営業は会社としての利益が十分確保されていることを知っているので「例外的に」値引きして販売することが横行し、やがてこの「例外」が日常となり、この企業は適正な利益も競争力も失うことになりました。

企業の利益の最大化を狙った組織ごとのKPI設定は、時として顧客満足よりも自部門の評価を優先する風潮を組織のなかに作りかねません。それによって部門間の利益相反を起こし、結果として対立構造を生み、企業全体の競争力を奪っていくのです。それほどの劇薬であるという認識を持っておくことが大切です。

実は、誰も本当の数字を見ていない。それぞれ個別のデータ管理は、組織全体の不合理を生み出してしまう..

このような状況を打破するために一番大事なのは「コミュニケーション」です。

それではここで言うコミュニケーションとはなにでしょうか。それは「業務の流れに応じた鮮度の高い情報」です。
製造現場から見ると、営業のプロセスや顧客とのやり取りが見えず、営業からの依頼は突然結果としての要求が降ってくるように感じます。多くの企業では、営業はExcelで案件管理をしていたり、システム化されていたとしても営業部門の中で運用されていることがほとんどだからです。

逆に、製造現場は厳密な計画に則って生産を行っていますが、生産管理システムなども営業部門に公開されているケースは少なく、「なぜ自分たちの要望にすぐに対応できないか」が分かりにくい状況になっています。

さらに、複数のシステムで管理していると、それぞれにデータの鮮度や粒度なども異なり、同じことを別のデータを見ながら議論するという笑いごとでは済まされない事態も起こります。これでは、いくら対面で議論しても、本来のコミュニケーションは成り立ちません。

健全なコミュニケーションには健全なデータが必要なのです。その結果、製造現場は正確な原価を把握できず、また営業も会社としての利益が見えないまま販売しているというのが日本国内の製造業における実態です。

これらの問題解決のため、顧客情報を正しく共有することから始めよう

以上のように、多くの企業で存在する生産現場と営業の間の課題は、仕組みの問題であり、それを解決するためには、共通のデータを使ったコミュニケーションが不可欠です。そのデータの中でも、企業活動の源泉となるのは顧客情報です。もしかすると、営業部門は、顧客情報は自分たちのものであると思い込んでいるかもしれません。しかし、それでは製造現場と営業が抱えている対立関係は解決しないばかりか、企業の競争力と価値をじわじわと下げていってしまいます。あらゆる顧客情報は、すべての部門につながる価値の源泉であり、事業の起点となる情報なのです。だからこそ営業部門、製造現場の垣根を超えて共有し、活用していくことが重要なのです。

次回は、生産現場に対してもリアルタイムな顧客情報が共有されると、どのような変化をもたらすのかを考え、それを実現するためのプラットフォームCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)について説明します。

<NTTデータ グローバルソリューションズについて>
株式会社NTTデータ グローバルソリューションズは、日系企業のグローバル展開に伴うシステムのグローバル化需要の拡大に対応するため、2012年7月に設立されました。NTTデータグループの「SAP Global One Team」の一員として、NTTデータの国内におけるグループ会社に分散していたSAPソリューション、業務ノウハウの一体化を図り、SAP ERPシステムの導入から保守運用、拡張開発支援など、多岐にわたるサービスをワンストップで提供し、NTTデータグループにおけるSAP事業の中核会社として、企業の戦略的な事業経営をサポートしています。

https://www.nttdata-gsl.co.jp/

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