製造現場おいてローカル5Gに対する期待が高まっているが、多くの企業が実運用に至っていない(民主化されていない)のが実情であると認識している。技術として成熟化していない、ローカル5Gシステムが高額である、ROI達成可能なキラーアプリケーションが不在である等多様な課題が存在しているためである。

本稿では、“システムが高額である”に着目してどのような解決の方向性があるか整理してみたい。

現状では主に3つのアプローチが議論・登場していると認識している。

1つ目は仮想化技術を用いることで、専用のハードウェアを使わずに安価な汎用サーバーを活用することで、基地局システムの低価格化を目指すアプローチである。楽天は4Gでの導入ではあるが、完全仮想化されたアーキテクチャを採用し、複数機器ベンダーの組み合わせによる実装を実現している。運用においてトラブルはありつつも、仮想化された無線ネットワークが商用レベルで動作可能なこと、無線ネットワーク仮想化によるコスト削減が「絵に描いた餅」ではないことを2020年4月のモバイルサービス開始で証明している。また、設備投資は従来の40%、運用コストは30%削減できている。(出所:Open RANの正体 第3回 Open RAN飛躍の条件、悩ましい既存網との連携,日経クロステック, 2020/7/1: https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01349/00003/

2つ目はコアネットワークをクラウドで提供することで、コスト抑制を図るアプローチである。ユーザー企業が高額なシステムを購入する必要性がなくなるため、コスト削減に対する期待は大きい。NECではコアネットワークを月額課金モデルで提供するサービスを計画中で、詳細は未定であるものの、加入者単位で月額数百円といった課金体系も検討している。(出所:ローカル5Gの普及阻む4つの壁(中編) クラウドコアとSAの現状と課題, businessnetwork,2020/9/7: https://businessnetwork.jp/Detail/tabid/65/artid/7563/Default.aspx

3つ目はローカル5Gのターンキーサービスである。つまり、ローカル5Gの導入・運用をネットワークインテグレーターがユーザー企業に変わり対応してくれるものである。高い導入・運用難易度に対する解決アプローチとしての位置づけが主ではあるが、専門的な知識を持つ人材等をユーザー企業が自ら保有する必要がないという観点で、コスト削減に対する寄与度も高いと考える。豊富に人材が居る又は人材を採用・育成できる資金的・時間的余力を持つ企業であれば、コスト削減の観点で本アプローチの貢献度は低い想定される。しかし、製造業・製造現場の多くはその様な企業ではないため、ローカル5Gの民主化に向けては重要なアプローチであると考える。

ターンキーサービス自体のコストダウンも追及していくことが重要である。運用において可能な限り自動化し、人手を減らすというアプローチがその一つになると考える。ネットワークインテグレーターによっては、既にAIによるローカル5Gネットワークの運用最適化機能の展開も始めている。AIで最適化できることが更に拡大・高度化していけば、よりコスト削減が加速し、多様な企業がローカル5Gを導入できる環境が整備されると思料する。

AIによる最適化についてはコスト削減以上の期待もかけたい。

製造現場に多様なアプリケーションがあり、求められるネットワーク要件も様々だと思料する。例えば、産業ロボットの制御等においては低遅延であることが重視される一方で、高解像度な画像検査データを収集・分析可能にするためには大容量のデータ伝送を可能にするネットワークが求められる。この様な異なる要件を持つアプリケーションに対して、画一的なネットワークを提供するのではなく、アプリケーション毎に最適化されたネットワークを柔軟かつ迅速に提供することで、製造現場のQCD強化・改善がより効率的・効果的に図られるものと思料する。人手での最適化では柔軟性・スピード・コストという観点で限界があるため、この領域でもAIによる自動化に期待したい。

同一ネットワーク内でアプリケーション毎にネットワークを自動最適化する技術は現時点では実現できていないと認識しているが、日本においては官民連携で当該技術の研究に取り組み始めており、実現・実用化に向けて期待が持てる。

※出所:総務省 「革新的AIネットワーク統合基盤技術の研究開発

https://www.soumu.go.jp/main_content/000538847.pdf

ここまでローカル5G普及に向けたコスト削減アプローチとその可能性について言及させて頂いた。しかし、ローカル5Gには普及課題とは別次元の論点もあると思料する。つまり製造現場の高度化を図るためのネットワークとして、“ローカル5Gが最適解となるか”である。既に敷設されている高速な有線ネットワークもあり、高速且つマルチアクセスが可能なWiFi6もあり、ローカル5Gが本当に必要とされる・ローカル5Gではないと高度化できないケースを整理し、最適解を冷静に見極めることがユーザー企業において求められている。次回はこの点についてどの様な議論がなされているのか整理し、考察をさせていただく。

◆デロイトトーマツコンサルティング合同会社 シニアマネジャー 高橋成禎
エレクトロニクス業界を中心にAI・IoT等のテクノロジー領域での事業戦略・市場参入戦略等のコンサルティングサービスに従事する。近年はデジタル× Automotive/Industrialをテーマにエレクトロニクス業界の車載・産業向け事業戦略策定支援を行う。

https://www2.deloitte.com/jp/ja.html

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