IPGフォトニクスジャパン、加工用レーザーの最新トレンド解説(中)

2019年6月5日

「ファイバーレーザー」小型装置で高出力
CO2・YAGとの決定的な差

レーザー技術は、既存の機械的な加工ではできなかった超精密加工や加工時間の短縮を実現し、加工技術に大きな変革をもたらした。いま、その加工用レーザーもCO2レーザー、YAGレーザーを超える「ファイバーレーザー」が世界を席巻し、新たな価値を生み出している。

ファイバーレーザーの世界トップメーカー・IPGフォトニクスジャパン(横浜市港北区)の菊地淳史取締役に、レーザー業界の最新トレンドを解説してもらった。2回目となる今回は、ファイバーレーザーとCO2レーザー、YAGレーザーとの比較を中心に紹介する。

超コンパクトモデル ファイバーレーザー「YLS-Uシリーズ」

IPGフォトニクスジャパン取締役 菊地淳史氏

 

CO2とYAG 日本では主流に

ファイバーレーザーが登場する前、工業用レーザーとして主流だったのがCO2レーザーとYAGレーザーだ。

CO2レーザーは、CO2、窒素、ヘリウムの混合ガスを媒体とした気体レーザー。媒体中に配置された電極間の放電によりレーザー発振させる。はじめ医療用レーザーとして採用され、工業用レーザーとしても1980年代には広く普及していた。

特に切断機との相性がよく、レーザー切断機といえばCO2レーザー以外の選択肢は無いほど普及が進んだ。レーザー波長は10.6μmの赤外光レーザーで、高出力で集光性がよく、エネルギー効率も高い。その一方で、ビーム伝送がミラーのみとなり、使い勝手の面で難しい点がある。

YAGレーザーはイットリウム・アルミニウム・ガーネットの複合元素を結晶化したものを媒体とする固体レーザー。鉛筆ほどの大きさのロッド形状の媒体に対してクリプトンランプやレーザーダイオード(LD)などの強力な光源で励起してレーザー発振させる。

波長は1.06μmの近赤外光で、CO2レーザーと比べて波長が短いため材料のエネルギー吸収率が高いのが特長。複数個の媒体を直列に接続することで高出力化でき、90年代に主に溶接用として広く普及した。光ファイバーを使って伝送でき、柔軟に取り回しができるため、多関節ロボットなどへの搭載や、専用加工機などに組み込まれ、普及していった。

 

加工用レーザーとして世界標準

ファイバーレーザーは、YAGレーザーと同じ固体レーザーに分類され、波長もYAGレーザーに近い1.07μm。しかし媒体がロッド形状ではなく、細長いファイバー形状をしているので、ファイバーレーザーと呼ばれている。YAGレーザーやCO2レーザーは“媒体”をレーザーの名称で呼んでいたが、ファイバーレーザーは、“媒体の形状”で呼ばれるようになった。LD光をファイバー形状の媒体に導光し、直接励起することで品質の良いレーザー光を作ることができる。

2000年代初頭に商品化されてから急速に普及。2018年の世界のレーザー加工市場26億ドルのうちファイバーレーザーが50%を占めている。世界の大手レーザー加工機メーカーが製品を投入し、金属加工におけるレーザーのスタンダードになりつつある。


 

小型で高効率

CO2レーザーやYAGレーザーに比べてファイバーレーザーの一番のメリットは、高出力レーザーを小型かつ高効率で発生できることだ。

低出力のレーザー光を並列に結合することで高出力化が可能。低出力から高出力まで自在にレーザー出力を調整できるのが特長だ。またCO2レーザー、YAGレーザーは、チラーなど大型の冷却装置が必須だが、ファイバーレーザーは電気-光の変換効率が高いので、チラーが小型化でき、低出力のレーザーにおいては、チラー不要の完全空冷タイプも実現している。

例えば4kWの装置の場合、YAGレーザーは3×2m程度のスペースが必要だったが、ファイバーレーザーの場合、1×0.5m程度のスペースで済む。作業スペースにそれほど余裕がない日本の工場にとって小型で高出力は大きなメリットとなる。

菊地氏も初めてファイバーレーザーを見た時、その装置の小ささに衝撃を受けたという。「2003年のドイツの展示会で、初めてファイバーレーザー装置を見た。当時YAGレーザーは、サイズがとても大きく、大型チラーも必要であり、1kWともなれば設置スペースの検討を余儀なくされたが、会場にあったファイバーレーザーは、1kWでありながら小型冷蔵庫ほどのサイズで、さらに空冷方式のためチラーが不要というものであった。また、10kWという高出力のレーザーも展示されていたが、フットプリントが1×2m程度で実現しており、2年後の展示会には、同じ大きさで20kWの装置を展示していて、今後大きく伸びる可能性を感じた」という。

 

エネルギー効率50%超の製品も

近年、工場のCO2排出削減などの省エネが強く叫ばれ、エネルギー消費量は製品を選ぶ際の重要な要素となる。

菊地氏によると、特にYAGレーザーは効率の悪いものの最たる例だと指摘する。

「100の電力を投入し、YAGレーザーで使えるのはその2%程度、CO2レーザーでも10%程度しかない。それに対しIPGフォトニクスのファイバーレーザーは40%超と、省エネ性ではYAGレーザーの数十倍。さらに技術の進化によって年々改良が進み、エネルギー効率が50%を超えている製品もある。この場合の消費電力は、YAGレーザー比で25分の1になる」という。

 

生産止めない信頼性も高く

これまでのレーザー加工機は、精密機械の顔も持ち、トラブルが多く、対応に手間がかかりがちだ。CO2レーザーは光学系が複雑で、日常的にガスが消費され、電極やミラーの定期メンテナンスは必須。YAGレーザーもトラブルで止まることが多い。それに対しファイバーレーザーは、機構自体がシンプルで信頼性が高く、稼働率の良さが高く評価されている。

ある自動車部品メーカーでは、テーラードブランク溶接用に、YAGレーザーを使っていたがトラブルの多さに悩まされ、2005年に初めてファイバーレーザー装置を導入。これにより、突発的に生産ラインが止まることがなくなり、計画的にメンテナンスができるようになった。

ある町工場では、接合技術をなりわいとしており、さまざまな接合装置を導入している。90年代後半に2kWのYAGレーザーを導入したのをきっかけに、レーザー接合にも取り組み、06年にはファイバーレーザー10kWを導入。レーザー接合の特長を図面に反映させるなど、他ではまねできないような接合方法で差別化をはかっている。厚板接合のニーズに応えるべく、レーザー発振器を定期的に更新しており、現在ではコア径300μmの伝送ファイバーが使えるレーザーとしては国内最大出力の50kWファイバーレーザーを接合ツールの一つとして使いこなしている。

 

DDLレーザーより使いやすい

YAGレーザーの次はダイレクトダイオードレーザー(DDL)と言われたこともある。DDLは、媒体を介さずに直接LD光を加工に利用するというレーザーである。エネルギー効率は高いものの、集光性が悪いため、主に表面処理などの熱源に使用される。最近では高輝度タイプのDDLも製品化しているメーカーもあるが、高輝度を得るために、LDの波長合成技術や、偏光合成技術などを用いる必要がありビーム品質や効率が落ちる。そのため、高輝度を維持しながらの高出力化には限界がある。ファイバーレーザーは輝度を維持しながらの高出力化、高効率化が容易に行えるため、柔軟性が高く、使い勝手がとても良いとされる。

IPGフォトニクスは、ファイバーレーザー世界トップメーカーの一つで、『ファイバーレーザーを工具のように普及させる』ことを社是としている。これまで世界500社以上の顧客に対し、2万1000台以上の高出力レーザー製品を提供してきた実績がある。

菊地氏は「日本市場は、徐々にファイバーレーザーが浸透してきているが、世界市場に比べると遅れている。例えば、国内の切断機市場においては、CO2レーザー切断機の歴史が長かったため、メンテナンスやサポート体制が充実していて、ファイバーレーザー切断機への切り替えには保守的な考えが根強く残っている。一方海外では、CO2レーザーよりもファイバーレーザーの方が高効率で切断速度も速いため、合理的な考え方により、ファイバーレーザー切断機の普及が一気に進んだ。ファイバーレーザーへの関心は年々高まってきており、さまざまなアプリケーションに対して提案を進め、日本でももっと普及に取り組んでいきたい」としている。

 

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