【提言】中国『一帯一路』の運命は? 「最先端技術分野で活路を求める中国」〜日本の製造業再起動に向けて(50)

2019年4月24日

皆さんは『中国』にどんなイメージをお持ちだろうか?

反日や中国人観光客の振る舞いに嫌悪感を抱く人も多いし、米中経済戦争の行き先や、中国経済の衰退に頭を悩ましている人もたくさんいらっしゃるだろう。

私は今、6年ぶりに訪れた北京でこの原稿を書いている。思い起こせば、私が初めて北京を訪れたのは40年近くも前の事である。その当時、北京の市民は「人民服」と呼ばれる国家の制服着用が強制されており、われわれ外国人は外貨兌換券(だかんけん)という外貨から交換できる紙幣を使用し、外国人のみが入れるホテルやレストランを使い、現地人とは完全遮断された出張生活を送っていた。ビジネス交渉は限られた場所で、公安による監視体制が敷かれていた時代であり、私の周りには常に公安の目が光り、日本への電話も盗聴されていた事を鮮明に覚えている。

 

時は過ぎ、都市の風景は様変わりし、人々の服装も生活も大きく変わった。表向きは当時の面影は全くなくなったが、この国にいると、共産党一党独裁の政治体制も、中国人のモラル遺伝子も当時と全く変わっていないことを時々思い知らされる。

今回の私の北京訪問は、北京で開催されるCIMT(中国・国際工作機械見本市)を訪問し、工作機械業界の動向調査も目的の一つである。空港近くにある近代的な総合施設で開催される国際見本市CIMTは、壮大であり立派である。しかし、一見華やかに見える中国には、われわれ日本人には到底理解不能な矛盾が潜んでいるのも事実である。

日本では数年前より、中国の経済破綻を予測する声が数多く語られ、報道されてきた。事実、昨年度から中国経済は大幅な下降局面を迎えているが、予測されたほどの「中国経済破綻」は発生していない。また、不思議なことに今回北京で出会った中国人経営者の多くは依然として楽観思想を持ち、将来への危機感も気薄である。しかし、現実を直視すれば、やはり中国に重大な「経済危機」が潜んでいる事に疑いの余地はない。

 

今回は、国際的に注目度の高い「一帯一路」政策を取り上げ、経済危機との関連を分析していきたい。習近平が強烈に推し進める一帯一路は、「経済的に遅れた国を支援する」と中国政府は美言を発信しているが、本音では生産過剰に陥った中国製造業の起死回生を目的に、力ずくで周辺国家への市場拡大を狙う中国の「強国戦略」の戦略が潜んでいる。

最近になって、この力ずくの戦略が、各国の強い不満となり、強い批判を浴びている。かつては一帯一路を支持した国々でも、最近になって、各国を借金漬けにする中国の強引な手法が明らかになり、カザフタンなど親中諸国でも中国からの離反が相次いでおり、一帯一路は「すでに国際的には四面楚歌の状態にある」と言っても過言ではない。

しかし、当の中国政府の発表では、依然として国際貢献の象徴としての成功報道が続いている。これらの報道は、明らかに中国政府の「プロパガンダ」であり、事実がねじ曲げられた報道であるが、国民の大半はこの報道を信じ切っている。驚くことに、あらゆる国際的な報道を知り尽くしたグローバルな中国人経営者ですら、一帯一路の成功を信じている。

 

一帯一路の行き着く先はどこなのか?

一帯一路が挫折し、習近平の指導力が急落し、中国経済崩壊が表面化したら、日本経済にも重大な影響が起きることは避けられない。もし一帯一路が、中国の思惑通り成功裏に完成したら、中国はアジア覇権を握り、その影響力は増大し、日本の政治的な立場は非常に不安定な状況になるだろう。中国の一帯一路は、成功しても失敗しても、日本にとっては頭痛の種である。

中国政府は、一帯一路への国際社会からの逆風を認識しており、これを成功させるために、本気で「最先端分野で活路を求める決断」をし、あらゆる可能性を模索・実行に移していると思われる。顕著な動きが、5G、AI、自動運転などの最先端分野で、民間企業の早期育成を目的に、研究所・大学などから有能な人材を投入し、大規模なスタートアップ企業支援に乗り出している。

この流れは、最先端分野での高度な研究開発力を持つ「民間経済主導」を生み出そうとする転換であり、民活による「イノベーション強化」が実現すれば、現在の国際社会の懸念が緩和され、成功への大きな要因となる。中国では今「最先端分野で活路を求める決断」が本格的に始動し始めたのである。

 

私もCIMTの視察を終えて、多くの気付きがあった。板金加工用のレーザーマシンを例にすると、中国では膨大な数のメーカーが「低価格マシン」でしのぎを削っている。日本の大手板金機械メーカーは、従来仕様の従来マシンを高価格で販売している。

このメーカーのレーザーマシンは、日本ではブランドがあり、売れてはいるものの、中国ではさっぱり売れない。中国でのシェアは低く、存在感もない。中国製レーザーメーカーからは、大出力パワーの先端技術を搭載した「馬力のある機械」が出展され話題をさらっているが、日本メーカーには話題がない。

CIMTでじっくりと日本や中国のブースを眺めていると、中国の経済危機よりも、日本に迫りくる危機を強く感じてしまう。日本製の機械は『精密だが、時代に遅れた機械』とのレッテルが貼られてしまう…。そんな気付きをCIMTが教えてくれた中国・北京への出張であった。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。