いま製造現場にUPSが必要なワケ。シュナイダーエレクトリック「止まらない工場」の実現へ

シュナイダーエレクトリック株式会社
IT Business 事業開発本部プロダクトマネージャー
今野 良昭氏に聞く

電力停止、データ破壊から工場を守る

デジタル社会の情報インフラを支えるデータセンター。どんな災害に見舞われても電力を供給してサーバーを動かし、止まることがない。真にダウンタイムゼロを実現している施設で、その仕組みや設備は工場や製造現場も見習いたいもの。

そんなデータセンターにあって製造現場にないもの。その筆頭格が「UPS(無停電電源装置)」だ。

UPSは停電の際のバックアップ電源として機器やデータを保護する役目を果たす。しかしながら工場や製造現場では、これだけIoTやデータ活用が叫ばれているにも関わらずUPSが浸透しておらず、データを保護するための仕組みも整っていない。

製造業のデジタル化、スマートファクトリー実現のためには安全で安定したデータ流通環境の構築が大前提であり、製造現場におけるUPSの重要性が高まるばかりだ。

 

重要インフラでは普及率100%のUPS。製造現場では?

UPSは、停電した際、電源を切り換えて一時的に電力を供給する装置。

①電力復旧までのつなぎの電力、②機器の突然のダウンによるデータ破壊や損失を防ぐという2つの役割があり、防災や事業継続計画(BCP)のため、発電所や官公庁、病院、データセンター、通信・交通インフラなど重要施設ではほぼ100%完備。工場や商業施設、大規模ビルなどでも多く設置されている。

しかしこれは施設や建物向けの数十~100kVAかそれ以上の中大容量UPSに限った話。数kVA以下で機器とつないで使う小型UPSになると、取り付けられているのはサーバーやコンピュータなどIT機器や医療機器などごく一部の業界と電子機器のみ。

特に製造現場や産業機器への設置率は低く、シュナイダーエレクトリック IT Business 事業開発本部プロダクトマネージャー今野良昭氏によると「正確な統計がある訳ではありませんが、製造現場におけるUPSの普及率は20%もありません」とし、製造現場でのUPS利用はまだ一般的ではないという。

 

なぜ今、製造現場にUPSが必要なのか?

これまでもUPSは工場の非常用電源として大容量タイプが導入されてきた。しかし近年の工場の自動化やデジタル化によって、製造現場にはPLCや産業用PC、HMI、NC装置など装置や生産ラインのコントロールを担う制御機器がたくさん使われるようになっている。

さらにIoTによって、エッジコンピュータなどデータを扱うための機器も急速に増えている。これらは産業用と言っても繊細な電子機器であり、安定稼働させるためには電源をキチンと確保して電力を供給し保護する必要がある。

また生産性を上げるためには製造現場でのデータ活用が重要であり、そのためには現場内でデータを安全かつ円滑に流通させることが大切だ。これを妨げるものとしてサイバー攻撃がよく話題になるが、障害は何もこれだけに限らない。停電や落雷といった外的要因も、円滑なデータ流通の大きな壁になるのだ。停電や落雷があると制御機器は異常終了し、内部のハードディスク等に負荷をかけ、それがデータ破損を引き起こす。

 

例えば、国内の年間落雷件数は300万回を超え、2017年度は360万件を記録した。近年はゲリラ豪雨によって夏場の落雷件数が増加し、瞬停や停電、サージ電流による被害が年々拡大している。

また電力広域的運営推進機関の調査によると、発電所や送電線、受配電設備の破損や故障による停電(供給支障)は、2015年には1万2418件もあった。落雷等で一時的に停電したものを除いてだけでもこれだけ発生しており、国内の製造現場は常に停電リスクにさらされていると言っても過言ではない。

このため、サイバーセキュリティとはまた違った観点から、現場にある製造装置と制御機器の安定稼働とデータ保護を実現するツールとしてUPSの重要性が高まっている。

 

日本の現場の声から製品化 シュナイダーの工場向けUPS

こうした背景のもと、シュナイダーエレクトリックは、工場向けに特化したUPSとして「APC SecureUPS Online」を開発。日本のユーザーからの要望に応えて製品化したもので、世界に先駆けて日本で発売販売を開始した。

同製品は、データセンターやサーバー向けに実績のあった小型UPSを製造現場で使うための産業スペックに合わせて開発。

例えば耐環境性能では、小型UPSとしては業界で初めて汚染度(Pollution Degree)3に適合。クリーンルームが汚染度1、一般的なオフィスが汚染度2とされ、それよりも劣悪な環境、粉塵が舞い、乾燥した工場内に対応した。

 

動作温度範囲についても、IT向けUPSの場合は0~40℃のところ、同製品はマイナス10~55℃まで拡大。湿度も0~95%まで問題なく使うことができる。

今野氏は「IT向けのUPSが使われるデータセンターは温度が一定に保たれた安定した環境なのに対し、工場は切削粉など粉塵があったり空気は汚れ、温度湿度もさまざま。データセンターとは正反対の厳しい環境でも使えるように開発しました」と言う。

 

業界最高レベルの高効率 最大352分間の電力供給が可能

また性能面でも世界トップクラス。効率の良い常時インバータタイプで、クラス最高の力率0.9を実現。750VAタイプで675W、1000VAタイプで900Wの高出力が可能。拡張バッテリを最大10パックを接続でき、それぞれ最大で352分、257分の間、電力を供給できる。

サイズも幅434×奥行き505×高さ85ミリで、2Uラックマウントに収まる小型。縦置き、寝かせても両方で使え、設置スペースの少ない場所にも対応する。

 

導入後の運用・保守の手間が掛からない特別仕様

また導入後の運用をラクにするための工夫も。

バッテリはIT向けに比べて超長寿命タイプを搭載。通常、IT向けの寿命は5年程度だが、同製品は期待寿命8年(25℃使用の場合)に対応。産業機器のライフサイクルに合わせて交換や買い替えの手間を省いている。

また無償の保証期間は3年間に設定。有償で7年までの延長保証も行っている。「IT向けの保証では5年でも長いくらいだが、今回初めて7年まで延長した。これも工場や製造現場の人の使い方に合わせてのことです」(今野氏)。

気になる価格は、標準価格で750VAモデルが19万8000円、100VAモデルが22万8000円。今野氏によると「他社の同等クラスに対しても比較的安価に提供する」とのこと。

 

デジタル化、IoTで重要性が増すUPS

今野氏によると、同製品の発売前から一部の工場でIT向けUPSを製造現場に導入している例があったと言う。

例えば、紙や布、フィルム、薄板、伸線のような素材を連続成形するプロセスや、化学品や医薬品、飲食料品の調合・混合プロセス、印刷や塗装工程など。最近では3DプリンターでもUPSを取り付けることが多いとのこと。一度装置が止まってしまうとそのプロセスごと不良になり、廃棄となってしまうような連続工程で使われていた。

しかしこれはごく一部。デジタル化やIoTの進展により、これから必要となる業界や場所はもっと拡大する見込みだ。

今野氏は「これからの製造現場は装置同士、システム同士がつながり、連携して動いていくようになります。そのためにも各機器の電源確保の必要性が高まり、なかでもPLCや産業用PC、HMI、エッジコンピュータといった装置制御の中心部の保護は重要になっていくと思います」とし、UPSの提案を強化していくという。

 

UPSはスマート工場実現のための重要パーツ

UPSはいまだIT機器向けという認識が根強く、製造現場への普及はまだこれから。UPSはそれ自身が製造装置ではないので直接的に生産性向上にはつながらないが、製造現場のデジタル化やIoT化が進むなかで、機器とデータを保護するためには必須のツールである。

また当たり前のことだが、どんな製造装置も生産ラインも電力がなければ動かない。安定した稼働を行うためには確実に電力供給ができる電源の確保が大前提であり、その意味でもUPSは特に機械や製造ラインのコントロールをつかさどるPLCや産業用PC、HMI、NC装置と一緒に稼働させることで、止まらない製造装置・生産ラインを実現する。

UPSはIT機器のためのもの、データセンターだけで使うものではない。工場のデジタル化を進める上で欠かせないツールである。

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