【FAコンピュータ特集】各分野で好調持続 IoT支える中核的存在に

産業用コンピュータの重要性がますます増している。製造業やインフラ設備など停止が許されない厳しい使用環境での用途に加え、IoTやM2Mに代表される新しいネットワーク環境下で、より現場(エッジ)に近いところでの処理ニーズに対応する端末としての用途も求められてきている。汎用コンピュータとは異なる仕様と供給体制が求められながら、一方ではカスタマーニーズに対応した形状や機能に対応した取り組みが進んでいる。

 

産業用コンピュータは、製造業、非製造業を問わずさまざまな分野で使用されている。製造分野では半導体・液晶製造装置、計測・検査装置、工作機械などのディスクリートの生産設備をはじめ、鉄鋼、石油、化学、紙、食品飲料といったプラント設備などがある。非製造分野では、放送設備、医療機器・設備、鉄道・交通・空港などの管制システム、上下水道設備・ごみ処理設備、ダム監視などの公共システムなど多岐にわたる。いずれも長期間安定した制御が求められ、24時間連続した稼働の用途も多い。

産業用コンピュータの大きな市場の一つである半導体・液晶製造装置の生産は絶好調で推移している。日本半導体製造装置協会(SEAJ)の出荷統計では、2017年度は前年度比121.9%の2兆4996億円で、18年度も108.3%の2兆7072億円が見込まれており、2兆円市場が継続する。スマホの1台当たりの半導体の搭載数が増加し、画面の有機EL採用も進んでいる。IoTに伴う情報化で半導体を使用する、情報端末、カメラ、自動車の自動運転、ビッグデータ処理に伴うデーターセンター需要などで、半導体需要の山谷期間が従来に比べ長くなり、スーパーシリコンサイクルに入ってきていることから、この高原状況が続くとする声が強まっている。

半導体・液晶製造装置と並んで好調なのが工作機械の出荷で、日本工作機械工業会(JMTBA)の17年の出荷額が前年比131.6%の1兆6455億円と過去最高を記録。18年も1兆7000億円と2年連続の過去最高更新を見込んでいる。部品不足で計画通りの生産ができるかが懸念材料になっている。

ロボットの需要も急増している。日本ロボット工業会(JARA)の生産統計では、17年の生産額は前年比128%の9000億円台乗せとなっており、18年はさらに上乗せされて1兆円を突破し、1兆1000億円も見込めるという大きな予想が出ている。国内では深刻な人手不足、海外ではアジアの新興国を中心とした人件費の上昇から生産自動化への投資が急速に増えている。中国では人件費の上昇に加え、工場ワーカーの不足も加わり、自動化は待った無しの状況といわれ、ロボットなどの自動化機械に置き替えが進んでいる。国内でも人手不足に加え、自動機やロボットでないと人では作れないものも増えており、自動化投資が取り組まれている。最近は食品工場や薬品開発・製造でのロボット活用の取り組みが意欲的に進められており、先行き需要への期待が高い。

 

情報端末の役割も

昨今のIoT化の流れの中で、産業用コンピュータの果たす役割もますます大きくなり広がってきている。

今まで産業用コンピュータは、工場やインフラ設備などに代表される24時間連続稼働や、停止が許されない高信頼な制御が求められる用途で数多く使用されてきたが、最近はさらに用途を広げ、インターネットなどをつないだ環境下で使用されるケースの増加とともに、果たす役割が変化し、重要性が増してきている。インダストリー4.0などに代表されるIoTへの対応によって、あらゆるものをつなげることによる情報量は飛躍的に増大し、これを処理するコンピュータシステムの負荷も高まる。

産業用コンピュータも、現場での制御や情報処理する役割に加え、情報端末やゲートウェイとしての役割も加わってくる。用途に応じた産業用コンピュータが使い分けられることが多くなるが、基本的に求められる機能は高い環境特性と長期間の安定した供給だ。特に製造業や社会インフラ用途で使用される産業用コンピュータには、冗長性とリアルタイム性が求められ、末端の各種情報を直接クラウドシステムで処理する方法では、タイムラグによる遅延リスクが懸念される。そこで、センサーなどの下位層に近いところにフォグコンピュータやエッジコンピュータを端末として設置して一定の情報処理を行うことで、上位システムへの情報遅延防止と負荷の軽減を図ろうとしている。同時にインターネットなどとつながることで、外部との接続機会が増加し、制御セキュリティへの対応も求められてくる。工場や社会インフラシステムに対するハッカー攻撃も年々増加しており、制御セキュリティ対策はますます重要性を高めている。

IoTの進展する中で、産業用コンピュータの処理する情報量は増加しており、ハードに求められる機能もますますレベルが高くなっている。

産業用コンピュータ/コントローラは、汎用パソコンとは異なり、長期間の安定した供給体制や、連続稼働に耐える、信頼性の高い設計などが求められる。汎用パソコンのように数年ごとに買い替えするのが当たり前のような使い方に対し、5年、10年と同じ機種をトラブルなく使い続けることが多く、求められる要求レベルも高くなる。

工場の製造現場や重要な設備の制御装置など、長期間稼働を停止することができないシステムに利用されることが前提のため、マザーボードや電源などの重要なパーツには、より高い信頼性と耐久性に優れた部品などが使用されている。例えば温度特性もマイナス25℃~プラス60℃ぐらいの範囲に耐えられる設計で、ファンなどの冷却や加温機器などを使用しないでも安定した信頼性を発揮できる設計となっている。

また、制御機能も、生産ラインでの一体化処理や並行処理ができることで、処理時間の短縮やスループットの向上が図られている。半導体製造関連装置やFPD(フラットパネルディスプレー)製造関連装置分野においては、より複雑なプロセスを短時間で高速処理することが求められており、一つの装置に複数の制御コントローラとFA用コンピュータが使用されているケースが多い。

このような場合、最先端のCPUや大容量メモリなどハイスペックな製品が要求される。インターフェースについても増設コストを少しでも減らすため、豊富なシリアルやUSB、拡張スロットを持つことが要求されている。

拡張スロットは、画像処理ボードやモーションコントロールボード、各種フィールドバスボード、GP/IB通信ボード、AD変換ボードなど、用途別に応じたボードを使用する。シリアルやUSBには、各種ホストコントローラやUPS、計測装置などの周辺装置を接続することが多い。

CPUは、インテルなどの最新プロセッサを搭載することで、演算能力やグラフィック機能の性能が大幅にアップするとともに、消費電力の削減にも貢献している。インテルのBay Trailプロセッサを搭載した最新の機種では、演算能力が従来機種の約2倍となり、より高速な演算処理と省エネを両立している。

 

進むセキュリティ対策 外部侵入防止

産業用コンピュータで最重視されるのが信頼性で、メモリーエラーの検出・訂正などが可能なECCメモリ機能、ハードウエア内部を監視するRAS機能、ハードディスクを切り離すホットスワップ対応ミラーリングディスク機能などがほとんどの製品に搭載されている。

24時間連続的に稼働する厳しい現場では、「いかにダウンタイムを削減できるか」という点も大きな開発テーマになっている。こうした状況を背景に、最近ではWindowsだけでは難しいリアルタイムな制御を実現するため、リアルタイムOSを併用することが増えている。

PLCでは実現できない処理の領域、例えばプロセス処理用の学術計算や、高級言語によるプログラミングなどを実現するため、制御部分はリアルタイムOSで処理、制御以外の部分はWindows OSで処理を行うなど、1台のPCで制御から処理までを行っている。

数年前まで、Windows OSとリアルタイムOSを同時に走らせることは難しかったが、近年はコンピュータの高性能化により、簡単に実現できる。特に最新のプロセッサとリアルタイムOSを有機的に連携することで、リアルタイムによる処理性能も大きく向上、42μ秒で2万ステップの高速処理が可能になっている。

ハードウエアだけでなく、ソフトウエアでも長期のサポートを求めるニーズは高い。特に通信分野ではLinux OSの採用が多くなっている。

産業用コンピュータを取り巻く環境で最近重要性が高まっているのがセキュリティ対策で、外部からのコンピュータへの侵入を防ぐのが目的だ。一般的には、従来外部と分離されていることが多かった工場や公共設備であったが、インターネットなどを介した制御や管理の増加によって従来の隔離された状況を一変させた。事務所などで使うコンピュータではセキュリティ対策はセキュリティソフトの搭載や認証システムなどで対策を行っていることが多いが、工場や公共設備では対策は弱く、被害の甚大化の危険性が指摘されている。

最近の産業用コンピュータは、制御セキュリティ対策を施した製品開発を進めており、いわゆる「ホワイトリスト制御」を行っている。マルウェア情報を検知する「ブラックリスト制御」に対し、動作して良いと判断した「良いもの(ホワイト)リスト」のみを決め、これ以外には動かないように制限を設けるものである。産業用コンピュータ/コントローラのセキュリティ認証制度もできている。また、メカニカル的にも鍵を施錠できるようにすることで、パネルの着脱、USBやストレージへの不正なアクセス操作などができないような対策を行っている。

IoT化が進む中で、産業用コンピュータを高速携帯通信LTEに対応させて、現場とクラウドシステム間のゲートウェイの役割を果たすことで、データの収集、蓄積、分析を行い機械や設備の予知保全やリモートメンテナンスに役立てようとする動きも出ている。

しかし、一方でこうした通信機能を備えていない機械・設備や生産ラインも非常に多い。こうしたところでIoTなどを駆使して生産性を上げようとするときには、既存の資産を生かしながら総合的な設備効率を上げることが求められることになるが、それを容易に実現する産業用コンピュータも登場し始めている。工場のネットワークレイヤーではOPC UAが上位から下位までを包含する標準化を進めており、新たな段階に入りつつある。

通信の動向も絡めながら産業用コンピュータはIoTを支える中核的存在として大きな役割に浮上してくるものと見られる。

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