【提言】2017 CeBITからの発信 『デジタルトランスフォーメーションの衝撃』〜日本の製造業再起動に向けて(27)

2017年5月24日

皆さんは、『デジタルトランスフォーメーション(DX)』という言葉をご存知だろうか?

DXとは、『人工知能など最新技術が活用できる企業』への脱皮を目的とするキーワードであり、クラウドシステムなどを活用したデジタル改革のことである。

中小製造業・町工場の経営者30人に質問した結果、DXを『全く知らない』との回答が、30人中23人にも及び、『聞いたことがある』との回答は9人と少数派であった。DXを理解し、実行に及んでいる経営者は、30人中たった2人である。

日本ではあまり馴染みのないDXであるが、欧米は勿論のこと、アジアでも広範囲に浸透していることは日本の経営者への警告の一つでもある。

先般、ドイツハノーバーで行われたCeBIT(セビット)においては、『デジタルトランスフォーメーションに無限のチャンス』という謳い文句が、強調されており、DXが国際的な関心事になっていることを痛感する。余談であるが『DX(Digital Transformation)』は『DT』ではなく『DX』と訳される。『Trans』は慣習的に『X』と表記されることが原因と思うが、真意は定かでない。

DXとは2004年、スウェーデンのウメオ大学の教授が提言した概念であり、『ITの浸透が人々の生活をあらゆる面で良い方向に変化させる』と解説されているが、この解説だけでは、なんのことか?さっぱりわからない。

では、デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)とはなにか?

近年、インターネットと通信の発展により、クラウドを活用したプラットフォームが急速に台頭してきた。この新しいプラットフォームは『第3のプラットフォーム』と呼ばれ、モバイル・ソーシャル・ビッグデータ・クラウドの4つを要素技術と定義している。『第3のプラットフォーム』の上では、人工知能やVRなど最新デジタル技術が利用できる『仮想空間』が構築できる。仮想空間の誕生により想像を超えるデジタル革新が実現し、ビジネスモデルの大変革が起きると言われている。各企業において、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する際には、『第3のプラットフォーム』の活用を意識することが非常に重要である。

ITの歴史を振り返れば、1964年のIBM System/360から始まった『メインフレームと端末』が大企業でのITの始まりとなったが、これが『第1のプラットフォーム』と呼ばれている。

90年代からダウンサイジングの流れにより『クライアント/サーバシステム』が中小企業にも普及した。これが『第2のプラットフォーム』である。現在各企業では、パソコンやWindowsソフトが活躍しているが、これが『第2のプラットフォーム』の成果物である。

各企業が、クラウドを軸とする『第3のプラットフォーム』に移行し、デジタル改革によって新しい事業モデルを創造することが、『デジタルトランスフォーメーション(DX)』の真髄である。

金融界の『FinTech』や製造業界の『インダストリー4.0』、そして話題の『IoT』のすべてが、DXの範疇であり、DXとは全業種・全業界に広がる未来像である。『第3のプラットフォーム』には企業規模や国境などには全く関係なく、人類の活動を根本から変える魔力を備えている。

製造業界では、大企業のみならず、中小製造業・町工場においても、今日まで『第2のプラットフォーム』を活用し、デジタル化を推進してきた会社は数多く存在する。一般的な中小製造業では、CAD/CAMシステムや生産管理システムなど優れたソフトウェアを導入してきた。

結果として、事務所には数多くのパソコンが設置され、事務所の社員全員がパソコンを操作して仕事をこなしている。加工機も、CNC付きマシンや自動機・ロボットなど、PLCやコンピュータが搭載された機械が多く設備され、事務所とネットワークで繋がり、スケジュール化された自動運転システムも多く稼働している。

これらは全て『第2のプラットフォーム』での設備投資の結果であり、今後も継続的な競争力強化のために、パソコンやWindowsソフトを購入したり、新規の最新鋭機の導入も必要となる。

しかし、『第2のプラットフォーム』上での強化だけでは将来の企業競争に勝てず、将来に向けた有効投資は『第3のプラットフォーム』の活用であり、インダストリー4.0とは『第3のプラットフォーム』によるDXの実現と言っても過言ではない。

『クラウドは危険だし、スピードが遅いから当社はクラウドを使わない』とおっしゃる中小企業経営者に時々お会いするが、デジタルトランスフォーメーションの世界的潮流とその効果を知れば、考えが変わるはずである。

未来への扉を『開くか』『閉じるか』は、ちょっとした判断が分水嶺となる場合が多い。例えば、クラウドの活用をちょっとした判断で拒絶してしまったら、『第3のプラットフォーム』への入り口の扉を閉めてしまう結果となる。

使い慣れたWindowsパソコンとソフトだけでは、未来の扉が開かないことを『デジタルトランスフォーメーション』が示唆している。

◆高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。