産業用(FA)コンピューター/コントローラ 24時間稼働の分野へ普及

産業用(FA)コンピュータ/コントローラは、工場などの生産現場から交通システム、上下水道施設などの社会インフラ分野、病院、研究施設、放送機器など24時間連続して稼働する用途へ広がりを見せている。半導体技術の進歩で処理能力の高速・高容量化が著しいが、最近は工場の上位から下位、周辺機器までを含めたつながりの良さも求められつつある。生産と市場のグローバル化で、産業用(FA)コンピュータ/コントローラについても同様の動きが進展しており、取り巻く環境はここ数年で大きく変化することが予想される。

■温度対策が大きなポイント

産業用(FA)コンピュータ/コントローラは、振動や高温多湿など厳しい製造現場においても長期的に安定稼働することが、汎用パソコンとの違いとして普及してきた。製品や補修部品の供給も長期的な体制で取り組んでいる。現在もこういった対応の違いが大きなポイントであることには変わりない。

医療用システムなどの用途では、使用開始前に稼働の評価試験を行っておく必要があるが、汎用パソコンのように販売期間が短いと、買い替えのたびにこの評価試験が求められ、導入時の煩雑さが増してくることになる。交通システムでは、汎用パソコンでは難しい24時間連続稼働や、長期間の運用に伴う製品供給と長期間の保守などが必要だ。産業用(FA)コンピュータ/コントローラはこうしたニーズを取り込むことで、評価を高めている。

こうした用途で信頼性を確立するために、内蔵されている電子部品が使用周囲温度によって寿命が左右されることによる温度対策は大きなポイントのひとつで、長期間過酷な使用に耐えられる部品選定に加え、最適な温度対策が必要になる。吸排熱を最適に行える筐体設計と部品の配置で、温度上昇をなるべく抑える工夫、メンテナンス時などに寿命の来たハードディスク、冷却ファン、リチウム電池などの交換を容易に行える設計構造などで、産業用(FA)コンピュータ・コントローラが機器などに組み込まれて使用されていても、本体を全部取り出さなくても、前面から交換作業ができるように設計しておくことも重要だ。

■ファンレス設計が増える

また最近、冷却ファンを持たないファンレス設計の産業用(FA)コンピュータ・コントローラも増えている。冷却ファンを持たないため、ファンの定期交換が不要になり、ファン回転による騒音や塵埃の吸引・飛散などが防げることになる。冷却ファンを使用しないで済むように、空気が流れやすいようなケース設計や、ヒートシンクやペルチェ素子といった無音の排熱装置を利用したりしている。電子回路の省電力設計によって発熱量自体を抑えることでファンレスを実現する方法もある。

最近の産業用(FA)コンピュータ/コントローラには、企業の情報系機器と制御系機器とのつながりを重視するニーズが高まっている。ICT(情報通信制御)による生産現場の上位から下位システムまでが異機種でもつながり稼働することが求められ、新たな市場での評価が出てきた。リアルタイムで稼働することが求められる機器とノンリアルタイムの機器がシームレスに違和感なくつながって通信制御できる、しかも異なるメーカーの機器とも親和性を発揮できることなどが求められてきている。

■高効率・高速のマシン制御

同時に、複数台のPCや周辺装置、それらを連携する通信部分を、コンパクトに集約することが進んでいる。1台で操作から制御までが可能な産業用(FA)コンピュータ/コントローラも開発がされてきており、高効率でより高速のマシン制御が可能になっている。こうしたシステムは、HMIから同期制御、画像処理まで対応でき、装置の小型化や処理能力の向上、保守部品・運用コストの低減など、様々なメリットを生み出している。

産業用(FA)コンピュータ/コントローラ1台で、画像処理からモーションの実行、HMI処理までを行い、Windowsを使用することなく、リアルタイムOS上での高速画像処理が可能になっている。1万分の1秒というリアルタイム化の実現で、タクト時間が要求されるシビアな用途にも対応する。

■ワンボックス化の動き活発

北米や欧州では、複数のPCや周辺装置を1台のPCに集約するワンボックス化の動きが活発で、コンピュータから各種フィールドバスボードを経由し、I/Oを直接制御するというケースが主流になりつつある。

一方、顧客のニーズに応じた拡張やカスタマイズも進んでおり、プログラムレスによる画像処理アルゴリズム構築が可能になっている。例えば、大量のデータがリアルタイムで流せる1GbitのEthernetGigEカメラと併用することで、欠陥検出や位置決め、測長、文字検査、簡単な分類などの用途に採用されている。

■ICT時代の中核を担う

いまドイツを中心に「Industry4・0」という概念が提案されている。ICT時代の第4次産業革命とも言われているが、ここでは工場内の装置が自律的にお互いに連携しながら稼働することで、生産性の向上と使用エネルギーの削減などを目指そうというもので、産業用(FA)コンピュータ/コントローラはこの中核を成す重要な地位を形成している。

半導体技術の日進月歩で、産業用(FA)コンピュータ/コントローラのCPUの演算能力やグラフィック機能の性能が大幅に向上し、インテルのBay
Trailプロセッサを搭載した最新の機種では、演算能力が従来機種の約2倍となり、より高速な演算処理が可能になっている。グラフィック機能も従来の約3倍となり、これまで難しかった高精細の動画再生も容易に実現できるようになり、使用分野の拡大が期待されている。

さらに、省エネ設計も進み、消費電力は従来の約半分になるなど、高いバリューパフォーマンスを提供している。

■一体化処理、並行処理が可能

機能面でも、従来別々であった工程を一体化処理や並行処理することが可能となり、処理時間の短縮やスループットの向上が図られている。例えば、半導体製造関連装置やFPD製造関連装置分野においては、より複雑なプロセスを短時間で高速処理することが求められており、1つの装置に複数の制御コントローラとFA用コンピュータが使用されているケースが多い。

このような場合、最先端のCPUや、メモリー2GBクラス以上のハイスペックな製品が要求される。インターフェイスについても増設コストを少しでも減らすため、豊富なシリアルやUSB、拡張スロットを持つことが要求されている。

拡張スロットは、画像処理ボードやモーションコントロールボード、各種フィールドバスボード、GP/IB通信ボード、AD変換ボードなど、用途別に応じたボードを使用する。シリアルやUSBには、各種ホストコントローラやUPS、計測装置などの周辺装置を接続することが多い。

■コピー防止機能が重要に

産業用コンピュータ/コントローラには様々な仕様が要求されるが、最近ではコピー防止機能が重要になっている。特に受託開発の分野では、技術が海外に流出することを防ぐために、ハードとソフト両面でコピー防止を行うケースが増えている。

産業用(FA)コンピュータ・コントローラのOSはWindowsが多いが、Linuxやリアルタイム制御に対応したOSも使用されている。この背景には、PLC(プログラマブルコントローラ)では対応できない処理領域、例えばプロセス処理用の学術計算や高級言語によるプログラミングなどを実現するため、制御部分はリアルタイムOS上による処理、制御以外の部分は通常のWindows
OS側による処理を行うなど、1台のPCで制御から処理までを行っている。最新のプロセッサとリアルタイムOSを有機的に連携することで、リアルタイムによる処理性能も大きく向上、42μ秒で2万ステップの高速処理が可能になっている。

■EtherCATに関心

日本を含むアジア市場では、PLCの使用割合が多いが、超高速フィールドネットワークとして、EtherCATなどへの関心も高まっている。EtherCATは、産業用ネットワークとして実績のあるEthernetをベースにしたもので、高効率で超高速通信を実現し、リアルタイム制御が可能なのが特徴だ。

HMI端末や生産ラインの情報収集端末として使用される産業用(FA)コンピュータ・コントローラは、コンパクトな筐体、ファンレス対応、低コスト化など、組み込みに適した仕様も進んでいる。上位サーバからの製造指示を確認し、それに基づく作業内容をPLCや温度調節計などの各種コントローラに指示し、その結果を収集する用途などに使用されている。この場合、端末で複雑なデータ処理をすることは少ない。

装置メーカーは、他社との差別化を図るための独自技術として、汎用アーキテクチャを選択するケースが増えている。GUI構築などについては、HMIソフトウェアなどを導入し、画面の見映えや、PDFなどのドキュメント閲覧機能、リモートモニタ機能などを構築することで、アプリケーションとしての付加価値を高めている。

一方、ローエンドユーザーでは、パネルコンピュータよりPD(プログラマブル表示器)などを使用するケースが多く、専用のPDと汎用のパネルコンピュータとの間で、HMIアプリケーション資産をどのように流用できるかが、プログラミング上の課題となっている。

■拡大する組み込み用途

産業用(FA)コンピュータ・コントローラの今後は、OSの遷移やPCIからPCI Expressへの移行、リアルタイムOSでの高性能化するハードウェアに対応したマイクロ秒単位での指定など、タイマー関連の機能などが強化されることが見込まれている。

生産と市場のグローバル化が進む中で、産業用(FA)コンピュータ/コントローラも海外市場の開拓が今後進むものと見られ、販売体制や販売後のサポートも必要になってくる。用途と機能の多様化で産業用(FA)コンピュータ/コントローラを取り巻く環境はここ数年で大きく変化することが予想される。”

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